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三浦半島釣り魚図鑑(44) タイワンガザミ

その日息子は、スマホゲーム、ポケモンGoのイベントがあって、わざわざレアなポケモンが出現する時間を狙って人が集まるところに行ったのに、結局捕まえることができず、残念な顔をして帰ってくるなり、「夜釣りいきてー」と言い出した。オンラインの世界のうさをリアルで晴らす、悪くない選択だ。

確かに風がなく、雨予報もなく、(行ってわかったことだけれど)潮はこれから満ちてくるところで、寒くも暑くもない釣り日和だったので、久々に行こうか、と親子で夜釣りに出かけたのだった。

いつの間にか息子は釣りに関しては頼れる兄さんになっていて、私の分の釣竿を用意すると、糸の先を○○なんとかノットというほどけにくいやり方で結んで、サルカン(連結金具)にしかけをつけるところまで勝手にやってくれた。なんなら私の投げ方が下手で竿を壊さないか心配して、投げるところまでやってくれそうだったけれど、それでは意味がない、と断る。

今までになく遅い時間のスタートで短期決戦を強いられる中、まず、パパがキスやゴンズイを数匹釣り上げる。魚の動きは悪くない予感、だけれど、私と息子にはアタリがない。私に至っては、何投目かで竿の先にしかけがからまっているのに気づかずに投げてしまったらしく、竿を投げた瞬間におもりと仕掛けが闇に飛んで行って消えてしまう。

そして、あわてて家を出たので、おもりの入ったケースを忘れてしまったらしく、替えのおもりはやたらと重いやつになってしまった。先ほどよりさらに慎重に竿をこわさないようにふんわり投げる。

しばらくしてリールをまくと、なんだかやたらに引っかかる感じ。でも、重すぎるおもりのせいに違いない。いわゆるアタリは感じないので、海の底のゴミでも釣っちゃったかな、それはそれで笑えるのでとりあえず釣ろう、と糸をひくと、キラリと銀色っぽく光る板状のものが見えた。

まさか魚?、それとも鍋のフタかな、と思いながらさらに引くと、私が見つけるより早く、息子がガザミだ!と叫ぶ。確かにハサミと足をばたつかせたカニがぐんぐん岸へ近づいて来る。

でも実は今日はタモも忘れていた。来る途中で気づいて、でも、ま、俺が海に入って獲るからいいよ、なんて息子が言うので、取りに戻らず来てしまったことを後悔。もう、なるようになれ、とそのままリールをぐんぐん引きながら、カニが水面からあがる瞬間に竿をぐいっと持ち上げると、奇跡的にカニは落ちずにそのまま宙を舞って私の方へ一直線に飛んできた。ひえーっと横に飛んで逃げる私。

鮮やかなブルーのハサミ、オールのような足、間違いなくオスのタイワンガザミ!しかもかなり大きい。息子が、いつもスーパーで買うやつよりぜんぜん大きい、と喜びながらハサミを押さえつけて針をとってくれる。逃げられないように袋に入れて捕獲。でも、ハサミで切って逃げかねないほどの元気の良さだった。

あとで測ると、甲幅15cm、ハサミを広げて最大に大きくすれば体長50cmにもなる大物だった。実はタイワンガザミはかなり前にも一度釣ったことがあったけれど、その時のものより断然大きい。めっちゃうれしい!

ガザミは別名ワタリガニといい、泳ぎが得意な秘密は一番下の脚にあって、足先がオールのような丸くて平べったい形をしている。調べてみると、渡り鳥のように長い距離を渡る訳ではなく、冬は深い沖のあたりにいて、夏になると沿岸近くに泳いで来るということらしい。時期からすればちょうど浅い方へやってきたところだったのかも。

結局この日、息子はわたしの釣果につられて、岸近くのところに見えていたイシガニを釣って終了。カニ釣りの日となった。

カニはちゃんと締めないと脚がとれてしまうので、(しかも生きていたらどんどん動いてしまうので)家に帰ったらまず氷水で冷やして動きを鈍らせて、口のあたりから串を刺して締める。そのあたりも頼もしい兄さんに全部やってもらう。

コバルトブルーの足先の色、ハサミのブルーから紫、水色のグラデーションの美しさ、甲羅の宇宙人みたいな模様、絵になる魚介ナンバー1ではないか、と思う。派手なカニが釣れたうれしいテンションで一気に描きあげた。

特にびっくりしたのハサミのギザギザの部分。突起は、ギザギザというよりは、人間の奥歯のような感じで上下が噛み合わさるようになっていて、面ですり潰すように閉じる。ハサミというよりは、上顎と下顎で噛むことのできる大きな口を両手に持っているように見えた。ハサミにつながる脚の部分も、ぴかぴかのエナメル質で、硬い。

左右4本ずつある脚は、特に爪先のほうでブルーの色がひときわ濃くて、茶色っぽくやわらかい毛が生えている。全体に白い水玉が星のようについていて、宇宙を思わせる色彩。

カニはみんなそうだけれども、口の前のところに、小さな手のようなものをつかんで口に運べる器官があって、それで口に餌を入れている。今回の針もしっかりこの口の前の突起にかかっていた。

いつもカニは味噌汁にすることが多いけど、今回は大きいので蒸してみた。カニみそたっぷり。身はぎっしり。そのまま蒸しただけなのに、甘みと塩のバランスがばっちり。んまーい!小さい頃はカニ好きな息子のために殻を割ってあげていたものだけれど、最近は力も私より上。ここ、おいしいから一口食べな、先に足先を折ってスジを抜いてから食べた方がいいよ、などと、先輩の口ぶりで教えてくれるのがなんだか感慨深い。

結局ふたりでガザミをほとんど食べ尽くす。この日息子が釣ったイシガニも内子が入っていてなかなか上物だった。かに味噌の味も身の味もイシガニのほうが上かな、と思ったくらい。

パパが釣ったキスとゴンズイは定番の唐揚げに。こちらも安定のおいしさ。やっぱり捕まえたものは食べて楽しむことができてなんぼのもの。ポケモンなんてどれだけ珍しくたって食べれる訳じゃなし、カニが釣れる方がいいよね、と言うと、なんでそう言って思い出させるのー、と怒られてしまった。確かに大物釣ったのは私だったし、それはそれ、これはこれ、か。


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