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ただ”始める”だけじゃ意味がない!?新しい自分になるための3ステップ

本記事が公開される年末年始には「1年間のふり返り」と「1年の目標設定」をする人が多いのではないでしょうか?

実際に、年始に向かって「抱負」の検索回数は増加傾向にあります。

この記事では年末に限らず、人生の転機や節目にあり、何かを始めようとしている人のために生涯発達(※1)の観点から「新しいことを始めるための手順」をご紹介します。

20代前半で脳出血を発症し、さまざまな転機と始まりを経験してしてきた私のエピソードも併せて、何かを始める際の参考になれば幸いです。

▼脳出血発症~復職・転職についてまとめた記事はこちら

※1 生涯発達…環境に適応しながら、死に至るまでの身体的、運動的、情緒・欲求的、認知的、社会的側面の変化過程のこと

新しい自分になるための3ステップ

年末年始しかり、人生の転機や節目には「何か新しいことを始めたい」「心機一転、頑張りたい」と思うものです。

私も脳出血から復職した2018年~2020年3月の間は業務関連の講座やセミナーに通ったりと「新しいことを始めよう」と向上心(感情)のまま、動き回っていました。

しかし「新しいことを始めよう」と動いていた頃は、自分の症状や上下肢麻痺の障害について向き合う意欲が低く、身の丈に合った行動ができていなかったように思います。

そして2020年の半ば、自分が身体症状や脳機能の低下に未だ向き合えていないことに気付き、2021年の1年間は「症状認知に努める」ことを目標に以下のマガジン「社会復帰 脳how」の更新に注力することを決めました。

さらに症状や脳機能の低下に向き合うため、上昇志向が強かった会社から、自分の能力を分析しながら、業務改善がしやすい社風の会社へ転職することを決めたのもこの頃です。

このように私の人生において、転機を踏まえた人生へ軌道を修正するには「脳出血前の自分を終わらせる」ことがトリガーになっていたことが分かります。

ここからはウィリアム・ブリッジズの『トランジション』を参考に新しい自分になるための3ステップをご紹介していきます。

この本によれば、病によって生き方や仕事の仕方が変化した私のように、人生の転機にある人が新しい自分になるステップは「終わり→ニュートラルゾーン(猶予期間)→始まり」の3つに分けられると言います。

また、この3つのステップを「トランジション」と呼び、状況が変化したことによる心理的な変化(=アイデンティティの再構築)を表すそうです。

ウィリアム・ブリッジズ『トランジション 人生の転機を活かすために』を図式化

トランジションが起こるときとは?

ウィリアム・ブリッジズはトランジションが起こるパターンを次の5つに分けて解説しています。

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1.関係の喪失
配偶者の死、ペットの死、友人と疎遠になったなど、今までの関係が切れてしまうこと

2.家庭環境の変化
結婚、出産、配偶者の退職、家族の病気と回復など、家庭生活の内容や質が変化すること

3.個人的な変化
自分の病気と回復、大きな成功や失敗、入学や卒業などライフスタイルや外見が変化すること

4.仕事や経済上の変化
解雇、退職、組織内での配属転換、収入の増減など

5.内的な変化
社会的、政治的自覚の深まり、自己イメージや価値観の変化など
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あなたが今置かれている状況は含まれていましたか?

先にご紹介したパターンに、あなたの状況が含まれる場合は、心理的に変わる必要性がある、つまりアイデンティティを再構築すべき状況に居るということです。

このように状況を把握したら、アイデンティティを再構築するために、古い自分を終わらせる「終わり」のステップに踏み出す必要があります。

終わりの過程

ウィリアム・ブリッジズはアイデンティティを再構築するための「終わり」には次の5つの過程があると解説しています。

1.離脱

まずトランジションの第一ステップにあたる「終わり」は離脱から始まります。離脱とは、慣れ親しんできた場所や社会的秩序から離れることです。

脳出血当事者に当てはめるなら、離脱は入院している病院からの退院や、脳出血当事者同士のコミュニティ、また両親から離れることに当たるでしょう。

結婚により家庭環境に変化があった方に当てはめるなら、実家や両親から離れ、パートナーとの同居や関係構築に努めることに当たります。

2.解体

解体とは精神科医エリザべス・キュープラー=ロスが提唱した「悲嘆のプロセス」で生じる感情反応を指します。

悲嘆のプロセスは末期患者が自分の死を受け入れる際の認知プロセスを示したものですが、アイデンティティの再構築は「古い自分の死」を表すため、大風呂敷とは言えないでしょう。

実際に以下の記事でも引用しているように、脳卒中当事者が症状や障害を認知する過程の中に「悲嘆」が含まれています。

▼参考記事はこちら

3.アイデンティティの喪失

アイデンティティの喪失は離脱・解体の中で自己を定義するための手段を失ってしまうことを指します。

実際に社会情勢により退職を余儀なくされた方や、脳出血当事者の中には「どのように生きれば良いか分からない」と感じた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

4.覚醒

かつてのアイデンティティを喪失した後、喪失前の世界がもはや現実ではないと気付くことを指します。

またウィリアム・ブリッジズは「終わり」のプロセスの中の「覚醒」について以下のように述べており、他者と関わったり、事実を認識することで現実と向き合っている状況を表しているとも言えるでしょう。

覚醒のプロセスは、古い現実は頭の中にあって外部にはないことを理解することから始まる
ウィリアム・ブリッジズ『トランジション 人生の転機を活かすために』

5.方向感覚の喪失

「終わり」の中の1~4の過程をとおして、変化した環境や立場などの現実と向き合った後に「終わり」のプロセスの最終段階に訪れるのが方向感覚の喪失です。

古い価値観や生き方を棄て、新しい自分で生きていかなくてはいけないと分かった時、「これからどのように生きれば良いのか」と方向感覚が喪失することは想像しやすいのではないでしょうか。

例えば私の場合、2021年の1年間で高次脳機能に関する本を読み漁り、CT画像や専門家の意見を参照の下、高次脳機能の低下(=現実)を認知した矢先にやってきたのは、将来に対する漠然とした不安でした。

つまり方向感覚の喪失によって被害を受けるのは、将来に対する計画だと言えます。

虚無感への意味づけ~ニュートラルゾーン~

ニュートラルゾーンは「終わり」によって方向感覚が喪失し、将来に対する計画が不明瞭になった後にやってくる期間で、「終わり」から「始まり」への橋渡しになるステップのことです。

ニュートラルゾーンでは新たな方向を定めるために、さまざまな情報を収集し、都度人生選択をする必要があります。

しかし人生選択の情報を素早く集め、分かりやすく進めることは難しいため前進している感覚が得られず、虚無感に繋がるようです。

このステップは生産性が求められる現代では無駄だと捉えられがちですが、脳出血を発症するという大きなトランジションを経験をした私からすると、このステップこそ重要だと言わざるを得ません。

なぜなら、かつてのアイデンティティが瓦解し、将来の方向感覚を失った後に新たなアイデンティティを構築し、将来のために行動する準備期間に当たるからです。

それではニュートラルゾーンをどのように過ごせば「始まり」に繋がるのでしょうか?

参考書によれば、以下の7つがニュートラルゾーンを「始まり」に繋げるために必要な行動だと言われています。

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1.ニュートラルゾーンで過ごす時間の必要性を認める

2.一人になれる特定の時間と場所を確保する

3.ニュートラルゾーンの体験を記録する

4.トランジション体験を振り返る

5.本当にしたいことを見出す

6.もし今、死んだら何が心残りかを考える

7.数日間、トランジションの意味を振り返る
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2021年に脳出血後の脳機能低下やそれに伴う生活・仕事の仕方を見直して新たな人生をスタートさせた私の経験から、特に重要な項目を太字表示にしました。

「1.ニュートラルゾーンで過ごす時間の必要性」は本記事や参考書をとおして認めていただければ良いのではないかと思っております。

ニュートラルゾーンは1人で考えなくてはいけない時間が増えるため、精神的にも辛いステップです。

ぜひ同じ悩みを抱えている方や、家族・パートナーとの対話から新しい人生に進むための活力を得てくださいね。

新しい人生に必要なもの

ここまで、新しい人生や何かを始めるために必要なステップについてご紹介してきました。

人生の節目や転機には、他の誰かに向けて決意表明をする風潮がありますが、まずは「新しい自分になるために終えること」を見つめることから新しい人生は始まります。

転職、退職、病や結婚などの大きな変化でアイデンティティが喪失した後には曖昧模糊とした日々が無意味に感じることもあるかと思います。

しかし無意味に感じている日々や新しい人生に意味をもたせられるのは、他の誰かではなく、トランジションをとおして成長した自分自身です。

最後に

2020年から2021年にかけては変化の年で、仕事や日常生活で苦労された方も多かったかと思います。

また脳出血当事者さんの中には身体の麻痺や脳機能の低下だけではなく、それによる人生の喪失感に苦しみ続ける方もいらっしゃいます。

この記事が上記のようなトランジションを経験している方の助けになれば幸いです。

2022年も、私と共に生きていきましょう。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

ぜひコメントで記事の感想やご自身の体験を教えてくださいね。

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