帰り道
(今日こそやるぞ…やるったらやるんだ…やるやるやる殺る殺る殺る)
キラリと光る包丁
「おい動くな」
OL(推測)の背中にぴたり。と突きつけられた。
俺は、限界だった。
「今からお前を殺す」
失うものもなく、ただただ世間を憎んでいた。
「いいか、お前はこの包丁で殺されるんだ」
目の前のOLはそんな俺に不幸にもターゲットにされた。
「分かったか、俺は今からお前を殺す。殺すんだ。」
OLは、一瞬息を呑んだが、とっさにカバンの中を探り俺にある物を突き返した。
「わ、わた、私を殺す前に、からあげクン(すだち味)を食べませんか!?」
意味が分からなかった。
「は?」
俺は包丁を下げて、OLと対峙した。
何故、包丁を持った男とからあげクンを持った女が向き合っているのか、それは当事者にも本当によく分からなかった。
「俺は、お前を、殺すんだぞ、殺すって言ってんだ、からあげクン食べてる場合じゃねえだろ」
「でも、死ぬ前に食べたいです。これ、新味なんですよ!」
理屈が通ってない。
声に出そうとしたその瞬間、俺の腹が鳴った。
「ほ、ほら!!返事、返事したでしょう!食べましょうよ!からあげクン(すだち味)!!わ、私もまだ食べたことないから分からないですけど、きっと美味しいですよ!!」
迷った、迷いが生じた。食べるか食べないか。殺るか殺られるかではなくなっていた。
だが、腹は正直だった。
「分かった、食べる。食べたら殺す。食べたら絶対お前を殺してやるからな、こ、この包丁で」
「食べましょう!食べてください!さあほら!」
OLは返答を待たず俺の空いた口にからあげクン(すだち味)を一個突っ込んだ。
「すだちだ。すだち味のからあげクンだ…」
OLもぱくりと食べる。
「本当ですね、すだちの味がして…美味しいです」
「ああ、美味いな」
「……」
もくもくと、一つ一つ交互にからあげクン(すだち味を口に含む。
「…でも、俺はやっぱりレギュラーだな」
無意識に俺はぽつり、とそう呟いていた。
「…あ、分かります。やっぱりからあげクンといえば…ですよね、私も買いますし…」
気づけば残り一つになっていた。
「あ、ど、どうぞ」
「あぁ…どうも」
パクッと最後の一つを口に含む。
気付けば殺意はすだちのようにさっぱりと消えていた。
「じゃあ…私、こっちなので」
「お、おぉ…じゃあ…あ、あの…美味かったです」
「はい!」
にこやかに去るOLの後ろ姿を見て、俺は帰路に向かう。
からあげクンすだち味の食べ終わった入れ物と、何も殺めなかった綺麗な包丁を携えて、
「まぁ…明日も頑張るか…」
と思いながら俺は家に帰った。
完