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めくってみたい

種田山頭火いわく「私はまた旅に出た。愚かな旅人として放浪するより外(他)に私の行き(生き)方はないのだ」(行乞記)
私もまた散策に出た。愚かな暇人として放浪するより他にすることはないのだ。

自宅から歩いて30分ほどの桜並木の名所までは、いつもなら住宅街を抜ける細い近道を選ぶのだが、この日は散策目的故あえて別の道を通ってみることにした。トボトボと、しかしキョロキョロしつつ歩いて約15分後、それでも自宅前のコンビニ行くにもクルマという田舎の尺度ではほぼ近所と言ってよい距離の、とある砂利敷きの簡素な賃貸駐車場の隅に、破れたカバーが掛けられた1台の車が佇んでいるのを見つけた。やけに車高が低く一見して高級スポーツカーを想像させるこの車に興味を覚えた私は、この車が何であるのかを見学させてもらうことにしてヨロヨロと近づいてみた。

うーーん?

2000年あたりのフェアレディZ?なんか違うな。ポンティアックトランザム?それも違うぞ。
気になる。かけられたカバーを少しめくってみたい。覗きたい、ああ辛抱たまらん。ちょっとだけ。

「お、奥さん!グヘヘッ!き、きょうのパンツ、何色?ちょっとその裾のあたりめくっていいですかあ?」ジュルジュル(涎)

だめだって!
今時、人様の駐車場で人様の車に触れるなんてさすがに許されないので、触れずに覗ける部分をよく見て特徴を探るのみ。ああ、でもちょっとでいいからその足下をめくってみたい。でも我慢。
まず全面に掛かっているはずのカバーはルーフ上だけがほぼ全面破れてしまっているのね。経年劣化だよね。でも塗装は、それほど日焼による退色はしていないので破れたのはそんなに以前ではない。破けたカバーからは後席横にあるプラスチック製インテークがチラ見できる。ついでにタイヤはパンクこそしていないものの、エアが抜けてバリバリの扁平タイヤの体を見せているのね。他にもカバーの破れを注意して見ると、おっ!ボンネット前面中央にあるエンブレムのあたりがきれいに破れてる。ついでにひらひらとめくれ上がっているのがわかって狂喜乱舞。

じーーーーっ!
触らないけれど、ガン見!

わあ、ALPINE、アルパインじゃあないよ。アルピーヌだ、や、やべえ。素敵すぎる。奥様に例えるなら、鵠沼あたりにお住まいで旦那がデザイナー兼サーファー、子供は小学生の男の子ひとり、つけている下着はフランス製。その下着をチラリと拝見してしまったと言う現場がまさにここなのであーる。

さて、お一人様花見も寂しくて早めに帰宅した俺は、その時撮った写真を元に早速ネットで調べてみた。
たぶんだけど、あれ。

アルピーヌa610

下回りの程度は?エンジンの状態は?ゴム類のへたりは?まあ、あっちこっち手を入れなくては、まっとうには走りませんて、とか言いながら欲しい。
なぜならオレ男の子だから。本人至ってまじめに妻に相談しましたよ、もう1台車買っていいかって。でも動かないけどって。
妻「あんた、本気で言ってるの?」
俺「本気で言っているんだけど、うんいいよっていわれても困ります。はい」
妻「なんじゃそりゃ?」
話は唐突に始まったが、いきなり終わった。

これを読んでいるあなた(男)どう?