住宅ローン滞納などの場面でもリカバリーできるか【住宅資金特別条項付き個人再生③】

 一般的な感覚として、どうにか住宅ローンを支払い続けられている場面であれば住宅資金特別条項(以下「住特条項」)付き個人再生が利用可能なのだろうとわかるでしょうし、住宅ローンを滞納して競売にかけられ第三者に取得されている場合には住特条項付き個人再生は利用困難だろうとわかるかと思います。

 では、住宅ローンを滞納している場面や、住宅ローンを滞納して保証会社が代位弁済している場合などはどうでしょうか。
 今回は、民事再生法が定めている住特条項の種類などから、どのような場面であればリカバリー可能かということを整理したいと思います。

1 住宅ローンの支払いが継続できている場合

 例えば、約定通り住宅ローンの支払いができているが、他にも借金があり個人再生をしなければ生活再建ができない、という場合です。
 ご想像のとおり、このような場合、住特条項付き個人再生を行うことは可能です。

① 個人再生の申立てまで通常通り住宅ローンを支払う

② 個人再生の申立後弁済許可を受けて(民事再生法197条3項)住宅ローンの支払いを継続する。

③ 再生計画において、従前の住宅ローン契約の約定通りの支払いを行う旨の条項を定める

という流れで進めればよい、ということになります。

 当初の約定通り住宅ローンの支払いを行う類型なので、「約定型」「そのまま型」などと呼ばれたりします。

2 住宅ローンの支払いを滞り、期限の利益を失っている場合

 住宅ローンの支払いが遅れてしまい、期限の利益を失ってしまった場合(一括返済を求められている場合)も住特条項付き個人再生を行うことは可能です。

 「期限の利益回復型」(民事再生法199条1項)と呼ばれる住特条項を定めることになります。

 滞納分は、一般弁済期間(再生計画で定める弁済期間)内に一括または分割で弁済し、滞納していない部分については、もともとの住宅ローン契約で定められていたように、支払っていくことになります。

(住宅資金特別条項の内容)
第百九十九条 住宅資金特別条項においては、次項又は第三項に規定する場合を除き、次の各号に掲げる債権について、それぞれ当該各号に定める内容を定める。
一 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来する住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを除く。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息(住宅資金貸付契約において定められた約定利率による利息をいう。以下この条において同じ。)並びに再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償 その全額を、再生計画(住宅資金特別条項を除く。)で定める弁済期間(当該期間が五年を超える場合にあっては、再生計画認可の決定の確定から五年。第三項において「一般弁済期間」という。)内に支払うこと。
二 再生計画認可の決定の確定時までに弁済期が到来しない住宅資金貸付債権の元本(再生債務者が期限の利益を喪失しなかったとすれば弁済期が到来しないものを含む。)及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息 住宅資金貸付契約における債務の不履行がない場合についての弁済の時期及び額に関する約定に従って支払うこと。

3 リスケしてもらわなければ住宅ローンの支払いができない場合

 期限の利益を回復するだけでは履行できないけれども、リスケしてもらえれば履行できる、という場合にも住特条項付き個人再生を行うことは可能です。
 「リスケジュール型」と呼ばれるパターンです(民事再生法199条2項)。

・リスケ可能な延長期限は10年間である

・延長後の最終弁済期に、再生債務者が70歳を超えていてはならない

などの条件があります。 

2 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には、住宅資金特別条項において、住宅資金貸付債権に係る債務の弁済期を住宅資金貸付契約において定められた最終の弁済期(以下この項及び第四項において「約定最終弁済期」という。)から後の日に定めることができる。この場合における権利の変更の内容は、次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 次に掲げる債権について、その全額を支払うものであること。
イ 住宅資金貸付債権の元本及びこれに対する再生計画認可の決定の確定後の住宅約定利息
ロ 再生計画認可の決定の確定時までに生ずる住宅資金貸付債権の利息及び不履行による損害賠償
二 住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期が約定最終弁済期から十年を超えず、かつ、住宅資金特別条項による変更後の最終の弁済期における再生債務者の年齢が七十歳を超えないものであること。
三 第一号イに掲げる債権については、一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には、当該基準におおむね沿うものであること。

4 元本の支払いを猶予してもらわなければ住宅ローンの支払いができない場合

 リスケジュール型によっても再生計画案に基づいて債務の履行をすることが困難であるけれども、リスケジュールをしてもらい、かつ、一般弁済期間中は元本の一部を猶予してもらえれば債務の履行ができる、という場合にも、住特条項付き個人再生を行うことは可能です。
 これは、「元本猶予併用型」と呼ばれます(民事再生法199条3項)。

 一般弁済期間中は、住宅ローンの元本の一部と期間中の約定利息のみを支払えばよいことになります。
 元本猶予期間後は、残元本及び利息並びに損害金を支払うことになります。

 リスケジュールに関する条件は、リスケジュール型と同様です。

3 前項の規定による住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の見込みがない場合には、一般弁済期間の範囲内で定める期間(以下この項において「元本猶予期間」という。)中は、住宅資金貸付債権の元本の一部及び住宅資金貸付債権の元本に対する元本猶予期間中の住宅約定利息のみを支払うものとすることができる。この場合における権利の変更の内容は、次に掲げる要件のすべてを具備するものでなければならない。
一 前項第一号及び第二号に掲げる要件があること。
二 前項第一号イに掲げる債権についての元本猶予期間を経過した後の弁済期及び弁済額の定めについては、一定の基準により住宅資金貸付契約における弁済期と弁済期との間隔及び各弁済期における弁済額が定められている場合には、当該基準におおむね沿うものであること。

5 その他住宅ローン債権者の同意が得られる場合

 以上に限らず、住宅ローン債権者と交渉して、個別の同意が得られれば、以上述べてきたパターン以外の住特条項を定めることは可能です。
 債権者の同意を取り付けるパターンなので「同意型」と呼ばれます(民事再生法199条4項)。

 例えば、

一定期間は元本の全部猶予を受け、ローン期間を約定期間より延長する住特条項(「元本猶予併存型」では元本の一部猶予しか受けられない)

・一定期間は元本の一部猶予を受けるが、ローン期間は延長しない住特条項(元本猶予併存型はローン期間の延長を前提にしている)

などが考えられます。
 

4 住宅資金特別条項によって権利の変更を受ける者の同意がある場合には、前三項の規定にかかわらず、約定最終弁済期から十年を超えて住宅資金貸付債権に係る債務の期限を猶予することその他前三項に規定する変更以外の変更をすることを内容とする住宅資金特別条項を定めることができる。

6 住宅ローンの支払いが遅れ、保証会社が代位弁済してしまった場合

 住宅ローンの支払いが遅れたまましばらく経過すると、保証会社が住宅ローン債権者に対して代位弁済をすることがあります。

 このような場合でも、

⑴ 保証会社による代位弁済であること

⑵ 代位弁済から6か月以内に再生手続開始申立を行うこと

⑶ 保証会社の求償権の保証人が求償権の全額を弁済していないこと

などの要件を満たせば、代位弁済がなかったものとして取り扱い、住特条項付き個人再生を行うことが可能になります。
 ⑵の要件がありますので、時間との勝負になります。ご注意ください。

 この制度は、代位弁済が無かった状態に戻してしまうものなので、「巻戻し」と呼ばれています。
 「巻戻し」については、機会があれば、もう少し詳しく解説したいと思います。


 今回の記事は以上です。
 わりとフレキシブルに住宅資金特別条項の利用が可能であることがお分かりいただけなのではないでしょうか。

 記事をご覧いただきありがとうございました。
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