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【コロナ対策・中小事業者向け】賃料の減額・猶予のポイント

 コロナショックにより資金繰りに窮した場合、新たに資金調達をするか、支出抑制策を取ることになります。支出抑制策の一つとして考えられるのが、賃料の減額・猶予をしてもらうことです。
 今回は、賃料の減額・猶予について、法的な問題点の整理と現実に着地点となりそうな部分について解説をします。

1 法的に賃料減額請求が認められないか

 法律では、賃料減額請求の根拠として、民法609条、民法611条1項、借地借家法32条1項(11条1項も同様の趣旨です)などが定められています。
 以下、順番に検討してみます。先に結論を述べてしまうと、テナントがこれらを根拠に賃料減額請求をするのは困難と考えられます。

 まず民法609条です。

(減収による賃料の減額請求)
第六百九条 耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

 ご覧のように「耕作又は牧畜」をするために「土地」を賃借していなければ、民法609条による賃料減額請求は認められません。
 テナントがこれを根拠に賃料減額請求をすることは難しいでしょう。

 次に民法611条1項です。

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第六百十一条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

 自粛要請に応じて休業したとしても、それは任意のものである、あるいは、休業期間中も什器等を置いて建物自体は使用していた、という反論がされてしまいそうです。
 民法611条1項による賃料減額請求も難しそうです。

 最後に借地借家法32条1項です。

(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 経済事情の変動により建物の賃料が不相当になった、ということはあるかもしれません。しかし、感覚から言うと、裁判所がこの要件を認めるハードルは非常に高いです。

 このように、テナントがこれらを法的根拠にして賃料減額請求を求めることはかなり難しいと思われます。
 これらを根拠にオーナーに対して賃料の減額を求めても、先鋭化した紛争になるでしょうし、裁判所がこれらの規定を根拠に賃料減額を認める可能性も低そうです。

 そのため、テナントはオーナーと交渉をして、互いに着地点を見出すことになります。
 その着地点としては、①オーナーが家賃の支払いを猶予すること、②オーナーが家賃の支払いが遅れることを黙認すること、の2つが考えられます。

2 家賃の支払猶予

 以前のnoteに記載したように、賃料の猶予に関しては、

・国土交通省から不動産関連団体を通じて、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施の検討を要請している
・テナントの賃料を免除した場合に損金算入を認めるなどの支援策
・各地方公共団体が協力金制度を用意している

などの措置が取られています。

 これらの措置があることを背景に、オーナーがテナントに、家賃の支払いを減額・支払猶予してくれることがベストと言えそうです。

3 家賃の滞納

 ですが、オーナーの側にも、建物のローンを支払わなければならない、建物のオーナーも底地を賃借しており地代を支払わなければならない、などの事情があるかもしれません。
 オーナーは家賃の減額・支払猶予に応じなければならないわけではありませんので、テナントが減額・支払猶予を申し出ても断られるかもしれません。

 この場合、テナントとしては、家賃が支払えなければ滞納せざるを得ません。
 他方、オーナーとしても、多少家賃の支払が遅れても、それが信頼関係破壊に至る程度のものでなければ賃貸借契約を解除できないとされています。すなわち、簡単に解除が認められるわけではありません。

 そのため、現実問題として、最終的には、オーナーが家賃の滞納を黙認せざるを得ない、という状態になってしまうかもしれません。

 とはいえ、テナントが家賃を滞納すれば、遅延損害金を付加して請求されることになります。また、信頼関係が破壊されたと認められるほどに家賃を滞納すれば、賃貸借契約を解除されることにもなります。
 テナントも、開き直って家賃を滞納する、ということはせず、しっかりオーナーと話し合い、支払えないのであればお詫びする、という姿勢が重要です。

 どっちつかずのまとめになってしまいましたが、以上のような状態になってしまった場合には、テナント側もオーナー側も、放置しておくと裁判になるような紛争になってしまうので、お早めに弁護士にした方が良いでしょう。

 もし私にご相談いただけるようであれば、下記リンクを通じてご相談ください。

 記事をご覧いただきありがとうございました。

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