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個人再生の概要【住宅資金特別条項付き個人再生①】

 新型コロナウイルス感染症の影響で、給料やボーナスが減少し、住宅ローンやカードローンなどの返済が困難になってしまった個人や個人事業主の方がたくさんいらっしゃいます。

 このような方を救済するため、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則が設けられたと先日ニュースになっていました。

 この自然災害ガイドラインの特則については、機会があればまた解説したいと思いますが、このほかに、多くの弁護士が債務圧縮の手段として取り扱ったことのあるであろう手続きとして、個人再生という手続きがあります。

 住宅ローンの債務者が破産をしてしまうと、基本的には自宅が売却され自宅を失うことになりますが、住宅資金特別条項(住特条項)付の個人再生を行うと、自宅を失うことなく、他のカードローンの債務を圧縮し、個人事業や生活の再建を図ることができます。
 住宅ローンを負担している方が債務整理をするにあたって、住特条項付き個人再生は非常に有力な手段ですので、数回にわたり、この住特条項付き個人再生について解説をしようと思います。
 なお、住特条項付き個人再生手続を利用しても、住宅ローン自体は基本的に圧縮されませんのでご注意ください。

 まず、今回は、そもそも個人再生手続とは何なのか、ということについて解説をします。

1 個人再生手続とは

 個人再生手続とは

 借入金など(債務)の返済ができなくなるなど、経済的に苦しい状況
にある個人(債務者)が、将来の給料などの収入によって、債務を分割
して返済する計画
を立て、債権者の意見などを聞いたうえで、その計画
を裁判所が認めれば、その計画に従った返済をする
ことによって、残り
の債務(養育費など一部の債務を除く)が免除される手続(最高裁判所作成「再生手続開始の申立てをされる方のために」より引用)

のことを言います。

2 個人再生の種類

 個人再生手続には、小規模個人再生手続と給与所得者等再生手続の2種類が用意されています(厳密には、給与所得等再生手続は、小規模個人再生手続の特則です。)。

 ⑴ 小規模個人再生手続

 小規模個人再生手続は、民事再生法221条以下で定められています。そして、221条1項では

(手続開始の要件等)
第二百二十一条 個人である債務者のうち、将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、再生債権の総額(住宅資金貸付債権の額、別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額及び再生手続開始前の罰金等の額を除く。)が五千万円を超えないものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「小規模個人再生」という。)を行うことを求めることができる。

と定められています。

 この条文によれば、まず、(住宅ローンなど一定のものを除いた)借金などの総額が5000 万円以下個人でなければ、小規模個人再生手続を利用することはできません。

 また、将来において継続的な収入を得る見込みがなければ利用することができません。

 ⑵ 給与所得等再生手続

 小規模個人再生手続の特則である給与所得等再生手続については、民事再生法239条以下で定められています。そして239条1項では、

 (手続開始の要件等)
第二百三十九条 第二百二十一条第一項に規定する債務者のうち、給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動の幅が小さいと見込まれるものは、この節に規定する特則の適用を受ける再生手続(以下「給与所得者等再生」という。)を行うことを求めることができる。

と定められています。

 この条文によれば、給与所得等再生手続を用いるためには、小規模個人再生手続を用いるための条件を満たしている債務者で、その債務者の収入が給料であり、かつ、額も安定しているという要件を満たす必要があります。

3 小規模個人再生手続と給与所得等再生手続の違い

 ⑴ 最低弁済額の違い

 小規模個人再生手続も、給与所得等再生手続も、いずれの手続きでも原則として3年間に分割して債務の返済をすればよいということになりますが、両者は、最低弁済額の計算の仕方が違います

 小規模個人再生手続では、基準債権の総額によって5段階に分けれられ、総債権額の概ね1~2割(100万円から500万円)は、最低でも支払うことになります。
 給与所得等再生手続では、この最低弁済額の基準の他に、所定の計算式を経て計算された可処分所得の2年分以上は、最低でも支払うことになります。
 次に述べるように、給与所得者等再生手続の場合、小規模個人再生手続と比較して容易に再生計画案が認可されますが、その分、「可処分所得の2年分以上」は高額となることが多く、経済的には小規模個人再生手続の方がメリットが大きいことが多いです。

 なお、小規模個人再生手続も給与所得者等再生手続も、清算価値(自分の財産をすべて処分した場合に得られる金額)以下に負債を圧縮することはできないというルールがあります。

 ⑵ 再生計画案の認可手続きの違い

 小規模個人再生手続では、民事再生法230条3項に基づき、再生債権者による書面決議というものを経なければ、再生計画が認可されません。
 そして、書面決議の方法としては、再生計画案に同意しないと回答した債権者が半数に満たず、かつ、その議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないときに、再生計画案の可決があったとみなす、とされています(230条6項)。
 なお、この要件自体、通常の民事再生手続きと比較して、簡易な手続きになっています。

(再生計画案の決議)第二百三十条
3 再生計画案の提出があったときは、裁判所は、前二項の場合を除き、議決権行使の方法としての第百六十九条第二項第二号に掲げる方法及び第百七十二条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定により議決権の不統一行使をする場合における裁判所に対する通知の期限を定めて、再生計画案を決議に付する旨の決定をする。
6 第四項の期間内に再生計画案に同意しない旨を同項の方法により回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず、かつ、その議決権の額が議決権者の議決権の総額の二分の一を超えないときは、再生計画案の可決があったものとみなす。

 他方、給与所得者等再生手続では、債権者の意見聴取をすれば足りることになっており、書面決議が不要です。そのため、債権者の反対意見のみをもって再生計画案が否決されるということがありません。

(再生計画案についての意見聴取)
第二百四十条 給与所得者等再生において再生計画案の提出があった場合には、裁判所は、次に掲げる場合≪※引用省略しています≫を除き、再生計画案を認可すべきかどうかについての届出再生債権者の意見を聴く旨の決定をしなければならない。

4 給与所得者等再生手続を用いるべき場合

 最低弁済額を計算すると、小規模個人再生手続よりも給与所得者等再生手続の方が高額になってしまうことがほとんどかと思います。
 そのため、多くのケースで、小規模個人再生手続を利用することになると思います。

 しかし、小規模個人再生手続については、債権者の過半数が不同意と回答するなどした場合は、再生計画案が否決されています。
 そのため、不同意と回答しそうな債権者がいるときは、まず債権者の意向を確認し、可決要件を欠くことが予想されるような場合には、債権者の議決権行使手続きのない給与所得者等再生手続を選択すべきこととなります。


 今回の記事は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

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