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リレーローン、ペアローンの場合【住宅資金特別条項付き個人再生⑦】

 【住宅資金特別条項付き個人再生①~⑥】では、主に住宅ローン債務者が1名である場合を念頭に、解説をしてきました。

 他方で、実際の社会では、夫婦で連帯して住宅ローン債務を負担し、抵当権が設定されている場合(リレーローンなどと呼ばれます。)や、妻が住宅ローンのうち一部の借り入れをして1番抵当権を設定し、夫が残りの住宅ローンの借り入れをして2番抵当権を設定する場合(ペアローンなどと呼ばれます。)など、住宅ローンの債務者が複数名いる場面も非常に多いと思います。

 このような、リレーローンやペアローンの場面でも、問題なく住特条項付き個人再生を行うことができるでしょうか。

1 リレーローン

 夫婦でリレーローンを組んでおり、夫は住宅ローン以外にも借金をしており個人再生を行いたいが、妻は住宅ローンしか借金をしておらず個人再生を行う必要が無い、という場面がありえます。

 このような場合、夫だけが住特条項付き個人再生を行うことは問題ないでしょうか。

 ⑴ 「住宅資金貸付債権」の定義へのあてはめ

 リレーローンについて住特条項付き個人再生が可能となるためには、リレーローンにより負担する債務が、民事再生法196条3号の定める「住宅資金貸付債権」に該当しなければなりません。
 そして、「住宅資金貸付債権」の定義は、次のように定められています。

三 住宅資金貸付債権 住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。

 「住宅資金貸付債権」の該当性に関するその他の問題については、次の記事もご覧ください。

 そして、リレーローンも、純粋な住宅購入資金であれば、「住宅資金貸付債権」に該当することは問題がなさそうです。
 条文上、連帯債務は除外する、ともされていません。

 したがって、リレーローンを組んでいる一部の債務者についてのみ住特条項付き個人再生を行うことは認められます

 ⑵ 他方の債務者の期限の利益が失われないか

 住宅ローンの契約書には、債務者が個人再生等の債務整理をした場合には、期限の利益が失われる(一括払いをしなければならなくなる)と定められていることが一般的です。

 そのため、上記事例において、夫が住特条項付き個人再生を行うと、妻の住宅ローンの期限の利益が失われるのではないか、気になるところです。

 この点は、民事再生法203条1項(特に後段(太字にした部分)に注目)で、次のように手当てされています。

(住宅資金特別条項を定めた再生計画の効力等)
第二百三条 住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可の決定が確定したときは、第百七十七条第二項の規定は、住宅及び住宅の敷地に設定されている第百九十六条第三号に規定する抵当権並びに住宅資金特別条項によって権利の変更を受けた者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利については、適用しない。この場合において、再生債務者が連帯債務者の一人であるときは、住宅資金特別条項による期限の猶予は、他の連帯債務者に対しても効力を有する。

 この規定があるため、再生計画認可決定が確定し、夫が期限の利益を得ることができれば、連帯債務者である妻も期限の利益が得られることになります。

2 ペアローン

 妻が住宅ローンのうち一部の借り入れをして1番抵当権を設定し、夫が残りの住宅ローンの借り入れをして2番抵当権を設定するというペアローンを組んでいる場合、住特条項付き個人再生を行うことができるでしょうか

 ⑴ 法律上何が問題になっているのか

 これは、住宅に、他方の配偶者が負担する住宅ローン債務を担保するための抵当権が設定されているため、民事再生法198条1項ただし書きにより、住特条項付き個人再生を行うことができないのではないか、という問題です。

(住宅資金特別条項を定めることができる場合等)
第百九十八条 住宅資金貸付債権(民法第四百九十九条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第五十三条第一項に規定する担保権(第百九十六条第三号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない

 ⑵ 夫婦双方の申立ての場合

 民事再生法198条1項ただし書きの規定が置かれているのは、せっかく住特条項付き個人再生が認められても、別の債権を担保するための担保権が設定されていると、その担保権が実行されると、住特条項付き個人再生が無意味となってしまうためです。

 他方、もし同一家計を営む夫婦がともに住特条項付き個人再生を行うのであれば、夫婦の片方のみが住宅ローンの支払いを遅らせてしまい、抵当権が実行されてしまう、という可能性が低いです。つまり、民事再生法198条1項ただし書きが危惧している場面とは異なってきます

 このようなことから、東京地裁では、ペアローンの事案でも、夫婦双方での申立てがあれば、住特条項付き個人再生を認めているようです。

 ⑶ 夫婦のうち片方の申立ての場合 

 夫婦のうち片方だけの申立てであっても、民事再生法198条1項ただし書きが危惧している状況ではない、と認められる場合、例えば、

・夫のみが住特条項付き個人再生を行うが、妻は住宅ローン以外に債務を抱えておらず、あえて住特条項付き個人再生を行う必要が無い場合

などであれば、配偶者の片方のみの住特条項付き個人再生の申立てであっても、民事再生法198条1項ただし書きの例外として認められる場面があり得ます


 今回の記事は以上です。
 記事をご覧いただきありがとうございました。
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