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2022年観劇メモ(上半期)

いまさらながら、昨年の観劇メモまとめ。現代劇だけでも大分多くなってしまったので、上半期と下半期に分けて。けっこう観たなあ……これでもまだ伝統芸能は入れてないんだぞ……。我ながらどうかしている。。

自分用の取るにたらない感想メモ&アルバム的noteで、ひと様に晒すものでもないので、途中から有料にしてあります。買う人はまずいないと思いますが、間違っても買ってはいけません。確実に損させます。

上半期ベスト3を選ぶとしたら

正直上半期は『千と千尋の神隠し』と『CROSS ROAD』に対する、プロダクションへの悪い意味での「?!?」が大きくて、いまだにそれに対する批判を話させたら止まらない自信があるのだけど(うち一作はお身内賞も受賞させてましたけどね、観客を舐めるのも大概にしてほしいです怒)、それは置いておき。
その中でも名作ミュージカルの存在感はやっぱり強かった。ジャンルも規模も違うので、作品の質そのものというよりは、わたしの感情の振れ幅で選ぶベスト3。

メリー・ポピンズ

ジュリー・アンドリュースでお馴染みの名作ミュージカル映画、ステージでの初演は2004年とわりと最近なんですよね。日本では2018年初演。

ワクワクと幸福感に包まれた作品で、エンターテインメント性も高く、お子さんから大人まで楽しめる。けど、わたしがこの作品に心動かされるのは、やさしさや楽しさ・幸福と、人の淋しさや別れの切なさが表裏で描かれているから。

物語の冒頭、メリーとバートが再会を殊のほか喜ぶのは、当然ながらかつての別れがあったからで。メリーがいざなう不思議な世界の住人たちも同じ。人々が遊びに来ては、時を経て去っていくことを受け入れ、出会えたときは、昔からの変わらぬ友人のように相手を迎え入れる。
物語の終盤、家族としての結びつきを取り戻したバンクス家を見守って、別れを惜しみつつも旅立っていくメリー。一家もまた、その別れを受け入れて、新しい道を歩み始める。

人の心に魔法という種をひとつ、そっと落として旅立っていくメリー・ポピンズの存在のかっこよさ。そして、出会った人々が、子どもも大人も皆それぞれに、自分の種を育てていくのだと感じられてね。物語のなかの出会いのひとつ一つが、とても尊く、美しいんです。

美術・照明といったクリエイションによって、幸福や喜びという、本来目には見えないはずのものが鮮やかに可視化されるのも、相乗効果となっていて、とても素晴らしい。舞台美術や仕掛けにちゃんと意味があって、作品としての安定感はさすが。
なかでも〈♪Jolly Holiday〉の照明が切り替わる瞬間が本当に大好きで。一瞬にして、観客までメリーの魔法にかけられてしまう。

バートの台詞「メリー、君がいると心が弾むよ」が大好きなんですけど。おそらくバートも、かつてメリーの魔法に人生を変えられた一人で、数年、数十年間メリーに会うことがなくても、ずっと彼女の魔法を信じていられる、その力をね、感じるんですよ。……泣いちゃう。

キャスト陣もさすがに充実していて、叶うことならもっと色々な組み合わせを観たかった。
特に濱田めぐみさんメリーの計算し尽くされた自然体、大貫さんバートの生まれながらにしてバートのような超自然体が素晴らしかった。濱めぐ様メリーをまだまだ観たいので、誰か不老不死の薬を開発してくれ。

濱めぐ様メリー永遠なれ!
この距離でメリポピを観れたことも思い出深い…

SINGIN'IN THE RAIN

シンギンは物語としてはあんまり好きではないのですが(リナへの対応、ホモソーシャルの産物すぎるし、経営陣の怠慢だろって思っちゃう派です)、それを差し引いても、アダム・クーパーの素晴らしさよ。ドン・キャシー・コズモによるナンバー〈♪Good Mornig〉の後の鳴り止まない拍手が忘れられない。

この公演は初日が延期になってしまって、たまたま取っていた日が初日になったんですよね。ようやく幕が開いたことへの喜びで、板の上から客席までが一体となる感覚。あの空間にいられたことが、ただただ幸せでした。

来々々世くらいでは、アダム・クーパーに「僕のラッキスター」って歌われたいので、せいぜい徳を積まねばならない。

はぁぁ〜さいっこう!!!涙

貴婦人の来訪

上半期に観たストプレの中では、『セールスマンの死』も素晴らしかったのだけど、『貴婦人の来訪』の、集団による個人の声の抹殺という描写が非常にグロテスクで、現在の自分の感覚とよりマッチしていたのはこちらかなと。

新国立劇場のシリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」の第三弾として上演された作品。第一弾の『アンチポデス』も、第二弾の『ロビー・ヒーロー』もそれぞれにとっても胸糞わるい戯曲で(ほめてる)、終演後すぐに拍手する気になれない作品を、よくもまあ三作続けて上演してくれたなと(とてもほめてる)。

『貴婦人の来訪』は調べてみたらウィーンでミュージカル化されて、ミュージカル版はすでに日本でも上演された模様。日本版のキャストや予告動画などを見ると、クレール夫人とアルフレートの愛憎に焦点を当てて、ロマンティシズム的要素を盛り込んだ作品という印象だけど、どうだったのかな。気になる。

今回の新国立版は、次々と離反していく村人、アルフレートの家族まで、感情の動きが具体的には描かれないので(牧師や町長がほんの少しくらい?)とにかく怖かった。衣裳はポップで、どこか寓話的なビジュアルなのが、いっそう怖いの。

かつて「個人」であった人たちが、黄色いアイテムに身を包んでいくにつれて、ヒューマニズムという大義名分のもと、徐々に人格を失い「集団」の意思で動くようになるさま。揃いの服を着けた人間たちが、誰が殺したかもわからないように、アルフレートを一方的に「断罪」し、息を止める場面のおぞましさ。いやいや、「ヒューマニズム」って、なんでしたっけ。

村人たちが、利己的な感情を大義名分という"正論"で薄めて、思考停止状態になっていく様子には、どこか既視感を覚える一方で、いざ当事者となったときに自らもそうならないとは否定できない恐ろしさがあって。
こういうヒリヒリと観客を追い詰めていくような作品は観ていてしんどくもあるんだけど、上演する意義は大きいと思うので、今後も新国立の企画に期待したい。というか、してる。

新国のくまさんの黄色アイテムももはや拘束具にしか見えない…泣


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