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「ショート」布団から#シロクマ文芸部


布団からそっと抜け出した貴方が肩から足の先までの長くて暗い空洞を作った。寝たふりをしている私の呼吸を確かめてから、貴方は寝室のドアを静かに開けた。

何処へ行くの?
ねぇ、私と違う女のところ?
階下で貴方が水を飲む音がする。ううん、うがいをしているのね。
私とのキスは、そんなに嫌だった?

貴方が家を出て行く音を聞きながら、冷めていく布団の温度を感じている。

夫婦って、何?
紙切れだけが貴方を束縛するなら、今すぐ緑のフチの紙切れにサインをするわよ。

ひんやりとした空気に包まれながら、遠く聞こえる貴方が出て行った車の音に長い夜が始まると思った。永遠に続く長い夜が…

ゴホン、ゴホン…
咳が止まらない。



布団から音を立てないようにそっと抜け出した。隣で寝ている妻の身体が熱い。風邪を引いたのだろうか。さっきまで酷い咳をしていた。ようやく眠れたようだ。起こさないように寝室のドアをそっと閉めた。

俺もなんだか喉が痛い。明日からの仕事は大変だから移らないように一応、うがいをしておこう。

パジャマの上にジャケットだけを羽織ると
俺は妻のために風邪薬を買いにコンビニへ車を走らせた。


布団から這い出して冷たい寝室の窓辺に立った。
寝る前に貴方に飲ませた睡眠導入剤が、そろそろ効いてくるかしら?
オブラートに包んで
「精力剤よ」
って言って飲ませたあの薬。

此の家から続く長い坂道を貴方は眠らずに下れるかしら?
冷たい笑みを浮かべているのに温かい涙が頬をつたう。
貴方が悪いのよ、貴方が…



妻が差し出した変なサプリメントを俺は飲むフリをしてゴミ箱に捨てた。
そんな物に頼らなくても、愛してるのに。

あぁ、雪だ。
雪が降ってきた。
俺の視界を遮るように水雪が降りしきる。
スタッドレスは履いていないが、このくらいなら大丈夫だろう。


あ、

一瞬、タイヤが滑った。
雪道に慣れていない俺は急ブレーキを踏んでハンドルを切った。
目の前にガードレールが見える……






こちらの企画に参加させて頂きました。
小牧幸助さん、よろしくお願いします。



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