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「エッセイ」欲深い女

「で、どうなの?体調?」
元々はダーちゃんの友人なのに長い間、同士みたいに付き合ってる私はHに平気でタメ口をきく。
「うーん…」
「はっきりしないなぁ〜」
「もうじき、あっちへ行くかな」
人差し指で天を差したHを
「バカじゃないのっ!」
唾が翔ぶほど怒ってみせた。
「だってさ、美味しい物も食べられないし、酒も弱くなったしさ」
美食家だった彼は味の付いた物が一切食べられなくなった。好きな刺し身さえ、そのまま食べなければならないような過酷な塩分制限に苦しめられていた。


Hは元々、小学生の時に片方の腎臓の摘出手術を受けていた。それからずっと身体が弱かったそうだ。小学校の作文に家のダーちゃんは
『Hくんは身体が弱いです。だから僕が守ってあげたいです』
と書いたそうだ(根っからのお調子者だ。自分の方が先に逝ったくせに)
それが確か高校生の時?バカ旦那に聞いた話だから時期は不確かだけど…その時の手術でガーゼが身体に残ったままだった事が判明した。腐ったガーゼを手術で取り除いてからのHは、みるみる健康体になっていった。おまけにHは頭まで筋肉で出来ているようなダーちゃんと比べて格段に賢かった(sanngo調べ)
健康を取り戻した彼はめきめきと頭角を表し、今では『士』が付く職業で、この地方では1位のポジションに居る。彼を知る人は皆、Hの事を「先生」と呼ぶが歳下のくせに私はあだ名で呼び捨てにしている(笑)生意気ですまない(笑)

そんな彼が、もう一つ残った腎臓の調子が悪いらしいと聞いたのは昨年の事だった。
冒頭の会話は、確か今年の春頃に彼のお母様が亡くなったのを聞いてお香典を届けに行った時のものだ。

「あっちへ行って〇〇と酒盛りするよ」
            ※〇〇は私の主人
弱っちく笑う彼を
「人は、そんなには簡単には死ねないよ!」
偉そうに叱り飛ばしたのは私だ。
「だってさ…」
「腎臓くらい、私がくれてやるから!」
あの時は亡くなった主人の支払いを全部チャラにしてくれた恩人のHになら!と本気で思ったのだ。
「いい?死んだら許さないからね」


この秋、そんな彼から朗報が届いた。
腎臓移植のドナーが見つかって、無事に手術が成功したそうだ。
私は直ぐにメールを送った。

「ほらね、簡単に死ねなかったでしょう?『憎まれっ子世に憚る』で長生きしてよね」
「有り難う😓😓」

『ありがとう』が漢字のところが気にくわない(笑)偉そうだ、センスも感じられない。そして最後の😓😓の絵文字はなんじゃ(笑)

まぁ、いいか。
医学って、やっぱり日々進歩しているんだな…

あのくらい元気付けてやったんだから2台持ってるレクサスのうち安い方の1台でいいから、私にくれないか?(コレさえなきゃね~、私)
でも良かった、本当に良かった(泣)
レクサスもらえて(違う)

そう言えば、以前ダーちゃんに
「何でHだけ守ってあげたかったの?他にも身体の弱い人居たでしょ?」
と聞いたことがある。
「うん?だってノート見せてくれたから(笑)」
ハイハイ、貴方はそういう人ですよ(笑)



『憎まれっ子世に憚る』
に家のダーちゃんは当てはまらなかったのか?
十分、憎まれっ子だぞ。
私は短命かもしれない……(ハイハイ)

「早く退院して快気祝いしよっ!美味しい物、奢ってね」
「おいおい、反対じゃない?sanngoちゃん」
「経済状態が違いますから〜」
「はいよ」
しぶしぶの返事が返ってきた(笑)

ダーちゃんが遺してくれた「宝」をそうそう逃してなるものか。私は欲深いんだから(笑)
悪いけど、ダーちゃん!
まだまだ貴方の「宝」達、そちらへは逝かせませんよ。



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