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「エッセイ」決戦の日曜日


スポーツマンシップになんか決してのっとらない。いや、のっとってなるものか。
男達には分からない非情な戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。私はそこに闘志を持って挑もうとしている。暴力以外は反則は当たり前の無法地帯の荒野に立ち私は静かにその時を待っていた。

「負けるものか!」

リサーチは完璧なはずだ。敵達がぞくぞくと集まり始めた。
この戦いは残念ながら、ボクシングや柔道のような体重による「階級」制はない(泣)あくまでも無差別だ。
ボクシングで言えば「ミニマム級」の私が今夜も「ヘビー級」の戦士達に挑まなければならなかった。
たまには力石徹のように矢吹ジョー(私だ)の為に階級を落として来てくれないか……
今年の夏は暑かったはずだ。ダイエットには最適だったはず……
敵達は自慢気に膨らんだ腹と二の腕の武器を散らつかせて、チラチラとこちらの様子を伺って近づいてくる。
怖い。でも逃げたら負けだ。



その時突然、戦いの幕は切って落とされた。
赤と黄色のシールを持った惣菜担当の兄ちゃんが青コーナーから登場してきた。値引きシールが次々と貼られていく。
あまりにも突然のゴングに私はフェイントをくらってしまった。
「まだ、2分前じゃない(泣)」
前へ進もうとしたその時、可愛い小さな女の子が戦士に無視されてポツンと私の前に立っていた。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
私はそれも反則技の一つとは気づかず、女の子に話し掛けてしまった。
「一人なの?ママは?大丈夫?」
「うぇぇーーーん」
ハマった!完璧に私の作戦ミスだ。
「ママは何処に居るの?」
「あちょこ!」
女の子が指差した棚には私が狙っていた明日食べる為の「コロッケ」が陳列されていた。それから酒の肴にピッタリな「タコの唐揚げ」も。

「クゾォーーーーッ゙!!ヤラレた!」

ダメだ、揚げ物は諦めよう。重量級の住み家だ。それにどうせ「20%オフ」にしかならないだろう。
「ママ、直ぐに戻るからね」
いや、ママ戦士はカゴいっぱいに惣菜を詰め込んでいる、お帰りは遅いかも…
しかし私は心を鬼にして引きつった笑顔を小さなセコンドに残し戦場を移動した。
お刺し身コーナーには今日の特売「しめ鯖」が更に半額になっているはずだった。
「あ、あった!」
先程のリサーチで三皿しか残っていなかった「しめ鯖」のパックの最後の一皿が残っていた。
「やったね~」
その時、私にリバティアイランドのような鍛え抜かれた大きなお尻がドカンとぶつかった。
ヨロッ
「あ、ごめんね~」
マイカゴ(そのスーパーではマイカゴが販売されている)片手にリバティターフスーパーを他の牝馬を寄せ付けない速さで駆け抜けて行った。速い!太いのに……体重76キロ(sanngo推定)に抜かれるのろまな私。
でも大丈夫だろう。あのお尻ならきっと「中トロ」を選ぶはずだ。「尻占い」は知らないが変な自信が私にはあった。

「あっ!」


ぐわっし!しっかりと握られた手には勝利を告げる「しめ鯖」のパックが……

あぁぁぁ〜!

そしてそこには黄色と赤で描かれた「半額」の値札シールがペタリ!
何故、「家庭用お得パック中トロメガ盛り」を選ばない(泣)(個人の好みだ)

終わった……



今、私は自分の修行不足を猛烈に恥じている。
やっぱり「マイカゴ」保持者はプロの戦士だ。
しかし、今夜のタイムセールは何故2分前だったのか?競輪のようにイカサマ?
黒い疑惑を抱えたまま「正規」の値段で買ったホッケを私は焼いた。
来週は勝ちたい!「秋刀魚」一本勝負を仕掛けようと思っている。


「北海道産 シマホッケ」780円(税抜)は苦い涙の味がした。









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