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「ショート」布団から2#シロクマ文芸部

1話のお話しは、こちらです。


布団から手を伸ばして、ベッドサイドのティッシュをつまんで鼻をかんだ。
チーン
夫を殺そうとしてるのに鼻水が止まらないって喜劇よね。泣きたくなるほど滑稽だわ、私って。

貴方が出ていった布団の空洞が時間の経過と共にゆっくりと沈んでいく。もう私の隣には何の温もりも残っていない。

後悔?
あの人が悪いのに?
後悔する日が来るのかしら?
だって、私は睡眠導入剤をあの人に飲ませただけよ。何処かへ出掛けたのは、あの人が勝手に選択した事だわ。
まぁ、止めなかったのはちょっと私が悪かったけど…

いつも置いてある場所にゴミ箱が見当たらなかった。私はベッドから立ち上がって鼻をかんだティッシュを捨てるためにゴミ箱を探した。今夜は一段と冷え込みが厳しい。ひんやりとした空気が、また私を包む。窓の外ではポタポタと水雪が降っている。

あった。
ゴミ箱はダブルベッドの夫が寝ていた側に移動されていた。
あの人、本当に自分勝手なんだから。

あら?

その中に小さな何かが光っていた。手に取ってLEDの光に透かして見た。
オブラートに包んで私が渡した睡眠導入剤が暗い灯りの中に浮かんだ。

「あの人、飲まなかった…」

あの人は、私があげた薬を飲まなかった。
どういうこと?
毒でも盛ると思ったの?それだけ信用されていないってこと?
私はウォークインクローゼットへ飛び込んで、夫の服を調べた。
ある、この服もあのスラックスもスーツもデニムも……

バタバタ、ガチャガチャ

気が狂ったように次々とハンガーを動かしていく。
どういうこと?
あの人は着替えて出て行っていない。
パジャマのまま?

ゴホッゴホッ
咳が止まらない。
下に降りてお水を飲もう。
永遠に続くと思ったこの夜は、案外早く明けるのかもしれない。

キッチンのシンクに、あの人が飲んだまま置いていったグラスが一つ残されていた。

もう、だらしがないんだから
帰って来たら、叱ってやろう。

テーブルの上に常備薬が入ったクスリ箱が出ているのが目に止まった。あの人が出したのかしら?
そうだ、念のために風邪薬を飲んでおこう。

あ、二人でコロナに掛かった時に全部飲み切ってしまったんだっけ。

ゴホッゴホッ

まさか、あの人
私の為に風邪薬を買いに?
まさかね…
そんなに優しい人だっけ?
ううん、以前もそうだった。
あの人はいつも何も言わないで、私に必要な物を用意してくれるのよ。

良かった、睡眠導入剤を飲まないでくれて。
帰って来たら、また一緒の布団で暖まろう。
それにしても何故、私はあんなに怒ってしまったのかしら?



あ、生理がきたみたい。



だんだんと意識が遠のいていく。
ごめん、風邪薬届けてやれなくて…
あいつの熱、下がるかな〜。
それにしても寒い。
暖かいあの布団に戻りたい…



❉ 

夜が明けた。
昨夜、降り積った雪の中を一台のパトカーが坂の上の家を目指して走っていた。



小牧幸助さんの企画に参加させて頂きました。よろしくお願いします。

el faroさんが続編を希望してくださったので、書いてみました。なかなか難しかったです(苦笑)やっぱり「続編」や「Part2」が、本編を超えられないのがは世の習いみたい?がっかりしちゃったら、ごめんなさいm(__)m









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