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「掌編小説」〜白い靴〜#シロクマ文芸部


白い靴がコツコツとアスファルトの道路に足音を響かせて、私の背後から近付いて来る。

コツコツ、コツコツ…

一定のリズムを刻んで、私が立ち止まると足音もピタリと止まる。試しに私が足早に歩くとコツコツも速まる。

コツコツコツ…

振り返って音のする方をちらっと確認した際に
狭い路地の消えかけそうな点滅する街灯の灯りで白いハイヒールだけが見えた。

女だ。

私の後を付けて来ている?
ショルダーバッグの中にはスマホと財布と化粧ポーチ、ぶら下げているエコバッグには白いネギと豚バラ肉くらいしか入っていない。あ〜、豆腐と玉子も買ったけど両方とも武器にはなりそうにない。
あった!
節約のつもりで買った氷結ストロング350mlをエコバッグの中に手を入れまさぐって確認した。
いざとなったら、これで殴ってやろう。
失敗したな…
500mlにしておけば殴りやすかったのに。

コツコツ、コツコツ…

付かず離れずの距離で、相変わらずハイヒールの音は響いている。

私、何か女に付けられるような事したかしら?憎まれるような事?
心辺りがないでもない。
ひょっとしたら、不倫相手の課長の奥さん?
ううん、違うわ。だって課長が
「家のは豚みたいに太ってて」
って言ってたもん。豚は白いハイヒールなんて履きこなせないに違いないわ。

あっ、それとも会社でイジメてる新入社員のあの子かしら?
違う違う。今日は、あのバカ、総務の田中とデートだって言ってたもん。だから浮かれてミスばっかりしてたのよ。今頃、シティホテル辺りで私の悪口言いながらチョメチョメしてるに決まってるわ。仕事は遅いくせに男作るのは早いんだから。

じゃあ、先日ケンカした友人のA子かしら?あ、あれも違うわね。旦那が出張だから、今日はホストクラブで羽目を外すって騒いでたはず…

あっ、いつもレジが遅くて腹が立って怒鳴り散らしちゃったコンビニのあの子?あの子、店長に叱られて頸になっちゃったって噂で聞いたっけ。ざまあみろだけど。
それとも生命保険の契約を解約したら、生活が困るって泣いてたセールスレディのオバサン?仕方ないのよ、外資系の生保の外交員がイケメンだったんだから。
それとも…それとも…

うん?

なんか私って、性格悪いんじゃない?

随分と今まで人に嫌われるような事を平気でしてきたみたい。
ああ神様、明日から私、悔い改めますから、どうか何事もなく家に辿り着けますように。
エコバッグの中の氷結ストロング350mlを握り締めて神頼みするって、神様は聞き入れてくださるのかしら?

ヤバい!
此処からは街灯が無いから、例え防犯カメラがあったとしても犯人の顔、映らないんじゃない?

コツコツ、コツコツ…

心なしか、白いハイヒールの音がさっきよりも近くに聞こえてきた。
走り出そうかしら?それとも叫んで人を呼ぶ?
そんな事を考えている間にガシっと肩を掴まれた。
ひっひぇ~
こんな時って声も出ないのね。
恐る恐る振り返った。





「あっ!貴女だったのね!!」







いつきさん、使わせて頂きました。ありがとう♡

小牧幸助さんの企画に参加させて頂きました。よろしくお願いします。

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