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算命学余話 #G83 「総量と配分」/バックナンバー

 前回の余話では、算命学の因果論と類推、その駆使の仕方について触れました。水晶玉占いなどと違い、算命学は理論の占術学なので、目に見えない事故の真相や人の心の内を、超能力や霊感を使って読み取るわけではありません。その代わり、理論を固めてその理論に沿った推察や類推をすることで、真実に肉迫した風景を読み取る技術に長けています。勿論、推察や類推には、豊富な情報と優れた洞察力がなければ、見当違いな所をつついてしまう危険性があります。そうならないために、算命学者には常識や世間知が不可欠ですし、物事を正確に捉えるための見識や判断力も必要です。

 前回少し話題に挙げた安倍元首相銃撃事件について、認知科学者の苫米地英人氏が興味深い「類推」の話をしていたので、引用してみます。ざっと以下のような内容でした。

――安倍元首相銃撃事件の山上容疑者に責任能力があったかどうかを判断する精神鑑定には、四カ月かかるとされている。いくらなんでも長すぎるが、なぜ四カ月も必要なのか。それは、11月の米大統領中間選挙が終わってからこの事件の解明を始めたい思惑があるからだ。旧統一教会が集めた献金の大部分は、米国へ送金されていることが知られている。この団体の集金の七割が日本人の信者からのものであり、それが米国へ流れるということは、米国の政治資金となっている可能性が高い。しかも11月まで山上容疑者の発言を、精神鑑定を理由に封じると聞けば、その疑いは更に深まる。――

 恐ろしい話ですね。旧統一教会の話は日本の政治家との風習的な関わりが焦点だと思っていましたし、旧統一教会の母体が韓国にあることを考えると、韓国・朝鮮による陰謀説も方々で聞かれましたが、更に米国にまで話が及ぶとは。しかしこの推察・類推は非常に的確で、余人を納得させるものがあります。これはあくまで一例ですが、算命学者にはこのような的確な類推能力が求められるということです。

 算命学者の鑑定能力に差が出るのは、ここです。上述の通り算命学は理論を組み上げた思想体系なので、正しく学べば誰もが同じ道筋を辿って、同じ宿命風景を見ることになります。しかし算命学者によってその風景の解釈は異なります。それは類推の下地となる算命学者自身の価値基準が異なるからです。算命学者も人間ですから、それまで生きて来た半生の間に培われた知見や経験則が、物事を判断する際に影響しないはずはありません。もちろん、算命学者自身の宿命もありますから、当然これも判断に色目をつけていきます。
 そう考えると、人間の目の色目に染まっていない、完全に公平で中立な鑑定や助言というのは、そもそも存在するのかという疑問に突き当たります。結論から言って、そういうものはないのだと思います。ないという前提で、できるだけ公平中立な正しい判断をしてくれる鑑定者を探すしかありません。つまり、鑑定を依頼する側にも、自分の宿命鑑定を委ねる相手を見定めるだけの識別眼が必要だということです。
 人を見る目の有無。信頼に値する相手かどうかを正しく見分ける能力。そういった能力が自分に備わっていない人が、「あの占い師の鑑定は全然的外れだった」と不満を漏らすのは、単にめぐり合わせや「運」が悪かったのではなく、自分自身の努力不足や慎重さの欠如が原因なのです。あ、もちろん、本当に腕の悪い、的確な判断のできないヘボ鑑定者だっています。でも往々にして、そういう鑑定者には、同レベルにボンヤリした依頼人が当たってしまうものなのです。「類は友を呼ぶ」は、算命学の類推論に呼応する俚諺なのです。

 今回の余話は、鑑定技術とは少し違うけれども、算命学的な鑑定手法や判断に役立つ考え方について、いくつかの角度から論じてみます。こうした考え方は何も算命学特有のものではなく、世間に中にも散見できますので、そういった例を挙げつつ、世間知と算命学をつなげる話を試みます。なお、近似のテーマを『算命学余話#R62』でも論じたので、そちらも参照下さい。
 まずは、詩人で脳神経内科医の駒ヶ嶺朋子氏の著書『死の医学』からの引用です。

――「おしくらまんじゅう仮説」という一風変わった能力論・芸術論が河村満氏(神経内科医)によって提唱されている。脳の機能においては「ある機能が障害を受けて低下するとその分、他の機能が亢進・向上する場合がある、すなわち脳機能はせめぎ合う場合がある」とするものである。つまり、何かが欠落すると、常識を超えた別の何かが膨れてきて、それが芸術や数学など、いびつでありながら完成した、たぐい稀なる結実を見ることがある。傑出した能力というのは、ほかのとんでもない欠落の影だったりする。とすれば、ピカソはまさに好例ではないだろうか。――

 この引用を見て既にピンと来た人は、算命学の鑑定に適性があります。ここで押さえておくべき点は、二点です。

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