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宇崎ちゃん献血コラボによって、献血者が増えたのか確かめてみた結果

コメントを頂きましたので、詳しく検討した記事p値についても計算した記事も作成しました。合わせてご覧ください。

概要まとめ

宇崎ちゃんの日赤コラボ企画について、色々な意見があることを観測しましたが、このコラボ企画で献血者数がどのくらい増えたのか(あるいは、増えなかったのか)は、因果推論的に評価されていないようでした(個人の観測の範囲)。

どうも、日赤のデータがあるようなので、宇崎ちゃんコラボによって献血者がどの位変化したのかをSynthetic Control Method(SCM)という手法で解析を行なってみました。

結果としては、宇崎ちゃんコラボによって1都県あたりの平均で250人ほど増加したようです。

ただし、ランダムウォークの範疇かもしれません。実際、p=0.0589でした(詳細は別記事参照下さい)。また、他のベンチマークへの影響は不明です。

以下に詳細をまとめています(長文ですが)。

解析の目的とか動機とか。

2019年10月に献血キャンペーンとして、宇崎ちゃんコラボ企画が関東圏で行なわれてたそうです(下記の様な感じで献血ルームで告知されていたようです)。

このキャンペーンポスターについて、Twitter上では、「セクハラである」というような否定的な意見や表現の自由の範疇であり問題無いといった意見が飛び交っていたように感じました(個人の感想です)。

一方で、献血キャンペーンとして他にも着目すべき重要な点は、献血者増加(短期的にも、長期的にも)があったのかどうかです。すもも様が前年比での比較をされています。全国の前年比は106.6に対して、東京の前年比は109.2であったとの検討結果です。

このすもも様の検討でも十分なような気もしますが、東京と全国ではいろいろ状況が違うので、「比較として妥当ではないのではないか?」という批判が有るかも知れません。

さらに探ってみましたが、定量的に因果推論した方はTwitter上には(私の観測する限り)いらっしゃいませんでした。

そこで、宇崎ちゃんコラボ企画が献血者数に与えた影響について明らかにしてみようと考え、取りかかることにしました。

解析に用いるデータ

データは、日赤ホームページに公開されている2018年11月~2019年10月の献血ルームでの献血者数(都道府県別)を利用しました。

具体的には、「平成30年11月分 献血者速報」~「令和元年10月分 献血者速報」のPDFの3ページ目3ページ目の真ん中あたりの列のデータを抜き出しました。

なお、献血ルームがない県については、データを利用しません(コラボ企画は、「献血ルーム」での企画なので)。結果として、関東圏=7都県 vs それ以外=36道府県のデータを利用します。

また、各都道府県の人口(15歳~64歳)も利用することにしました。献血可能な年齢とは微妙にずれますが、統計局ホームページから利用可能なのは、このデータのみでしたので、今回はこれを用います。

下記が使用したデータセットとStataコードです。ご指摘等あればよろしくお願いいたします。

Synthetic Control Methodという方法で解析

Synthetic Control Method(SCM)という手法をとりました。この方法について説明すると長いのですが、Dr. KID先生のサイトにて分かりやすい説明があります。最初に登場した論文はAbadie先生とGardeazabal先生の論文ですが、最近はいろいろと使われています。

今回の場合は、まず、介入=宇崎ちゃんコラボキャンペーンと定義しました。

そして、「介入地域=関東圏」 vs 「対照地域=その他」で2019年10月の献血者数を比較します。しかし、関東圏とその他では、諸条件が異なりますので、比較が成立しない懸念があります。

そのため、2018年11月~2019年9月(介入前)の献血者数や15歳~64歳人口・同割合が関東圏と一致するような合成対照(Synthetic Control)を作成します。この合成対照ならば、諸条件が揃うので、比較が成立します

SCMでは重みの計算という作業があります。

R, Stata, MATLABにはSCM用のパッケージがありますので、今回はそれを利用しました。

重みづけの条件としては、下記の2つの要素が「関東7都県平均」と「合成対照」できるだけ揃うように重みを計算します。
1.15歳~64歳人口
2.2018年11月~2019年09月の献血者人数

合成対照を作ってみた結果

条件に沿って重みを計算した結果、下記の様な重みになりました。
※最初にアップしていた値に誤記があり、修正しました。新潟の重みが0.396⇒0.393と変更になっています。

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これで、キチンとバランスがとれているかどうか確認しました。

実測値は関東7都県の平均値で、合成対照は上記重み付けで4県を合成した値で、関東以外道府県平均は36道府県の平均値です。

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重み付け後の結果、実測値と合成対照でかなり近い値になっていることがわかるかと思います。このため、実測値と合成対照は「宇崎ちゃんコラボキャンペーン」の実施の有無以外はほぼ同等とみなして良いと考えられます。

関東とそれ以外地域の献血者数の推移

重み付けする前の推移グラフです。

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縦軸の関係で対照地域はほぼ横ばいに見えますが、9月に減って、10月に増えるという傾向は、介入地域と同じです。

しかし、傾向の度合いは異なっています。例えば、介入地域(関東)では、8月~9月の変化がマイナス8.0%ですが、対照地域ではマイナス5.4%です。これでは、関東/それ以外を比較するには無理がありそうです。

2019年10月の関東は合成対照よりも増加している。

対照地域に重みを付けて(新潟、愛知、大阪、福岡の4府県以外の重みはゼロ)、合成対照地域とした時の推移がこちらです。2本の折れ線がおおよそパラレルになっています(そうなるように重みを付けた)。

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人為的に重みを付けたのは、2019年9月までです。10月については触っていません。関東では、1県あたり約780人増加ですが、合成対照では、1県あたり約533人増加です。

つまり、関東は合成対照と比べて約250人増加となっています。言い換えると、宇崎ちゃんコラボキャンペーンにより1都県あたり平均して250人の献血者数増加があったと考えられます。

2019/11/21追記:別記事にてp値を計算した結果、p=0.0589でした。α=0.05の水準では、帰無仮説は棄却出来ませんでした。

とはいえ、偶然誤差かも知れません。

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関東と合成対照の差を折れ線グラフで示した物ですが、ノコギリ状の推移を示しています。そのため、2019年10月の上昇は単なる偶然誤差の一部かもしれません。

注@2020/07/22:初稿では、単位根の存在を念頭に置いて「ランダムウォーク」という言葉を使っておらず、「偶然誤差」の言い換えとして「ランダムウォーク」という語を使っていました。これは誤解を招く表現なので、必要な箇所(気づいた箇所)を修正しています。

追加@2019/11/22:ランダムウォークなのか?

初稿では、すごくナイーブな感じで「ランダムウォーク」という言葉を使いましたので、単位根の存在を念頭に置いていたわけではありません。そのため、Tuba56@法律の素人様から下記のご指摘を頂きました。

拡張Dickey-Fuller検定とPhillips-Perron検定を行い、「単位根を持つ」という帰無仮説を検定しました。前者でp=0.0052、後者でp=0.0008でしたので、「単位根を持つ」は棄却されました。ランダムウォークじゃないのかよ

考察(=解析の限界点)

言うまでも無いことですが、関東圏に限らず各血液センター・献血ルームでは、献血者確保のため、いろいろ頑張っていらっしゃいます(日本の医療を支えるための仕事であり、本当に頭が下がります)。

たくさんあるキャンペーンの中からあるキャンペーンだけの効果を検証するということは不可能に近いと思います。そのため、ここで明らかになっているのは、献血ルームの施策全般の影響を検証していることになっています。

つまり、元々注目していた宇崎ちゃんコラボ企画だけの影響を抽出はできていないということです(そうすると、「何のための検証なんだ?」って話ですが)。

繰り返しにになりますが、結局わかったのは、「関東圏の献血ルームの諸施策(宇崎ちゃんコラボ企画含む)によって献血者数は1都県あたりの平均で250人くらい増えた。」ということです。

短期的な効果については上記の様に言えますが、長期的な効果や他のベンチマークはわかりません。例えば、宇崎ちゃんコラボ企画の主力ターゲットと思われる20歳前後男性の献血増減、特に新規献血者数増減などが他のベンチマークとして考えられます。ただ、細かいデータも公開されていませんので、なんとも言えません。

こういった検証については、日赤の中で行われている事と思いますし、その結果に沿った次の施策・企画が動くことと思います。

なお、もし「そういった検証が必要だが、解析・検証する手が足りない」という場合は、当方にて承りますのでご相談ください。にっこり(ダイマ1回目)。

利益相反(COI)の開示

まず、金銭・経済的ではないCOIについて開示しておきます。

私は、このコラボ企画を知るまで「宇崎ちゃんは遊びたい!」というマンガを寡聞にして知りませんでした。コラボ企画に関する情報がTwitterのタイムラインに流れているのを見て、電子書籍で1~3巻を購入して、面白いと感じました。多分4巻以降も買うと思います。

献血については、制限事項に引っかかっているため現在は献血を全くしていませんが、かつてはハイペースで成分献血に行っていました(記念品も貰っています)。さらに、研修医時代には献血の問診医のバイトをしていたこともあります。

このような金銭・経済的ではないCOIから、正直な所をいえば、コラボ企画で献血者数が増えていたら良いなぁとは思っていました。

また、コメント頂いたり、ツイートを引用させて頂いた方達との利益関係はありません。様々なご意見・ご指摘を頂きありがとうございました。

さらに、金銭・経済的なCOIもありません。ただし、金銭を頂くことを拒否している訳ではありません。何か贈りたい方は是非お願いします(ダイマ2回目)

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