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続・宇崎ちゃん献血コラボによって、献血者が増えたのか確かめてみた結果

11月17日に公開したこの記事の続編です。

この記事では、「宇崎ちゃんコラボキャンペーンにより関東1都県あたり約250人の増加に寄与したが、偶然誤差の範疇の可能性あり」という解析結果を提示していました。

この記事に対して、舶匝様より早速にコメントを3点頂きました。ありがとうございます。

注@2020/07/22:舶匝様の記事が閲覧出来なくなっているようです。

3点のご指摘の何れも全くもってその通りという内容でしたので、新たに記事を作成することにしました。論文でいうところのRebuttal letterみないな物です(長文)。

台風の影響はどうなのか?

一、あの台風の影響がデータに混じっている恐れ大。
 関東圏の各血液センター、休みだった日が二日ありました https://www.bs.jrc.or.jp/ktks/tokyo/2019/10/19-2.html そのため、大々的な献血の呼びかけhttp://www.jrc.or.jp/activity/blood/news/191016_005911.html が全国規模でなされました。

この台風19号の影響は、先の記事ではすっぽりと抜けていた視点でした。

関東圏の献血ルームで2日間(10月12日、13日)の休みがあることにより、献血者数減少している可能性が高いと考えられます。また、台風19号で打撃を受けた潜在的な献血者は、自ら献血に行くどころの話では無いでしょうから、10月14日以降の献血者減少も考えられます。

一方で、それ以外の地域では、大々的呼びかけにより、献血者増加があったことが見込めます。

この2つの影響を合わせて考えると、台風19号の影響が無かったとしたら、関東と合成対照の差はより大きかったと考えられます。

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よって、「宇崎ちゃんコラボキャンペーンにより1都県あたり平均して『少なくとも』250人の献血者数増加があった(偶然誤差の可能性あり)」という結論への影響は少ないと考えられます。
※:台風19号の影響がなければ、差はもっと大きかったと考えられますので、「少なくとも」を追加しています。

追記@2019/11/22:台風の影響は本当のところどうなのか?

じゃもし様からご指摘を頂きました。

台風後の10月14日以降に、日赤の呼びかけや献血ルームの時間延長という施策が功を奏して、逆に増加した可能性があるというご指摘です。

このような台風後の状況について、寡聞にして知りませんでしたので、ご指摘がありがたいです。

このご指摘を元にすると、下表のような考察ができますので、247人というのが過大評価の可能性が出てきました。というか、その方が可能性が高そうです。

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p値の件(この記事)もあって、247人という数値への信頼性が下がっていきますね。

過去のキャンペーンの影響を考えるための寄り道(長い)

二、他のアニメ漫画コラボの影響がデータに混じっている恐れ(特に関東圏)。
 関東の血液センターは、アニメ漫画とのコラボを繰り返し打っている。その影響が過去のデータに現われている恐れあり。

この「過去のコラボの影響」については、Synthetic Control Method(SCM)で対処できていると考えています。これを説明するために、Directed Acyclic Graph(DAG)を使います。

DAGについては、鈴木先生の論文や下記のkoro485先生のブログに解説されています。

また、Causal Markov Assumption(CMA)が成立していると想定しています。CMAはざっくりいうと、「DAG上のあるノードの親で調整すると、非子孫以外とは確率的に独立になる」ということです。

例として適当なDAGを挙げます。

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この例では、「PA1~PA3で調整すると、V1はV2以外とは確率的に独立になる」ということです。

CMAについては、先の鈴木先生の論文のp.799に解説がありますし、更に詳しい解説はMethods in Social Epidemiologyにあります。

過去のキャンペーンの影響をDAGを使って考えてみた

ずいぶんと寄り道が続いてしまいましたが、本筋に戻ります。このコメントについての考察です。

二、他のアニメ漫画コラボの影響がデータに混じっている恐れ(特に関東圏)。
 関東の血液センターは、アニメ漫画とのコラボを繰り返し打っている。その影響が過去のデータに現われている恐れあり。

まず、SCMを使うにあたってどのような因果ダイアグラム(DAG)を想定しているかを示します。

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このように、ある月の献血者数は「過去の献血者数」と「当該月に実施された施策などの要因」に影響を受けるというモデルです。
※:図では「略」としていますが、2018年12月~2019年8月も同様の図があると思って下さい。

青色で示しているノードは、SCMによって関東/合成対照で調整をかけた変数を示しています。一方で、2018年11月~2019年10月の施策については、変数のデータを持っていないので調整することができなかった変数です(黒字で書いています)。

このような状況下ですが、Causal Markov Assumption(CMA)下では、「あるノードの親で調整すると、非子孫以外とは独立になる」ため、知りたいアウトカムである「2019年10月献血者数(黄色)」は、条件付けた2018年11月~2019年9月献血者数と確率的に独立になるだけで無く、各月施策とも確率的に独立になります。

残ったのは「2019年10月施策」です。DAGで示した因果構造が正しければ、「2019年10月施策」と「2019年10月献血者数」は独立とはなりません。さらに、時系列で考えれば、施策が先行するのは自明ですので、2019年10月施策(宇崎ちゃんコラボなど)が2019年10月献血者数に与える影響を検討できていると考えられます。

しかし、この考察には欠点があります。

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このDAGのように、過去の施策が2019年10月献血者数にも影響している場合には、対応しきれていないということです。

このような影響があるのかどうかは、今回の解析や利用可能なデータから明らかにすることはできませんでした。

ただ、直近の影響はあるかもしれませんが、過去に遡るほど影響の程度は減っていると考えられます。つまり、2019年10月献血者数に影響があるとしても、2019年8月・2019年9月の施策くらいではないかと思います(この辺の時期にアニメ/マンガコラボが有ったのでしょうか?)。

誰のためのコラボで、誰が献血に来てくれたのか?

三、データの変化は、新規の献血者によるものなのか、常連の献血者よるものなのか。
 そもそも、アニメ漫画とのコラボは、新規の献血者獲得と常連の献血者引き留めのどちらに軸足を置いているか。

3点目のご指摘も重要なものと考えます。

コラボの成功/不成功のベンチマークの1つは、元々のターゲットへの行動変容に効いたかどうか?です。

しかし、公開データでは、新規献血者か常連献血者かは示されていません。日赤の中で検討されているものと思います、おそらく。

利益相反(COI)について

宇崎ちゃん献血コラボ関係の利益相反は、11月17日の記事中の通りです。また、コメントを頂いた舶匝様との利益関係はありません。

また、コメント頂いたり、ツイート等を引用させて頂いた方達との利益関係はありません。様々なご意見・ご指摘を頂きありがとうございました。

金銭・経済的なCOIはありません。ただし、金銭を頂くことを拒否している訳ではありません。何か贈りたい方は是非お願いします(ダイマ)

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