広瀬和生「この落語を観た!」vol.13

7月9日(土)
「立川談笑月例独演会」@国立演芸場


7月9日の演目はこちら。

立川談笑『粗忽の釘』『たがや』『八百屋お七~比翼塚の由来』

隣家で女房と所帯を持った経緯を話しているうちに「俺はアイツのことを幸せにしてやってるんですかね!?」と泣き出してしまう『粗忽の釘』、殿様の首が飛んだ後たがやが無責任な群衆に怒って斬り込んでいく『たがや』で仲入りとなり、後半へ。この日のハイライトは『八百屋お七~比翼塚の由来』。芝居になった江戸時代の“八百屋お七”の悲劇を基に、談笑が独自に創作した噺だ。

八五郎が隠居に「比翼塚っていうのを見たんですけど、八百屋お七の話って本当にあったんですね」と言うのが始まり。「あれは私が若かった頃の話だよ」と隠居が語るのは、八百屋の娘お七の悲恋物語。火事で家が焼けて駒込の吉祥寺に仮住まいした時、小姓の吉三郎といい仲になったお七、建て直した本郷の家に戻ってからも人目を忍んで逢瀬を重ねていたが、評判の美女お七に横恋慕した番頭がそれを主人に言いつける。

番頭は吉三郎がろくでもない奴だと主人に吹き込み、やり取りしている手紙でお七が「また火事になればいいのに」と書いたと大袈裟に伝える。怒った父はお七を叱りつけ、吉三郎と夫婦になりたいと訴えるお七に「お前は番頭と一緒になって店を継げ」と命じる。番頭は悪い人だという娘の訴えに父は耳を貸さない。

ある夜、中庭の物置で物音がしたのでお七が見てみると、火の手が上がっている。お七は「火事です!」と叫んで火の見櫓に登って半鐘を鳴らした。すぐに火消しが駆けつけ、幸いボヤで収まったが、役人に番頭が「逃げていく吉三郎を見た」と言い、「これを落としていきました」と証拠の手拭を見せる。お七は「木戸は内側から鍵が掛かってました。番頭さんが火をつけたんです!」と訴えるが、誰も耳を貸さない。このままでは吉三郎が火あぶりにされると悟ったお七は咄嗟に「私が火をつけました!」と言ってしまう。「評判の美女お七が恋人の身代わりに火あぶりになる」という話は江戸中で評判になり、大勢の見物人の前でお七は処刑された。

「……という話だよ」と隠居が語り終えると、八五郎が「お七かわいそうじゃないですか!」と憤る。「どう考えても番頭が犯人でしょう!」 隠居は「番頭は身を持ち崩して賭場で殺された」と告げるが、八五郎は「吉三郎って奴も、鈴ヶ森の刑場に来なかったのが許せない」と、怒りは収まらない。

そんな八五郎に、隠居は「お七は焼け死んだと思うか?」と言う。隠居が語った火あぶりの様子は「材木に括りつけられたお七の周囲に杭を立ててむしろで囲い、薪の束がお七をすっかり隠すほど積み上げられ、油が掛けられて焼かれた、というもの。実はここにからくりがあった。真相に気づいていた奉行の慈悲で、薪を積み込むどさくさに紛れてお七は逃がされていた……「ということなんじゃないか?」と隠居。

「じゃあ、お七は?」「吉三郎と二人で江戸を離れ、名前を変えて仲良く暮らし、長い年月が経ってほとぼりが冷めた頃、江戸に戻って幸せに隠居暮らしをしてるんじゃないかな。なあ、お七」

お七を救いたいという想いで「衆人環視の中で焼け死んだはずのお七を救い出す」トリックを創作し、ハッピーエンドに持っていた談笑。さすがである。火あぶり隠居の回想シーンの真に迫った語り口も見事。名演だ。

※S亭 産経落語ガイドの公式Twitterはこちら※
https://twitter.com/sankeirakugo