広瀬和生の「この落語を観た!」vol.32

8月1日(月)
「道楽亭ネット寄席 立川笑二独演会“ひとり噺”」

(7/31の配信をアーカイブで視聴)

広瀬和生「この落語を観た!」
8月1日の演目はこちら。

立川笑二『権兵衛狸』
立川笑二『鉄拐』
〜仲入り〜
立川笑二『お直し』

マクラでたっぷり笑わせた後の一席目『権兵衛狸』は冒頭で権兵衛が若い頃はヤンチャだったが綺麗な女房をもらってガラッと変わって働き者となり、その女房に死に別れてからはすっかり好々爺となって村の若い者たちに慕われるようになった、というエピソードを語る。このエピソードが、権兵衛の「オラのカカ様の命日に殺生はしたくねえ」という台詞に深みを持たせた。

笑二の『鉄拐』は全編に独自の演出を施した傑作だ。仙境を訪れた金兵衛が鉄拐を「俗に染まった連中に仙術で人の道を説いてください」と説得して上海に連れ帰ると、人気が出て増長した鉄拐に腹を立てた連中が仙境を訪ね、出会った張果老に鉄拐の世俗にまみれた様子を伝える。すると張果老は「堕落した鉄拐兄さんに意見をしてやろう」と言って、上海へ。鉄拐と張果老は東王父一門の兄弟弟子だという。

人気者の鉄拐に近づくためには自分も寄席に出て人気者に、と考えた張果老は瓢箪から駒を出す芸で鉄拐と人気を二分するように。これが面白くない鉄拐は、寝ている張果老の部屋に忍び込んで瓢箪の中の馬を呑みこもうとするが、「やめてください!」と張果老に咎められる。「そこまで落ちましたか、兄さん。私は兄さんに目を覚ましてほしかった。仙境に帰りましょう。これを言うために私は寄席に出たんだ」

「お前のおかげで目が覚めた。また修業のし直しだ。一足先に仙境に帰るよ」と言って鉄拐が去る。すると張果老は意外な一言を……。皮肉に満ちたサゲは笑二オリジナル。談志十八番『鉄拐』を独自に作り変え、見事に自分のものにしている。

『鉄拐』のサゲも意外だが、笑二の『お直し』はもっと意外……というか、噺全体に大きな仕掛けがある。通常の『お直し』そのものも堪能させつつ、驚愕のドンデン返し。この衝撃をぜひ味わってほしいので、ネタバレは避けておく。『鉄拐』も『お直し』も、笑二の代表的な“改作”と言っていいだろう。その二席が聴けて嬉しかった。


次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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