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私の『ゲストハウス思い出ノート』



《プロローグ ―空き家― 》

2021年6月。
散歩の途中で気がついた。
近所の、今にも崩れそうだった空き家の解体が始まった。
夏には台風も来るし、隣家とも近い。
雨が降る度、強い風が吹く度に建物が崩れないだろうかと心配だった。
だから少し安心した。
寂しさもあった。
ふと解体中の空き家の方に足が向いた。
いつも眺めるだけで、近づいたことはなかった。
壁はなくなり、柱と水道などの設備だけになった状態。
いつも以上に哀愁を漂わせていた。
外からふと覗いた。
洗面所だったであろう箇所でふと足が止まる。

洗面台


こ、こ、これは・・・!!

・・・2014年、鎌倉のゲストハウス 『亀時間』で数日間宿直のお手伝いをした、あの頃の記憶が一瞬で蘇った。

《1.お金》

2014年、あの頃の私は東京で訪問介護の仕事をしながら毎日を忙しく暮らしていた。
一生懸命働き、休みの日にはそのお金で友人たちと遊ぶ。
欲しいものは、量販店かネットで買える。
あまりにも典型的な生産と消費に疑問を感じていた。
だけどそこから脱却できずにその疑問は胸の中にしまって過ごしていた。

その当時の東京で、私は(多かれ少なかれ、きっと誰もが同じだったように)
『3.11』『原発』『政治』『選挙』『消費社会』などの小難しいことに片足を突っ込みたいような、突っ込みたくないような・・・そんな暮らしをしていた。
いつも頭の片隅にこれらの言葉があり、だけどどれにも実感が湧かなかった。
私の実感のなさは、解決方法どころか課題すら見つけられないほどだった。
なんとなく、時代の転換期のような気がするだけだった。

会社からのお給料は銀行振込だった。
毎月いろいろなお金が引き落とされ、残ったお金をA T Mで引き出して使う時にやっと「自分で稼いだお金」という実感が少しだけ湧いた。
でもA T Mの中からお金が出てくる仕組みは、考えても考えてもわからなかった。

《2.小さな頃から》

頭で考える前に体が動いていた。
母が危険を知らせる前に、
先生が注意事項を言う前に、
自分の身がどうなるかを予測し終える前に。

あるときはレストランの熱せられた鉄板にジューっと触り、
あるときは頭からプールにドボーンっと飛び込み、
あるときはバイクごとトラックの下にガッシャーンっと滑り込み、
あるときはオーストラリアの農道でウワーンっと絶望した。

どれも、危険なことだとわかったのはやってみた後。
だけど、どれもやってみないとわからなかった。

武勇伝ではない。
やる前にわかれば、それに越したことはないと、ずーっと思っている。
本当に、やる前にわかりたい。わかってやめられたらどんなに楽だろうと思う。

だけどやってみないとわからない。
病気かもしれない。
でも病気かどうかはもはやどうでもいい。
私はやってみないとわからないし、やってみた方が断然楽しいのだ。
いろいろ理由をつけてやっていない人の話はつまらない事が多い、とさえ思う。

《3.大分県佐伯市にて》

 
2021年8月現在、私はゲストハウスを経営している。
これを「経営」と呼んでいいのかわからないけど、宿泊したお客さんからお金をいただき、そのお金でゲストハウスを維持して、余ったお金で食べ物や服や生活に必要なものを買って暮らしているので、これはきっと「経営」なのだと思う。初めてから1年と10ヶ月が経った。


宿泊料は少し変わっていて、1000円+投げ銭。
投げ銭にした理由はいろいろあるけど、やってみたくて、もう仕方がなくなったから。
やってみないとわからないから。
さすがに、ゲストハウスを始めるにあたっては計画書を書いたり、許可申請をしたり、しっかりと順を追ってこなした。と思う。
お馴染みの見切り発車だけではどうにもならず、いろいろな人に助けてもらった場面がたくさんあった。
そして今もたくさん助けてもらいながら暮らしている。


《4.鎌倉のゲストハウス亀時間にて》

2014年、亀時間の手洗い場で、私は澄里(すみさと)さんに「これってなんですかね?」と聞いた。
手洗い場の陶器のシンクにある丸いくぼみだ。
昔からそこにあるであろう古いシンクでしか見たことのないもので、その丸いくぼみを使っている人を見たことはない。
丸いくぼみの底部分には排水用と思われる直径5mm程の穴が開いている。

澄里さんは、カメラマンで、旅人で、何をしているのか単純な肩書きだけでは理解できなかった。詳しい説明を聞いても、よくわからなかった。
私が宿直のバイトをしていた時に手伝いとして亀時間で働いていたので業務のあれこれは澄里さんからも教えてもらった。その日もチェックアウト後のゲストハウスの掃除を一緒にしていた。

私と澄里さんは手洗い場のその不思議なくぼみを眺め、触ったり覗きこんだりしたが、よくわからない。
「すぐに調べず、宿の掃除をしながら各々で考えてみよう」ということになった。

そのシンキングタイムがなんだかすごく楽しかった。
手を動かしながらもそれぞれの想像力をフル回転させ、知的な回答やへんてこりんな回答を発表しあった。
とてもくだらなくて印象的だった。

『亀時間』という、地域に溶け込み、地域に大切にされながら存在しているゲストハウス。
あの頃の私が小難しく感じていた社会の課題のようなものを、さらっと小さく実践し、周囲に大きな影響を与えていたゲストハウス。
そしてそのゲストハウスを作って経営しているマサさん。
簡単に言えば「憧れ」という言葉に要約されてしまうのだろう。
そのゲストハウスでマサさんや澄里さんと話し、時間を共有できたことが、私にこんなに大きな影響を与えていたなんて。
今、自分もゲストハウスをするようになり、今回マサさんに依頼され、この文章を書き始めた。


《エピローグ》

2021年大分県佐伯市、何をするにも実感が伴っていて、毎日が刺激で溢れている。
信頼できる人たちと、自分たちの欲しいまちや暮らし方を思い描き、次の一手を考えながら前を向いて歩いている。
社会の課題と言われるようなことに繋がっていることもあるし、そうでもないこともある。
すること全てに実感が伴っていて、常に「楽しみ」と言える気持ちがついてくる。

あの時、亀時間に抱いていた「憧れ」を自分で実現してしまったような気がする。
いや、憧れていた姿よりも、もっと実感を伴い、楽しんでいるかも。
日々を一緒に過ごす地元の人、たまに交わる旅人。
ここ大分県佐伯市でしか、さんかくワサビでしかできないものや雰囲気が毎日ポンポンと生み出されている。

さらっと小さく実践し、解決したり失敗したりしながらくだらないことで笑い合っている。

そこに住んでいる人にしかできないこと。ふらっと訪問した人にしかできないこと。
これからもどんどん交わって、さんかくワサビといういつまでも不完全なゲストハウスができあがっていくのだろうと思う。

ワクワクする。


あ!みなさんが今、一番気になっている丸いくぼみ。

洗面台

これは、いろいろな説があって、正解がどれだかはわかりません。
コップ置き、歯ブラシ・カミソリ置き。
はたまた痰を吐くところだという説も。
謎は深まるばかり。

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以上、「6月中には書き終えます!」とマサさんにお伝えした私の「ゲストハウスの思い出ノート」でした。
遅くなっちゃった。ごめんなさい。




企画について・・・

思い出を投稿して全国ゲストハウスの豪華賞品をGETしよう!
「ゲストハウス思い出ノート」

ゲストハウス(ホステル)に置いてある宿帳に、宿スタッフへの感謝や旅の思い出を綴るように、全国のゲストハウスでの思い出をWEB上のnoteとインスタグラムに投稿して、 #ゲストハウスを応援しよう !
コロナの影響を受けて、全国のゲストハウスは苦境に立たされており、各地で廃業の声も聞こえています。今回、旅を愛する皆さんの力を集めて、ゲストハウスの魅力を再度見つめ直し、みんなで共有して、宿のスタッフも元気づけられるような企画を立ち上げました。

優秀な作品には、宿オーナーたちが用意した豪華賞品が贈呈されます。みなさま、奮ってこの企画にご参加ください!


●参加方法

スタイルは自由。文章、文章+写真、詩、動画などnoteに投稿可能な形式ならなんでもOK!
①noteの場合:gh.omoide.note@gmail.com宛にメールで原稿送付。できれば見出し用イメージ写真を1枚付けてください(サイズ1280 × 670 px推奨、写真は複数枚OK )。投稿方法がわからない場合、メールにWord、Textを添付でもOK。→note公式ページで公開。ご自身のnoteアカウントがある方は「♯ゲストハウスを応援しよう」を付けて投稿もOK!
②インスタグラムの場合:ハッシュタグ「♯ゲストハウスを応援しよう」を付けて、写真と文章を投稿 →こちらでnoteにリンクを貼り付けます。

●募集期間:2021年6月21日(月)~8月31日(火)
●結果発表:2021年9月15日(水)note公式ページにて最終発表。毎週ごとに入選作品の発表も予定しています!

投稿ルールや懸賞の内容などは「note ゲストハウス思い出ノート」で検索して公式noteページにアクセスしてください。


よりよいゲストハウスにするために使います。例えば、宿泊のお客さん向けの近隣ごはん屋さんマップを作ってみたり。