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【化学メーカーDXの歴史】易きになじます難きにつく AGC編

化学メーカーのMI活用やDX推進を盛り上げたいサンカク製作所です。

化学メーカーの中でも比較的高給とされ、SNS上ではあこがれの的であるとかないとか言われる「AGC」ですが、DXに関しても力を入れている企業として知られています。
今回は、「AGC」のMI活用/DX推進の経緯や現状を公開情報から纏めました。

自社のMI/DX推進や、就職先の参考等にご参考ください。


企業概要

三菱グループの一角であり、建築用ガラス等を主力とするガラスメーカー

売上高(2022年12月期):約2兆359億円(連結)
研究開発費の売上に対する割合(2022年12月期):2.6%
従業員数:単独7,412名人(2022年12月31日現在)


【参考】

  1.  企業の研究開発費ランキングTOP100(2023年6月更新)|研究ネット (wdb.com)

MI活用/DX推進の推移

概要

 2017年からDXに関して本格的に取り組む。専門性の高い業務知識と高度なデータ解析スキルを併せ持つ「二刀流」デジタル人材の育成に注力。データサイエンティストは、2025年に上級人財100名の体制となるように育成を行っている。社内システムをクラウドに移管・整備しており、社内データ分析ツールの内製化を可能にしている。データ分析時のビジネスの独自の課題設定方法や、MIに関する論文も発信しておりDX化が進んでいることも積極的に発信している。

年別の活動内容

2014年
 基幹系システムのAWS移行を開始。

2015年
 Tableau導入。しかし、2年間はイノベーターやアーリーアダプターに受け入れられる段階でとどまる。

2017年
 ・フェーズ1としてDXに向けた基盤づくりを本格的に開始
 ・専門組織のDX推進部を発足し全社横断的な取り組みを開始。
 ・Tableau草の根プロモーション活動開始。2800ユーザーになったとのこと(時期不明)

2018年
 すべてのシステムのAWSへの移行を完了。

2018年or2019年
 データサイエンティスト育成プログラム「Data Science Plus 」を確立

2019年
 ビジネス課題設定のための独自手法「因果連鎖分析」を確立し。産業界のデータサイエンス普及のため、滋賀大学データサイエンス学部や、NTTデータ数理システムとともに勉強会を開催。

2020年
 ・自社独自ツールのARDIS(MIデータベースシステム)とAMIBA(MI専用分析ツール)の開発とテスト運用開始
 ・化学品プラント運転一括管理システム「CHOPIN」を開発。2021年より本格導入、2023年に複数工場での完全デジタル化を目指す。
 ・機械学習(ベイズ最適化)を活用した分子動力学に関する研究について論文を発表
   ・DX銘柄2020に選定される。
 ・グローバルでデータサイエンティスト1,735名、上級人材39名を育成

2021年
 Alteryx社のデータ分析プラットフォームAlteryxを導入し、化学品製造業務におけるデータ分析を効率化させ、化学品プラントのスマート化を開始。

2022年
 ・ARDISとAMIBAがR&D部門で7割導入済み
 ・グローバルでデータサイエンティスト3,500名、上級人材68名を育成

2023年
 ・デジタル・イノベーション推進部を設置。DX戦略立案、デジタル人財育成、技術開発、生産性革新・向上の関係部門を統合
 ・「分子類似度サンプリングによる深層ニューラルネットワーク 電子イオン化マススペクトル予測の改善」、「Modeling Short-Range and Three-Membered Ring Structuresin Lithium Borosilicate Glasses Using a Machine-Learning Potential」といった機械学習に関する論文を発表。

2025年
 ・ARDISとAMIBAについてR&D部門に導入完了予定。および事業部に展開予定。
 ・グローバルでデータサイエンティスト5,000名、上級人材100名を育成予定

教育プログラムに関して

 各層の定義は異なるが、三菱ケミカルと同様に3層に分けて教育を進めている。

・上級:データサイエンスによる自部門の課題解決
・基礎、応用:データサイエンス手法の習得。プログラミング言語の習得
・入門:データサイエンスの一般教養

教育プログラムの「Data Science Plus 」対象者は、入門講座・基礎編・応用編と段階的に選抜される研修を行った後、AGC先端基盤研究所への半年から2年間の社内留学を行い、各部門からの課題を解決することを通して鍛えられるようだ。

Tableauが導入されているが、マジョリティの普及で躓いた点から、オリジナルテキストの作成や月一の演習開催など普及部門の尽力により普及が進んだとのこと。大企業におけるDXは数年がかりの地道な努力が求められるようだ。

普及に関してはこちらの記事もご一読ください。

システム開発力:クラウド化とアプリケーション構築

 情報システム部門がシステムをAWSに移管するだけでなく、「Alchemy」、「Chronos」、「VEIN」など社内のクラウド基盤を整えることで各種アプリケーションの内製化を可能としているようだ。
 株式会社BeeXがパートナーとして伴走しているが、データサイエンティストの中にも自作でWebアプリケーションを作成できる人材がいるようであり、ある程度は独力でアプリケーションも開発できそうなことが推察できる。

参考資料

  1. 3つの独自ツールでMI進めるAGC、研究部門の7割活用で成果着々 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com), 日経クロステック, 2022.08.30

  2. 素材開発を効率化、AGCが開発した「独自MIデータベース」の全容|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 (newswitch.jp), 日刊工業新聞, 2022.06.21

  3. AGC、独自開発のマテリアルズ・インフォマティクス用DB/分析ツールの本格利用を開始 | TECH+(テックプラス) (mynavi.jp), Tech+,2022.06.21

  4. トップダウンと二刀流人財による ボトムアップが生む新たな価値 創業115年のメーカーを DXで変革するAGC, AGC社HP

  5. 「2025年の壁」の克服とDXの加速 DX Insight 2023 summer Review - 日経ビジネス電子版x日経クロステック Special (nikkeibp.co.jp),日経クロステック

  6. 化学品プラントにデータ分析プラットフォームAlteryxを導入, AGC社HP

  7. 化学品プラント運転一括管理システムを開発, AGC社HP

  8. 攻めのIT によるDX の実現 -「デジタル民主化」の武器としてTableau を活用 -

  9. How fluorine minimizes density fluctuations of silica glass: Molecular dynamics study with machine-learning assisted force-matching potential - ScienceDirect, Materials & Design, 2020.10.08

  10. 分子類似度サンプリングによる深層ニューラルネットワーク 電子イオン化マススペクトル予測の改善 , AGC Research Report, AGC社HP

  11. Modeling Short-Range and Three-Membered Ring Structures in Lithium Borosilicate Glasses Using a Machine-Learning Potential | The Journal of Physical Chemistry C (acs.org), J. Phys. Chem. C 2022, 126, 50, 21507–21517

  12. DX銘柄2020にも選定されたAGCのクラウドジャーニーとは (1/2)|EnterpriseZine(エンタープライズジン), EnterprizeZine, 2021.02.17

  13. AGC、ビッグデータ時代のビジネス課題設定に向けた独自手法「因果連鎖分析」を確立 - 日本経済新聞 (nikkei.com), 日本経済新聞, 2019.11.14

  14. 「MIと泥臭い研究は両方必要」AGC内製データサイエンティストが描く理想郷 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com), 日経クロステック,2022.08.25

  15. ガラス溶解シミュレーションシステムの本番展開を BeeXが伴走支援〜インフラ展開自動化を実現し、 アプリケーションコードの品質を向上, BeeX社, 2023.10.06



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