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マテリアルズ・インフォマティクス人材のキャリア戦略

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)が化学メーカーでブームになって数年がたちます。

若手のキャリアアップの側面もあり、それなりの数の若手研究開発者がデータサイエンススキルの獲得にチャレンジしているかと思います。

一方で、データサイエンスが普及するにつれてスキルもコモディティ化します。

マテリアルズ・インフォマティクスに挑戦した時期の違い別にキャリア戦略を考えてみました。


キャリアを考える上での前提の整理

今回は黒田悠介氏のライフピボットに記載の内容を参考に、キャリア戦略を考えていきたいと思います。

同書では、「経験と蓄積と偶然によってキャリアの転換を実現させること」を「ライフピボット」と呼称しています。

そして、このキャリアの転換を実現させるには3つの蓄積が重要であると述べています。

①価値を提供できるスキルセット
 テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキル
②広く多様な人的ネットワーク
③経験によるリアルな自己理解

テクニカルスキルとは今回の場合には、いわゆるデータ分析力そのものや、材料開発に関する知識・知見となります。

ヒューマンスキルとは、コミュニケーションやヒアリング、リーダーシップなどが当てはまります。

コンセプチュアルスキルとは、論理的思考、応用力、チャレンジ精神、先見性などとなります。

MI人材の区分

人材を二つに分けます。

1つはファーストペンギン人材です。
各企業内あるいは部署内で、MI活用を立ち上げから推進までを行ってきた人々です。

もう一つは、フォロワー人材です。
自社でMI/DX推進部門などが立ち上がり、社内教育を受けてMIに着手し始めた人々です。

ファーストペンギンのキャリア戦略

ファーストペンギン人材とは

ファーストペンギン人材は、MIとは?役に立つのか?どう進めるのか?といったところからMIの活用を検討してきた・している人材です。

そのため、MIについて社内で教えてくれる人がいない中、すべて社外から情報を集め、社内の各部署・上司・部下に説明や説得、教育を行い、数多の社内規制を突破し、成果を上げることへのチャレンジが求められます。

これをスキル蓄積の観点で見ると、テクニカルスキルの習得に時間はかかるものの社内的には先導者であり、立ち上げ業務を行う中でヒューマンスキルや、コンセプチュアルスキルも高い水準に達していることが推測できます。

また、MI推進は横ぐしてきな組織が設置されることが多く、社内の(あるいは社外を含む)広い人的ネットワークを獲得している人材が多いと推測します。
さらに、立ち上げに伴い多様な経験を行うことから、自己理解も進んでいると思われます。

国内でMIの本格的な検討が始まったのは2010年代からであり、データサイエンスの実務を行った経験のある40-50代の管理職層がほとんど存在しない状況です。
ファーストペンギン人材は、上手く成果を上げていれば30代前後でも社内の出世頭的な立ち位置になっているでしょう。

ファーストペンギン人材のこれから

以下のルートがあるのではないかと考えます

①社内のMI推進リーダー人材として活動する
 今までの人的ネットワークや、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルを活かしつつ現行のキャリアをさらにマネジメント側に伸ばしていく方向性です

②MIの専門家として極めていく
 社内屈指のMIスキルを、社会人博士やkaggleなどの外部の力を活かしてさらに伸ばしていく方向性です。
 MIの社会人博士はまだ人数が多くないでしょうし、kaggle もmasterランクまで達すると日本全体で300名もいないため、十分に専門家として活躍できるでしょう。

③リーダーシップやチャレンジ精神を活かして新規DX事業に挑戦する
 大手企業は自社のデータ分析だけでなく、自社アプリの開発やサービス化に手を出す傾向にあるようです。これそのものが成功するのかは定かではないですが、こういった流れに乗る方向性もあるのではと考えています。
 実際にDXが進んでいる化学メーカーの中には、プロダクトマネージャー(サービスやアプリの方向性をマネジメントする人)やDX事業推進者を募集しているようです。
 また、SNS上でも化学系のデータサイエンティストからプロダクトマネージャーにコンバート(兼務)する人も複数名観測されています。
 あるいは最近の流れでは自動実験がブームなのでIoTやロボティクス側の方に知見を伸ばしていくというのもありかもしれません。

④よりMI活用度の高い会社に転職する
 そのチャレンジ精神から、よりレベルの高い環境/年収を求めて転職するパターンです。
 転職先に各種蓄積がなされたファーストペンギン人材が存在することに対して、転職者は人的ネットワークを失った状態から始まるため、思ったような権限が得られないことが想定されます。
 よりレベルの高い環境に何を求めているか整理が必要でしょう。

データ分析力やヒューマンスキルを活かして転職する
 そのチャレンジ精神から、よりレベルの高い環境/年収を求めてMIに限らないデータ分析企業や、コンサルに転職するパターンです。
 自己理解の末、純粋にデータサイエンスを行っていることが好きだったなどの方がこちらを選択するのかと考えています。

⑥材料開発主体に戻る
 獲得したデータ分析スキルを活用し、自身の開発している材料についてリーダー・有識者的なポジションを目指す方針です。MIの推進で社内ネットワークを獲得できているので、出来るだけデータ分析スキル以外の蓄積も活用できるような材料開発テーマを選ぶと良いかもしれません。

フォロワー人材のキャリア戦略

フォロワー人材とは

フォロワー人材は、MIとは何かが所属企業内で成果が既に示されており、ファーストペンギン人材が構築した教育プログラムを活用しつつMIの活用を行っている人材です。

そのため、人的・物資的環境構築を行う必要性が低く、テクニカルスキルの獲得ルートが示されている状況です。

このため、テクニカルスキルのキャッチアップは高速なものの、そのほかのヒューマンスキルや、人的ネットワークの獲得の機会がファーストペンギン人材と比較して乏しいことになります。

フォロワー人材のこれから

①データ分析もわかる材料研究開発者として活躍する
 獲得したデータ分析スキルを活用し、自身の開発している材料についてリーダー・有識者的なポジションを目指す方針です。もっとも王道ではないかと考えます。

②MI推進リーダー人材としての立ち位置を目指す

 ファーストペンギン人材と同様のルートをとるパターンです。ただし、ファーストペンギン人材と異なり、既にファーストペンギン人材がリーダーとして社内に存在しています。
 そのため例えば、社内公募などを活用してMIが普及していない空白部署で立ち上げ行うことによって実績や経験を積む。MIをこれから検討し始める会社に転職して、ファーストペンギン人材となるといった工夫を行う必要があるでしょう。

③MIの専門家として極めていく
 
MIスキルを社内屈指のレベルまで伸ばしていく方向性です。
 MIの社会人博士はまだ人数が多くないでしょうし、kaggle もmasterランクまで達すると日本全体で300名もいないため、ここまで至れれば十分に専門家として活躍できるでしょう。

④新しい領域のファーストペンギン人材となる
 
データサイエンスやそれ以外も含め、社内でもそれなりに自己啓発に励むやる気のある人材であることをアピールし、社内のDX事業(自動実験など)や、新分野向けの新規材料開発など自身がファーストペンギン人材となれる新しい領域を開拓する方向性です。

⑤よりMI活用度の高い会社にデータサイエンティストとして転職する
 基本的には、フォロワー⇒フォロワーの移動となるため、年収等いくつかの労働条件の項目でもってより良い条件を選択していく形になるでしょう。

データ分析力やヒューマンスキルを活かして転職する
 
よりレベルの高い環境/年収を求めてMIに限らないデータ分析企業や、コンサルに転職するパターンです。
 化学メーカーよりもデータ分析企業の方が平均的にレベルは高いでしょうし、自社の中でもトップクラスのデータ分析力を持っていない場合には、転職先でキャッチアップが求められるでしょう。
 自身が若手であればポテンシャル採用の面を期待しつつ、キャリアチェンジを図る方針です。

最後に

自身のこれからのためにも、どのような方向性があるのか書き出してみました。
皆様のキャリアの参考になれば幸いです。



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