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「夢幻回航」19回

沙都子は渋い顔を隠しもせずに、不機嫌そのもので、帰り道を歩いていた。
世機も眉間にシワを寄せて、仏頂面である。
西園寺時子に言いくるめられた感じで終わってしまった武具購入は、大変に痛い出費だった。
今回は採算が取れないので、このような金額の買い物などしたくなかったのだが、仕方がないと諦めるほど、割り切れた感情もなかった。

「時子、今度何かおごらせる」
沙都子がボソリとつぶやく。
世機も頷いたが、彼はまた、別のことを考え始めていた。
霊感とでも言うのか、ふいに如月姉弟のことを思い出していた。
果たして、連携して戦うことになるのだろうか?
淳也も順子も相当の手練と見えたが、実力はわからなかった。
呼吸を合わせるにしても、相手の技だってわからないのだ。
本当に実戦で合わせてみないとわからない。
未知数の戦力。
それは、相手にとっても同じことである。
どういった戦略を練り込んでいくか・・・。

考えても仕方がないことなのだが、世機という男は、こういった気配りが細かすぎて、むしろ沙都子のほうが男なのではないかとよく言われるほどだった。
だが、今回は、沙都子の方もいろいろと思考を巡らせている様子である。
いつもならば頭の中で何回かシミュレートしてみて、戦い方を練りだす世機であったが、今はそれをやるのにも、味方についても、敵側の戦力についても、わからないことが多すぎた。
答えを容易に見いだせないでいた。

「ねぇ、アイス食べたい」
沙都子が唐突に言い始めた。
世機ははじめ、沙都子が何を言い出したのか理解できずに、沙都子に視線だけを向けた。
「あそこにアイス屋さんが居る」
沙都子の指さした方角を見ると、アイスクリーム売の屋台が出ているのが見て取れた。
来るときはなかったが、いつの間に出来た?
世機はほとんど何も注意を向けずに、ただアイスの屋台を眺めた。
白い、改造された車の後部に、屋台の本体があり、その中でアイスクリームを作ることが出来るようだ。

「太るぜ」
世機の何気ない嫌味に、沙都子は眉を寄せて反感の意を顕にしたが、何も口に出さずに、アイス食べようと、世機の袖を引いた。
「小銭がないよ?」
世機が言うと、沙都子がすかさずに答える。
「大きいのだったらあるの?」
意地の悪い・・・。
「自分で出せよ」
「わかってるって」
と頷く。
「おごってやるよ」
沙都子はなんだか無理にはしゃいでいるのではないかと思った。
でもなんで?
別にどれほど不安があるわけでもなさそうだし、まあここしばらく表の仕事も含めて忙しかったから、こういった時間も居るのだろう。
世機も、対して深く考えないで、アイスクリーム売の屋台に向かって歩き始めていた。



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