『若草物語』は人生の教科書
”ジョー”とは『若草物語』の主人公、マーチ家の次女ジョセフィーン・マーチ。彼女は物語を書くことが何よりも大好きで、たびたび作家熱が爆発し引きこもってはただひたすらにペンを走らせる。現実のロマンスなんて二の次三の次で、意志が強く、はっきりものを言う性格だ。
『若草物語』が書かれた150年以上前、小説に出てくる女主人公の人物像はプリンセスや大金持ちのお嬢様、もしくは極端に貧乏な場合が多く、内容も色恋沙汰が中心の所謂シンデレラストーリーや悲劇ばかりだったという。
しかし、『若草物語』はアメリカの一般家庭に育った四姉妹の成長や家族をはじめ様々な人との温かな交流を主な題材とした小説で、家庭小説とも呼ばれている。
道徳的な教訓ばかりを扱った堅苦しい作品では決してなく、登場人物ひとりひとりの持って生まれた性質や悩みに優しく寄り添った、現代に生きる女の子も共感できる、人生の教科書のような役割を果たしてくれる物語だと思う。
今回はキャラクターの中で私が最も共感できる、男まさりで快活なジョーを中心に『若草物語』という類い稀な愛すべき群像劇から学んだ生き方について綴っていきたい。
”怒り”のコントロール
ある時ジョーは自分の短気によって損をするばかりか、幼い妹エイミーを危険な目に遭わせてしまう。
自身の悪い癖とどう向き合えばいいのかわからず嘆き悲しむ彼女に、お母様は優しくこう語りかけた。
その言葉にジョーはとても驚いた。いつも穏やかで愛情深いお母様の怒ったところなど、今まで一度も見たことがなかったからだ。
そんなお母様はどうやって自分の悪い癖と向き合い克服していったのか問うと、こんな名案が返ってきたのであった。
・激しい言葉が出てしまいそうになるたび、ぐっとこらえてその場を立ち去ってしまう
・怒りの感情が湧いてきたら、愛する人の顔を思い浮かべ気持ちを落ち着かせる
・信頼できる人に悪い癖を治すのを手伝ってもらう
昔から自分の短気でよく失敗をしていた私は、ジョーと自分を重ね合わせずにはいられなかった。
喧嘩になると言い負かしてやろうと強い言葉を使って相手を傷付けてしまったり、後からそれにとても後悔したり。
そんな私にとってマーチ家のお母様の言葉たちはとても強力なお守りになった。
これらの助言のおかげで怒りの原因はひと呼吸、ふた呼吸置くとおさまってしまうようなことが多いのだと知ることができた。
怒りを感じたら口を開く前にまずは一度冷静になってみることを心がけるようになった。
それから、短気に限らず悪い癖を自分一人で抱え込まないことも克服への近道であることに気が付いた。
お金より大切なもの
上記は実家を離れ都会で暮らすジョーが家族からのクリスマスギフトを受け取り書いた感謝の手紙だ。
まさに、プレゼントというものの本来の意味や素晴らしさを体現しているように感じる。
自分では手が届かない特別な品をプレゼントされるのは、確かに嬉しい。
でもそれ以上に、その人がいかに相手のことを想い選んだかが最も大切なことなのだと、この一節は思い出させてくれる。
物書きを目指すジョーにお手製のインク敷きやおすすめの本はぴったりの品物だし、懐かしい味や暖かい服ほど一人暮らしの人間にとってありがたい贈り物はないだろう。
人に与えるということにお金の有無は関係ない。
背伸びせず、工夫を凝らした”心づくし”のプレゼントは、それを受け取る人の心も贈る人の心もあたため、豊かにしてくれる魔法なのだ。
時代を超えて愛される『若草物語』には、今の自分に必要な言葉が満ち溢れていた。
今回は主人公のジョーにスポットライトを当てたが、他にも姉のメグや妹のベスやエイミー、幼なじみのローリーと、きっと共感し、成長を擬似体験できるキャラクターが見つかるはずだ。
『若草物語』は、目まぐるしい日々の中見落としてしまいがちな大切なことを再確認できる、まさに人生の教科書のような作品だった。
参考資料:『若草物語』(新潮文庫)、『続・若草物語』(角川文庫)
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