三五館シンシャ

1992年~2017年まで四谷に存在した出版社・三五館。25年で途絶えかけたその歴史を…

三五館シンシャ

1992年~2017年まで四谷に存在した出版社・三五館。25年で途絶えかけたその歴史をもう少し先まで描くつもりの、神田小川町のひとり出版社。シンシャとは「新社」と「深謝」。座右の銘は暗中模索。もう25年くらいやれたらいいなあ。http://www.sangokan.com/

マガジン

  • 倒産する出版社に就職する方法・青雲編

    出版業界への就職を志した男が、丸2年にわたり、外から覗き込めないかと背伸びしたり、どこか開いてる窓ないか探してみたり、ドアノブガチャガチャやったり、しまいにゃ扉に体当たりしながら大声出したり……悪戦苦闘する物語。2000年ごろと2018年ごろを行ったり来たり。

  • 出版社・三五館シンシャの話(2018年~)

  • エピソード「買いものは投票なんだ」

  • エピソード「ぼくらの地球の治し方」

  • 出版社・三五館の話(2000年~)

最近の記事

腐ったミカン--倒産する出版社に就職する方法・第77回

『やっぱ、この色。。。いや』 このメッセージがLINEに送られてきたとき、俺は思った。 「ああ、そうか……」 落胆などしていなかった。むしろ心のどこかでほっとしていた。隠し続けてきた年齢詐称が露見したアイドルのように。ゴーストライターが明るみに出た佐村河内のように。これでよかったんだ。俺は自分にそう言い聞かせた。 時はその1週間前にさかのぼる。 私は「色校」を脇に抱え、都内の喫茶店で『買いものは投票なんだ』の著者・ほうこと長澤美穂氏と向き合っていた。 「こんな感じなんです

    • もうひとつの世界--倒産する出版社に就職する方法・第76回

      「本日、緊急事態宣言を発出します。国民の命と生活を守るための決断です」 2020年4月7日、総理大臣は7都府県に緊急事態宣言を発出し、不要不急の外出自粛を強く求めた。緊急事態宣言を求める強力な世論が政治を押し切ったのだった。 女性キャスターは視聴者に呼びかけた。 「その命を奪ったのは私たちかもしれない。どうか他人事ではなく、大切な命を守るんだ。『自粛させられる』ではなく、すすんで自粛してください」 今、日本全国で日々10名もの尊い人命が失われ続け、また1日1200名もの人が負

      • キューブが落ちてくる--倒産する出版社に就職する方法・第74回

        風邪もインフルエンザも寝れば治る。私はそう信じている。 なぜなら、私はこれまでそうして風邪やインフルエンザを乗り越えてきた。 どうしようもなくつらければ、ひたすら寝ればいい。眠れば解決する。だから、私は眠った。 翌10日、布団の中で震えながら目を覚ます。歯と歯がぶつかりガチガチと音を立てる。異常な寒さだ。戦慄悪寒というらしい。 布団を這い出て、リビングに行き、体温計を脇に挟む。横目でちらちらデジタル表示を確認する。 ……36.2……37.2……38.0…… 数字が

        • SAIKAI--倒産する出版社に就職する方法・第75回

          この連載、やめたと思ったでしょ? 最終更新が1月22日で、そこから早3カ月。 それまでずっと1~2週間に一度ずつ更新してきたのが、3カ月更新されなかったら、ふつうもう二度と更新されないよね。商店街の和菓子屋のシャッター、3カ月閉まってたらもう潰れたと判断するよね。 ね、みんなも、もう二度と更新されないと思ったでしょ? じつは俺自身がそう思った。 いや、俺だって初めの1週間くらいは「早めに次、更新しないとな」と思ったよ。 2週間くらいで「そろそろマズイ。早く次、書かないと」と焦

        腐ったミカン--倒産する出版社に就職する方法・第77回

        マガジン

        • エピソード「買いものは投票なんだ」
          31本
        • 出版社・三五館シンシャの話(2018年~)
          60本
        • 倒産する出版社に就職する方法・青雲編
          40本
        • エピソード「ぼくらの地球の治し方」
          3本
        • エピソード「人は食べなくても生きられる」
          5本
        • 出版社・三五館の話(2000年~)
          20本

        記事

          インフルエンザウイルスから逃げ切るスピード--倒産する出版社に就職する方法・第73回

          2019年12月9日夕刻、私は阿佐ヶ谷の路上を小走りに駅へと急いでいた。背筋から全身へと広がる悪寒を感じながら、一刻も早く暖かな駅に駆け込もうとしたのだ。しかし、一歩一歩刻むたびに、悪寒も少しずつひどさを増しているような気がしてならない。 「やっぱり来たか……。やっぱり来たか……」 私は南阿佐ヶ谷駅の地下鉄へと続く階段を、そうつぶやきながら駆け足でくだった。 すでに終わりが始まっていた。 いや、始まりが終わろうとしていたのか。 そのさらに3日前の夕刻。数日苦しんだインフルエ

          インフルエンザウイルスから逃げ切るスピード--倒産する出版社に就職する方法・第73回

          メビウスの輪--倒産する出版社に就職する方法・第72回

          「1章ぜんぶ書き直す」って、この期に及んで何を言っちゃってるんでしょうか。 自動販売機に百円玉入れれば缶ジュースが出てくるように、印刷所に原稿渡せばゲラが出てくるわけではないのです。 ゲラにする際には、元の原稿に「誤脱字の修正」「用字用語の統一」「数字表記の統一」「事実関係の確認」などを行なったうえで、「文字の大きさ」「書体」などの指定書を作成し、印刷所に組版指定を行なうのです。それをもとに印刷所が組版を行ない「ゲラ」を出します。 たとえば「用字用語の統一」とは、同一出版物

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          なんかちゃうねんーー倒産する出版社に就職する方法・第71回

          さあ、カバーに使う写真は決まりました。 デザイナーに電話し、使用する写真とおおまかなデザインのイメージを伝えます。写真を確認したデザイナーからの「はぁ…」というため息は聞かなかったことにし、これでカバーはラフがあがってくるのを待つのみとなりました。 さて、続く課題は本文です。こちらもまだまだ課題は多いのです。 9月初旬のこの段階で、私と著者・藤原ひろのぶ氏の手元には『ぼくらの地球の治し方』の再校ゲラがあります。 ゲラとは、印刷物と同じレイアウトで組まれた試し刷りのことで、1

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          酸欠とカバーデザインーー倒産する出版社に就職する方法・第70回

          「酸欠やねん」 2019年9月初旬、都内喫茶店。 10月初旬刊行で進行中の藤原ひろのぶ氏の新刊『ぼくらの地球の治し方』の編集作業は佳境を迎えていました。タイトルは正式に決定し、続くはカバーデザインです。 カバーデザインはタイトルとともに本の顔ともいえる部分。内容を表現しつつ、書店店頭やネット書店でも一目でアピールできる存在感も重要になります。 写真か、イラストか、はたまた文字だけで表現するか、さらには使う用紙やその色合い、加工はどうするかまで、まさに編集者の手腕が問われるテ

          酸欠とカバーデザインーー倒産する出版社に就職する方法・第70回

          ひとはなぜ食べるか?ーー倒産する出版社に就職する方法・第69回

          4マス戻ります。 突然ですが、連載第65回に戻ります。あなたのせいではありません。「4マス戻る」のマスに停まったから仕方ないのです。人生にはそういうこともあります。気にしないでください。で、「人は食べなくても生きられる」と宣言した山田鷹夫氏との新潟県での打ち合わせシーンです。2004年です。 「食べない」とはいったい、どの程度食べないのか。これから『人は食べなくても生きられる』と宣言する本を作るにあたって肝要なポイントです。 山田氏は、コーヒーもビールも飲むし、アイスだって

          ひとはなぜ食べるか?ーー倒産する出版社に就職する方法・第69回

          新聞広告を考えるーー倒産する出版社に就職する方法・第68回

          こんな反響があるとは思いませんでした。 7月30日に、新刊『交通誘導員ヨレヨレ日記』という本の新聞広告をやりまして。 一面の下に書籍広告が8本の並んでいるスペースがありますよね。あれをサンヤツ(3段8ツ割)といいます。読売新聞にサンヤツ広告したんです。 新聞広告自体はサンヤツも半五段も何回かやっているので、三五館シンシャにとってもそれほど珍しいことではありません。ただ、その反応が思ってもみないものだったのです。 広告掲載当日の朝、9時半に事務所に来るやいなや、卓上の電話が鳴

          新聞広告を考えるーー倒産する出版社に就職する方法・第68回

          美しい風景--倒産する出版社に就職する方法・第67回

          新潟県十日町で開催される「藤原ひろのぶ×ほう×EARTHおじさん個展講演会」開催直前、著者のほう氏から不安げなLINEメッセージを受け取った私は、開催2日目、十日町に赴きました。 東京駅から新幹線で越後湯沢まで1時間半、そこから北越急行ほくほく線に乗り換え30分の道のり。十日町駅です。 道も不案内な上、小雨も降っていたため、私は駅前からタクシーに乗車して、個展講演会場「十日町産業文化発信館イコテ」へ向かってくれるように伝えました。「歩いてもすぐですよ」と教えてくれた、きっと地

          美しい風景--倒産する出版社に就職する方法・第67回

          imagine--倒産する出版社に就職する方法・第66回

          すみません。ちょっとタイムスリップさせていただきます。今から15年前、2004年を描いていた連載第65回から、一気に2019年7月にタイムスリップします。現在に帰るのです。現在に帰って、どうしてもみなさんにお伝えしたいことがあるからです。少々きついGがかかるかと思いますが、鼻つまんで耳から空気抜いてください。気分が悪くなった方はキャビンアテンダントまで。さあ、急降下、不時着します。場所はそのまま変わらず、新潟県十日町近辺です。 『やばい。。。』 新潟県十日町市からのSOSが

          imagine--倒産する出版社に就職する方法・第66回

          それホントやったんか?--倒産する出版社に就職する方法・第65回

          その1時間ほどのち、われわれ二人は施設の喫茶スペースにおいて、互いにほんのり上気した顔で向かい合っていました。(温泉施設でいったい何があったか……みなさんのご想像におまかせすることにしましょう) さて、ここからがいよいよ本題です。 私は温泉に入りに新潟まで来ているのではありません。原稿の修正依頼をして、手直しに入ってもらわなければなりません。 そして改稿をしてもらう上で避けて通ることのできないテーマがあります。それは私が初めて「人は食べなくても生きられる」と宣言されたこの原

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          秘密の儀式--倒産する出版社に就職する方法・第64回

          「おっ、おお。これな。これ、ちょっと事故ってなあ……」 ちょっと事故った。。。 さすがにメガネの破損は精神的ショックにより引き起こされたわけではなく、物理的な接触によるものだったようです。それにしてもメガネがこれほど芸術的に破損する事故とはいったい……? メガネのヒビの原因はもちろん、亀裂に覆い尽くされ視界がほぼゼロであろう左レンズをそのままにしているのも気になります。 しかし、そんなことに頓着しないのか、はたまた触れてほしくないことなのか、山田氏はメガネの亀裂について

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          モザイクに隠されているもの--倒産する出版社に就職する方法・第63回

          タモリの電話からさかのぼること3カ月前、私は越後湯沢の駅に降り立っていました。そこで初めて『人は食べなくても生きられる』の著者・山田鷹夫氏と落ち合うことになっていたのです。 もともとこの企画は三五館への持ち込みでした。当時の三五館では、すべての持ち込み原稿についてH社長直々に真っ先に目を通し、その可否を判断していました。 ですから、私がH社長からこの原稿を読むように命じられたときには、この企画を出版するかどうかが決められていたはずです。しかし、H社長は、出すとも出さないとも明

          モザイクに隠されているもの--倒産する出版社に就職する方法・第63回

          タモリからの電話--倒産する出版社に就職する方法・第62回

          2004年12月15日の午後。いつものように遅めの昼食を、たぶん新宿通り沿いのCOCO壱番屋だか吉野家あたりで済ませていたのだと思います、きっと。あのころの昼飯なんてたいていそんなものだったわけで、要はいつもと変わらぬ昼下がりのことでした。 三五館(当時)の社内でパソコン打っていると、私のデスクのちょうど斜向いに位置する編集部の先輩Nさんが外線電話を取り上げて二言三言話したあと、大きな声で私の名前を呼びました。 「たもりから電話……」 「はいっ!?」 「たもりから電話」 「

          タモリからの電話--倒産する出版社に就職する方法・第62回