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かさ

夜になって、ふと玄関に目をやると、壁に立てかけてある傘の隣に黒い影ができて、2本目の傘が浮かんでいた。


あまりにくっきりした影なのでおそるおそる手を伸ばしてみると、思いがけずつかむことができたので、今夜はこの傘を持って出かけてみようと思った。
影でできた傘はとても軽く、ひらいてみると自分の身体も影になり、夜の空気に溶けていった。

雨の日に出かける用があるときは石の町を通って行く。
地面に石が敷き詰めてあるから足元に泥が跳ねないし、濡れた石畳の道に街灯のあかりがきらきらこぼれて綺麗。
通りでは誰にも出会わないけれど、影はあちらこちらに散らばって人の代わりに遊んでいる。
大きな木の下で揺れている影に入って目をつむったら、手の中で傘はいろんなものに変化した。
花になったり、羽になったり、星になったり。
何番目かに人の手のかたちになったので、そっと目をあけると、傘は小さくふるえて、消えてしまった。
私に淡いまなざしみたいなものだけ残して。

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