水色のノオト

ある晴れた昼下がりに渡り廊下のところで
あなたが水色のノートを持って歩いていた
わたしは二階の窓越しにそれを目撃した
たぶんあなたもこちらに気付いたけれど
なにかを話すことはなく
そのままどこかに消えていった

わたしは水色のノートをいつでも持っている
教室にいるときは制服のポケットに忍ばせて
バスで移動するときは膝の上にのせて
夜眠るときは枕の横が定位置で
お風呂に入るときは着替えの服やタオルといっしょに籠の中へ
水色のノートは子犬みたいにかわいいから
いつもそばに連れて歩く

水色は不思議な色だ
そもそも水は色を持たないのに
どうして色の名前になるのか
でもわたしのノートは水色としか言いようがない
ガラスのコップに水をそそぐと
明け方は桃色に染まって
早朝は萌木色
真昼は玉子色
夕方は橙色
真夜中は瑠璃色
わたしのノートもそんなふうに
日夜いろんな色に変化して
ここに確かに存在する
無色透明なノート

ある燃えるような夕まぐれに橋の上で
あなたが水色のノートを持って立っていた
わたしは川べりに座りながらそれを目撃した
似ているようでまったく違う
水色のノートを胸に抱いて
あなたは長い時間そこにいた
まるで待ち合わせでもしているみたいに
暗くなると待っているのは
わたしもおなじだ
布団から顔を出して
手元の小さな明かりだけを灯し
夜更けにじいっと待っている
真っ白なページにふさわしい
なにかきれいな文字が浮かんでくるのを

いつか離れるときは
カギつきの箱に入れて
地中深くに埋めてしまおう
でもそれまでは
大事に持っていよう
わたしの水色のノート

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