第三のチンパンジー
コモンチンパンジーとボノボの二種類のチンパンジーのDNAの構造は九九・三パーセント同じで、ヒトとは約一・六パーセントの差しかなく、ヒトとゴリラとの差は二・三パーセント、と述べられています。三〇頁にある「高等霊長類の系統樹」によれば、共通祖先からまずゴリラが、そしてヒト・ボノボ・コモンチンパンジーの順で分岐しています。だから第三のチンパンジーというわけです(ヒトが一番早く分岐していて、ゴリラよりチンパンジーに近い)。
第三のチンパンジーという命名は、ヒトがあくまで高等霊長類(動物)の一種である、という認識によるものでしょう。
オスとメスの体格差について以下のように指摘しています。
一夫一妻では、雌雄の体格差はないのですが、ハーレムをもつ哺乳類では、その差は雌の数に比例して体格差が大きくなる、と言います。しかし、ヒトの場合は、少し例外ともいえる状況があります。
ヒトは、肉体の一部を使って、相手に決定的なダメージを与えることは不可能なので、協調して暮らす戦術を選択したともいえ、一夫一妻が基本にあるとも考えられますし、体格差は、育児と家族の保護、という面から考えられそうです。ヒト特有の「わずかばかりの一夫多妻」は、農耕のはじまりによるのではないでしょうか。
他の哺乳類に比べてひ弱なヒトは、同類よりも他の動物からの攻撃から身を守ることが、大きな課題でした。だから小規模な団結が必要でした。しかし、定住化と農耕が始まることで、集団を統率する「権力」が生じてき、そこから「わずかばかりの一夫多妻」が生じたのかもしれません。
多くの哺乳類は、受胎が不可能になれば、死を迎えますが、ヒトの場合はその後も生きつづけます。ということは、性行為の目的は、受精(子孫を残す)だけではない、ともいえます。
発情のサイクルとシグナルを失ったからなのでしょうが、「たっぷりの時間」をかけて楽しむ、というのは危険が除去されていなければ、不可能だと考えられそうです。
定住・農業によって、より多くの人を養うことが可能になり、そして、受胎可能期を越えての長寿、これにより人口は格段に増加し、その結果、環境にも影響を及ぼすようになります。
と、その要因を指摘し、次のように警告しています。
『若い読者のための第三のチンパンジー 人類という動物の進化と未来』
ジャレド・ダイアモンド 秋山勝 草思社文庫 2017
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