「新テレビ学講義」を読んで 〜第一章〜 番組制作の無力感の根源

テレビ研究の歴史について語っている第一章。
分析はまだ1960年代。
藤竹暁による「テレビの組織研究」などを網羅した「送り手」論を、1969年に出版された「テレビの理論」などの出版物から引用し、分析している。
その中で私が気になった点を挙げる。

P71より引用
視聴率についての最大の問題は、すべての人が平等に貴重な一票として数えられる点である。だから、誰一人としておろそかにすることはできない。
こうして誰にたいしても、ものわかりのよさ、面白さ、を売ろうとすることが、逆に、すべての人にとって、物足りなさ、を感じさせる要因へと転化するのである。
その結果、送像者の側には自分は何をやっているのかわからない、大衆は手ごたえがない、という無力感を増幅させる結果を作り上げてゆく。

この時代に、「無力感」という、制作者のメンタル面に触れている点がかなり凄いと思った。
特にこの時代はテレビはこれからの時代を作るイケイケのメディアで、テレビといえば無茶苦茶な、好きなことをやっている、というイメージが我々世代から見てもあったのだが、それと反する表現が使われていることに驚いた。
私もテレビ業界に入る前は、中はかなりイケイケの人ばかりで、好きなことばっかりやっている人が多いというイメージを持っていたが、実際は全然そんなことはなかった。
特に私が勤める局はそうなのかもしれないが、みんな真面目で小心者で、毎回視聴率にビビっていて、多くの場合において自分を殺して番組制作をしている人ばかりである。
テレビは、お笑いライブのように目の前のお客さんが大笑いすること、のような確実な正解がなく、面白ければ視聴率が良い訳でもないし面白くなくても視聴率が良い番組もある、というかなり不明瞭な基準のもと、しかも扱うお金の額も規模も大きいためかなり心身をすり減らしながら番組制作しているテレビマンがほとんどである。
それにも関わらず、手ごたえがわかりにくい、努力が結果に直結しづらいという事実の上に、劣悪な労働環境、言われた通りにできて当たり前で、褒められることなどほとんど無いという社会の中で、誰も言わないまでも無力感を感じることが多い。
この無力感が視聴率に起因するものだという分析は当時としてはかなり早いのではないか。

そして、これを読んで、我々がたまに感じる無力感は自分の腕や能力によるものではなく、「視聴率の性質」によるという分析が、我々としては安心材料になるということだ。
全ての人が同じ一票であることは仕方のないことだが、その全てに対して同様にアプローチし、全員が楽しめるものを作る、どんな趣味の人たちであっても、家族で、全世帯で見られるものを作れという会社の方針である以上、我々が無力感に苛まれることは本質的に仕方のないことであり、本来ここを変えていかなければならない、という会社の判断への責任転嫁をすることができるのである。
もちろん成長するために反省は必要なのだが、我々は続けるメンタルを維持することも重要なのでこの文章から上記のように、良いように捉えさせていただくことにする。

そして、この時代からテレビ番組への「物足りなさ」に触れているのもかなり面白い。

少し前から言われている、「テレビはつまらない」という誰の言葉か分からないがたまに聞く言葉は、かなり言葉足らずであると思いつつ、別の捉え方をすることで我々はそれを否定し、自分たちを肯定して番組を作っている。
その考えというのは、
「その状況に生きているあなたにとってつまらないのであって、多くの人にとっては面白い、面白いとは言えないまでも、面白くなくはなく、見ていられるというラインをゴールが見えない状態で毎週キープし続けている」という感じである。
先述のように趣味嗜好が異なる日本中の様々な人のために作らなければならないテレビ番組。
「誰にとっても面白いもの」を作れればそれは最高の話だが、そもそもそれは果たして今でも存在するのか。
これを「存在しない」というのも「頑張れや」という話であるし、「それを作るのがお前らの仕事や」と言われると「それができたら苦労せえへんねん」「一応そのために頑張ってはいるねん」という話である。
だから番組を打ち切りにされないという最低限のラインを超えつつ、常に上を目指しているというのが現状であるが、多様性が広がり続けている現在、どんどんそれが難しくなっていっているという状況である。
テレビ番組制作の永遠のテーマは、「全員にとって深く面白い」ものとは何かを考えることである。
これはネット動画などにはない、我々が一生追わなければならない、そして追い続けることができる目標なのであろう。

「視聴率の本質が誰かにとっての深い面白いと逆行するものである」ことと、「無力感は視聴率の性質に起因するものである」という点を学びとして、ポジティブに番組制作に挑んでいこうと思う。

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