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詩:月と六万円

月末に貰う茶封筒に
給与明細と六万円
頭の中で計算をする

仕送りと合わせて十万円
生活費を引いてしまうと
残るはたったの六百円

欲しい物だってそんなにないし
スマホ一つで作家を名乗れる
そんな暮らしに満足してる

…実はこの前画材を売った
あなたの為に書いた油絵が
頭の奥を引っ掻くけれど…

月に六万じゃ足りないさ
思い出が金になるのなら
一つ残らず売ってるさ

毒みたいな体をめぐる
あなたとの思い出なんか
六ペンスにも成りやしないよ

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サマセット・モーム『月と六ペンス』より

この小説の中で、つまらない、ストリックランドという株仲買人(確かそうだった)の男が、突然生活の全てを捨てて画家を志す。彼は金がなくても、病気に罹っても執念によって絵を描き続けた。

逆もあるんじゃないかと思った。画家を志していた人間が、生活の為に画家になる夢を捨てるということが。寧ろのその方が多いはずだ。そんな人間の心情を詩に綴ってみようと思った。

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