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詩:ベロニカ、僕は死ぬ事にした

ついにこの日が来たと思った
睡眠薬の包みを見ていたら
何故だか、遺書を認めようと思った
誰に宛てるでもないけど、強いて言うなら
これは僕から世界に宛てた手紙だ
僕に見向きもしなかった世界への

引き出しの奥にしまってた
万年筆を机に出して
白い紙に筆先を置いた
インクが漏れて指を濡らして
訳もわからず悲しくなった

あなたを思い出す、心臓が跳ねる
あなたと見た花火を思い出す
あなたと語った小説を思い出す
あなたと眺めた夜明けの空を
あなたと、

もう一度、ほんの一瞬でいい
あなたと見たあの朝日が見たい
不明瞭な夜の海を照らした曙光を
あなたの輪郭を白く縁取り
僕の感情を燃え爛れされた太陽を
世界で最も美しい朝焼けを

そうか、僕はきっと
闇を照らしたあの朝日のように
傷つく誰かの夜を照らす事ができる
そんな詩を書きたかったんだ

あなたの好きな詩人の名前を
今更になって思い出した

ゲオルク・トラークル

あなたは彼をこう呼んでいた

夕暮れの詩人

僕はドイツ語が読めないから
彼の詩を読むことはできないけど
きっとあなたが好きな詩人は
素敵な詩を綴ったんだろう

あなたに初めて詩を見せた時
僕の詩を好きだと言ってくれた
どうしようもない僕の為に
あなたは名前を付けてくれた

夜明けの詩人、と


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