個人スキルと予算規模の差 J1第11節vs川崎フロンターレ マッチレビュー
試合サマリー
前半
サンガはいつもと同じ入り方。
攻撃ではシンプルに、CFめがけたハイボールとこぼれ球の回収。隙を見て繋げるようなら繋いでサイドへ展開し白井・佐藤のクロス。
守備では前3枚を起点にハイプレス。サイドバックに入ったところで刈り取りのスイッチを入れて奪取を狙います。
フロンターレの狙いどころはサンガのサイドバックでした。
佐藤に対しては家長の空中戦で、白井に対しては遠野の裏抜けで圧力をかけられます。サンガの数少ない攻め手である白井の攻撃参加を抑えたい狙いもあったのでしょう。
足元が狙われると見るやさっとハイボールへ切り替えられる判断と技術。
昨年の対戦ではハイプレスを散々剥がされ苦しい展開になりましたが、この日は狙いに沿ってハメられていました。成長を感じます。相手から主力メンバーが離脱したことも要因とはいえ。
ハイプレスが機能してサンガのリズムにできるかと思いきや。そこは流石のフロンターレ。剥がされたりこぼれ球を回収されて生まれた一瞬のスペースを的確に突いてきます。サンガの右サイドから何度もチャンスを作らせてしまいました。
互いにチャンスを作りながら、枠を捉えられなかったりオフサイドで認められなかったり。集中してソリッドな良いゲームが展開できていました。
後半
ハーフタイムで息を整えたサンガはハイプレスを再開。強度を取り戻し圧力をかけ再度流れを引き寄せます。じわじわと押し込んで、ボールを狩り切れないまでも相手の自由を奪い拮抗した展開に持ち込みます。
0-0で後半中盤へ。
プレスが機能しリズムが掴めている。
3バックへ変更して中盤のスペースも消した。
後ろに控えるパウパトの二人。
そう、ガンバ戦で作った勝利の方程式とまさに同じ型です。
パトリックの投入でプレスを強めてハイボールでさらに押し込み、パウリーニョとの合わせ技で仕留める。描いたシナリオに沿った理想の展開が広がり、嫌でも高まる3ポイントへの期待。
...が、そんな理想通りに物事は進みませんでした。
大きな誤算が2つ出てしまいます。
誤算その①
途中で入ったパトリックはコンディション不良なのか走りきれず、ハイプレスの強度を強めるどころか維持するのが精一杯。
何より、起点としたかったハイボールでの徹底対策は困りました。パトリック方面に浮き玉が行くと必ずシミッチ+1枚に張り付かれてしまいます。
1枚は落下点へのポジショニング妨害で、もう1枚がヘディング担当と明確に決められていたように見えました。
高い位置で起点を作りたい狙いは外れてしまいます。
誤算その②
キジェサッカーへのフィットが完了していよいよ本領発揮。と思っていたパウリーニョが、ハイプレスで求められる動きを実践できませんでした。
福岡慎平が手を振って「プレッシャー行って!行ってくれ!」と指示しているのに、自分のこととして認識すらできていなかった様子は不安を通り越して心配になりました。
ハイプレスを牽引してチームを支える豊川との交代だったことも、チームに大きな悪影響を与えてしまいます。
この誤算2つにより、上福元+2CB+シミッチへのプレッシャーが機能しなくなってしまいました。特にパウリーニョの方。
①FWによるハイプレスへのスタートが遅れる
②フロンターレの選手は余裕を持って受ける
③危険を感じて慌てて突っ込んだところをかわされる
④中盤以下が全撤退を余儀なくされる
⑤ラインが下がりハイプレスの連動が失われる
⑥FWによるハイプレスのスタートが遅れる
〜①にもどる〜
悪いサイクルが始まってしまい、相手サイドバックを中心にフロンターレ全員が高い位置を取り始めてしまいます。80分あたりからはサンガ陣地でのプレーが一気に増えてしまいました。
ただでさえ体力的にきつい後半。最大の武器であるハイプレスを失ったチームは前進すらできなくなってしまいました。
60-75分と75-90分を比べてると一目瞭然。
フロンターレのフィールドプレーイヤー8人がサンガ陣地に居座っています。残り3人もハーフライン付近。
自陣前でのプレーを増やされれば、当然失点リスクも上がります。押し込まれたところで跳ね返す高さもフィジカルもサンガの守備陣にはありません。
迎えた95分。クリアを拾われた流れで大島僚太がエリア前でクロス、ファーに流れた小林悠に決められ決勝点に。
小林には直前にも山根のクロスに合わられており、個人能力の高さを見せつけられました。
スコア以上の大きな差
洗練された個人スキルと連携
決勝点のシーン。
自分へのパスが流れても動揺せず、視野の端とフィーリングで小林の位置を捉えて正確にボールを届ける大島僚太
ボールが来ると確信して大島の顔が上がった瞬間にDFの目線から外れ、競り合うことすらさせないタイミングでジャンプし、上から叩いてファーサイドに突き刺す小林悠。
全てサッカーにおける基礎動作で構成されていて、一つ一つが磨き込まれている高いクオリティ。惚れ惚れしました。
サッカーで勝つために必要な要素だけを磨き、それ以外を削ぎ落とした洗練度合いに美しさすら感じました。
対談で木下が福岡たちへの信頼を語っていました。
「もし剥がされても後ろが来てくれると信じられるから、前からガツっといけるんだよね。裏返されたら皆で戻るだけだし」と。
言葉を交わさずとも誰が何をするか分かる信頼感。
これこそが連携でありチームの成熟度。
そしてこのオートマティズムはサンガにはハイプレスにしかなく、フロンターレには沢山あり、その一つが大島-小林のホットラインでした。
決定機でことごとく枠を外してしまった個人スキルの差。
それだけでなく、セットプレーと白井のクロス以外に有効な崩しが見えなかったチーム全体としての差。
こんな正統派で良いチームとやれる機会が年に2回なのは惜しいくらいです。感じた差を埋めることがまた成長のきっかけになるでしょう。
次に繋げてほしいと心から思います。
お金の差・積み上げの差
前年比150%を達成したサンガの2022年度売上は32億円。
一方で、フロンターレはコロナの影響が残る2021年ですら69億円。
半分にも届いていません。
2005年からJ1で戦い続けACLへの挑戦やタイトル多数。18年間組織が同じ方向を向いて努力を積み重ねたフロンターレ。
「落ちひん!」の名言を残した、トンデモ強化部長が連れてきたトンデモ監督とJ3に心中しかかった2018年から5年しか経っていない京都サンガ。
お互いが歩んできた道を考えると、差が生まれるのは当然と言えば当然。
選手に成長を求めたいのはもちろんですが、継続的に強いチームを作りたければ「京都サンガ」全体で向上する必要があります。
競ったゲームで勝敗を分けるのはフィニッシュのクオリティ。ゆえに良いFWには高い値段が付くサッカー界の原理を肌で理解できた試合でした。
良い選手に来てもらい、良い選手に残って欲しければお金が必要です。
Jリーグは明確に格差を作る方向を打ち出しています。
一度踏み外せばフロンターレに追いつき追い越す次のチャンスは二度と回ってこないでしょう。トップリーグで戦い続ける厳しさを感じます。
試合だけがサッカークラブの全てじゃない。ですよね。
個人評価
先発
GK 1 若原 智哉 6.0
ビッグセーブでチームを救った直後に悔しい失点。足元でのミスはありましたが向上しているので続けるだけ。上福元に拍手はしましたが、戻ってきてほしいと思わなかったのは若原への期待によるものです。
DF 3 麻田 将吾 6.5
前節の好調そのままに。フィジカルで押してくる宮代を潰し起点にさせませんでした。幻とはいえゴールを生んだのは麻田の力。次はぜひ本物で。
DF 4 井上 黎生人 6.0
カバーリングと持ち上がりでいつも通りのキレを見せました。しかし最終盤で小林悠に制空権を握られ決勝ゴールを献上。200試合記念を飾れなかった悔しさは次に活かしてくれると信じています。
DF 14 白井 康介 7.0 ★MAN OF THE MATCH
執拗に裏を狙う遠野を意に介さず、交代で入ったマルシーニョにも完璧に対応。その上攻撃面でも違いを作り続ける圧巻のパフォーマンスでした。失点シーンは残念ですが仕方ない。
MF 7 川﨑 颯太 6.5
厳しく寄せられても後ろに下げず、前に付け持ち運ぶことでチャンスを作りました。相手と比べるとワンタッチ目で流れたり処理でもたつく場面の多さが気になってしまったのですが、比べる相手が悪いでしょうか。
MF 18 松田 天馬69' 5.5
パスミスが多くセットプレーの精度も欠いてしまいました。得意の運動量も鳴りをひそめストロングが発揮できず。失速した終盤に残ってくれていれば...
MF 39 平戸 太貴46*' 5.0
積極的な面は見えましたが、他の点で目立たず。守備だけでなく攻撃でも良い動きはできませんでした。
MF 44 佐藤 響 6.5
家長と対面しハイボールの的にされ苦しんだものの、空中戦以外では安定した対応を披露。出足鋭くセカンドボールも回収してピンチを未然に摘んでくれました。
FW 11 山﨑 凌吾57' 5.5
空中戦でポイントを作った一方で、足元に入ると効果的に捌けず。前半最大の決定機ではシュートに持ち込むことすらできませんでした。
FW 17 木下 康介89' 6.0
豊富な運動量と守備意識の高さに加え、佐藤が空中戦で苦しんでると見るやポジションを下げるなどバランス調整役としても左サイドを支えました。90分で一度としてエリア内で駆け引きするシーンを作ってあげられないチーム事情が悲しい。
FW 23 豊川 雄太69' 6.0
凄まじい運動量でハイプレスを牽引。時に中央や左にも進出し相手DFラインへ圧力をかけ、リズムを作らせませんでした。交代後のチームの失速が重要性を物語ります。
・サブ・監督
DF 24 イヨハ 理 ヘンリー69' 6.5
入りが難しい交代出場CBの役割を難なくこなしています。毎試合ですが。空中戦は安定し、パスは堅実で、フィードはチャンスを生むハイパフォーマンス。
MF 10 福岡 慎平46*' 6.5
抜群の運動量とポジショニング。セットプレーでは高低のキックを使い分けて決定機を演出。周囲にポジション修正を促すなど立ち振る舞いも「キャプテン・10番」でした
MF 33 三沢 直人89' なし
FW 47 パウリーニョ69' 5.0
インストールされたはずのハイプレスで果たすべき役割がまた抜けてしまっています。3歩進んで2歩下がる。福岡から大声で指示されても動けない(気付けない)ようでは厳しい。攻撃面でも違いは作れずチームのブレーキに。
FW 9 パトリック57' 5.5
走り方で分かってしまうコンディション不良。空中戦では徹底マークにあい、流石のパトリックでも2枚に挟まれ続けては勝てませんでした。
曺 貴裁 6.5
やりたかったことも描いたシナリオも伝わりました。途中までの展開も完璧で後は実現するだけだったのですが…。苦しい試合が続いていて、次節に向けて時間はありませんが、どう改善してもらえるのか。
・敵ながらあっぱれ賞(相手チームMOM)
MF 6 ジョアン シミッチ
小林悠と言いたいのもありましたが、90分通じてサンガの壁になったシミッチの貢献度に注目しました。捌けて奪えて空中戦も強いのはナシだって。
負けはしましたが恥ずかしいゲームではありませんでした。切り替えてマリノス戦に向かいましょう。
もうこれで最後にしますが、一言だけ言いたいので言わせてください。
フロンターレ相手なら!これだけ集中して良いゲームができるのなら!
他のゲームでもやれよ!鳥栖戦!いまだにイライラするわ!
はい。失礼しました。
内容は以上です。
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