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雲南日本商工会通信2024年2月号「編集後記」

 私はいまスターバックスにいます。なぜなら、中国人の同僚女性が以下のようなことを言ったからです。
 「外出先で急にウェブ会議をすることになったので、1年ぶりにスタバに入ったけど、なんかとてもよかったよ」。
 わたしも最近、用事があって近所のスタバに行ったことがありました。しかし特段変わったところもなかったので、「それってどこのスタバ?」と聞きました。

滨江俊园广场のスタバ。お客さんがみんな静かでウェブ会議しやすかった。充電用の電源コードやペン、紙が入っているシェアボックスが置いてあった。ちょうど欲しいところだったから嬉しかった。あと、ボードゲームが何個も置いてあって、長居してもよさそうな雰囲気だった。もちろん、椅子の下には電源もあった。スタバは高いなと思ってたけど、この日は35元が安いと思った――。

同僚の言葉

 そしていま、実際に来てみたというわけです。パッと見では他店舗と変わりませんが、一人で勉強や仕事をしている人が多いせいか、かなり静かです。低い椅子と比べてテーブルがやや高くなっていることから、パソコンが使いやすいためかもしれません。加えて店舗面積の大きさの割に座席数が少ないのも、静かさを促す仕掛けになっているようです。そして彼女が言ったように、シェアボックスやボードゲームが置いてありました。
 これがビジネスモデル的に正しいかどうかはさておき、個人的には感慨深いものがあります。わたしは会報の2017年1月号で「昆明のサービスはなぜ向上しないのか」という駄文を書いたことがあり、スタバについて以下のように記しました。

個人的には昆明のスターバックスが死ぬほど嫌いだ。客が列を作って待っているのに、店員はダラダラと、同僚とおしゃべりしながら飲み物を作っている。注文の対応も最悪。注文を待っている人が沢山いるのに、全ての人に対し、追加の商品の促しや、プリペイドカードの案内を律儀にしている。やっとのことで飲み物を入手し、店の外の席へ行くと、飲み残しが散らかり放題。席の下にはタバコの吸い殻が散乱している……。スターバックス CEO のハワード・シュルツ氏は「我々はコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのである」と言うが、少なくとも昆明は例外のようだ。

雲南日本商工会通信2017年1月号「昆明のサービスはなぜ向上しないのか」

 改めてこの文を読み返して気づきましたが、いまこの店では、飲み残しがテーブルに置いてありません。またスタッフが2人しかおらず、無駄話もしていません。
 このように変化したのは7~8年の間に昆明の消費者と従業員が洗練されたからでしょうが、ここでは直近の背景を考えてみましょう。
 
1.コーヒー文化の浸透
 コーヒー文化には二つの側面があります。飲む文化とくつろぐ文化です。最初期はスタバが中国のコーヒー文化の両面で普及に貢献しました。しかし直近において、飲む文化ではラッキンコーヒーとCotti Coffeeが貢献しています。くつろぐ文化では、個店の喫茶店が貢献しています。その結果、スタバはむしろ古臭いコーヒー文化だと見られがちになりました。
2.長引く不景気
 アプリや宅配システムを通じて、品質を維持しながら安く提供できるラッキンコーヒーとCotti Coffeeは、不景気の中で勝ち組になります。スタバは、より付加価値を高める必要が出てきました。
 
 これらの変化の中でスタバは大きな岐路に立っているし、従業員もそれを肌で感じているのだと思われます。では、今後どのような戦略を採るべきでしょうか。ここで改めて、スタバの強みを考えてみます。それは大きく5つ。
 
1.圧倒的な認知度
2.サードプレース(居心地のいい喫茶店)を自称していること
3.好立地に出店していること
4.フラペチーノなどの商品力
5.アプリを使った「O2O」(オンライン to オフライン)に長けていること

 
 この5つの強みのうち、すでに4と5はラッキンコーヒーとCotti Coffeeと同等かそれ以下になっているため、強みではなくなりました。そのため、残る1~3を使って戦略を考える必要があります。
 すると、圧倒的認知度の「スタバ」が改めて「圧倒的に居心地のいい喫茶店である」という認識を消費者に強く植え付けていくことが、基本戦略となると思われます。
 しかし、いまだに拡大志向をやめないスタバ(2025年までに中国に3000店を新規出店予定)が、このような戦略を採れるかは不明です。
 なぜなら、ビジネスとして考えた場合、ゆっくりと仕事をしたりボードゲームを楽しんだりする顧客が増えると、回転率が下がり利益率が下がってしまうからです。
 とはいえ、もし「スタバは圧倒的に居心地のいい喫茶店」という認知度が高まれば、その後は価格をやや上げても一定の客層が支持するだろうし、立地のやや悪い場所に出店しても高い認知度があるため十分に集客できます。すると、競合がどんなに攻めてきても、スタバの独自性は担保され、存続することができるでしょう。
 そもそもカフェというのはそんなに利益の取れる業態ではありません。滨江俊园广场のスタバは、中国市場では拡大戦略よりも生き残り戦略に注力する時代に入ったことを自覚し始めた印なのかもしれません。
 

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