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雲南日本商工会通信2018年2月号「編集後記」

 バンコク近郊の観光地、パタヤ。客室のベランダでタバコをくゆらしながら、まったりとこの原稿を書いています。
 パソコンでネットのニュースを見ていたら、日経の記事に目が留まりました。「世界の中でも習得が難しいといわれる日本語は外国人材の生活にとって大きな壁だ。ときには地域でのコミュニケーション、労働や就職の深刻な妨げになる」から始まるこの記事は、日本に住む外国人が増えているのを背景に、彼らの日本語レベルを上げるべく、地方自治体が夜間日本語学校を作っていることを紹介しています。現在、国が予算を割くのは教室のない地域の開設支援などです。
 日本政府は、国外では雲南日本補習授業校をはじめ日本の子供に日本語教育を支援する一方、国内でも外国人への日本語教育を支援しなければならないというわけです。
 同記事は、「日本語普及を財政の苦しい自治体に頼っても限界が来る。一方、地方ほど人口減で外国人の存在感は高まる。国益をもたらす日本語学習をどこまで支援すべきか。国の思いが見えてこない」と結びます。
 この記事を読んだ私は、「もし自分が国の方針を決める立場だったら…」と、いつもの妄想力が膨らみました。
 私が在籍するデザイン会社ではかつて、イタリア人とスペイン人が働いていました。英語でコミュニケーションするのですが、彼らも私と同様に英語が第二外国語なので、カタコトで話します。そしてお互い、中2(中学二年生)レベルでも理解できる単語を使って話していました。
 あるとき私が「中国人クライアントはデザイン面でコンサバティブ(保守的)だ」と英語で言ったとき、彼は「コンサバティブ?」と首をかしげました。カタカナでも使うことがある日本と違い、コンサバティブという単語はイタリアではやや難しい単語のようです。
 彼は、「もしかしてトラディショナルという意味?」と言いました。なるほど、「保守的」を「伝統的」に置き換えても大体同じ意味になります。
 イタリアではきっと、トラディショナルが中2レベルで、コンサバティブは高2レベルなのでしょう。
 このような中2レベルの英語によるコミュニケーションを、グローリッシュ(グローバル・イングリッシュ)と呼びます。世界のなるべく多くの人々が使うための英語です。そこでは、アメリカで流行するスラングを学ぶ必要はありません。微妙なニュアンスの表現より、とにかく世界の多くの人々との意思疎通を目指すものです。
 中2でも分かる英語でコミュニケーションをするのは意外にコツがいります。同じように、中2でも分かる日本語でコミュニケーションするのも難しいものです。みなさんも、日本語カタコトの中国人に対し、より分かりやすい日本語を探した経験があるでしょう。たとえば「豚もおだてりゃ木に登る」と言って「?」という表情をされたら、どんな分かりやすい日本語表現に置き換えますか?
 実はこれこそ、グローリッシュの日本語版、いわば「グローバルジャパニーズ」の実践なのだと思います。
 私が政府の方針を決める人だったら、外国人に努力を求めるだけでなく、同時に国民に努力を促したい。つまり、「グローバルジャパニーズ」を国民に広める施策を打ちたいと考えます。それは在日外国人に益するだけでなく、母国語を相対化する視点を持つことにより、内にこもりがちな国民性を外向きに変える力も促すと思うからです。
 

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