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雲南日本商工会通信2024年3月号「編集後記」

 「いまね、『こっちに来ないか』って同業他社から誘われてるんだ。どう思う?」
 そう言って、隣に座る同僚が会社の資料を見せてくれました。それを読んだ私は「なるほど!」と膝を打ちました。
 私の所属する会社は「日本語教育」を飯のタネにしています。その主な業務は日本語教師を高校に派遣することです。
 ただ政府規定では「教師は高校が直接雇用すること」になっているので、教師派遣業務はグレーなビジネス。すでに他省では日本語教師を直接雇用する高校が増えています。また、来年度からは第二外国語の試験が難しくなるらしいので、日本語を選択する学生の減少は必至。わが社は直ちに「次の一手」を打つ必要があります。
 そんな中、同僚が誘われている同業他社が考えた「次の一手」とは、「日本でのインターンシップ」の商品化。出入国在留管理庁が令和2年に策定した「在留資格特定活動(告示9号)」を利用したものです。これは、一定の条件を満たせば、外国の大学生が日本で最長1年間、アルバイトができる制度です。
 この会社は、受け入れ先の紹介や事前手続き、現地でのフォローをすることで手数料を稼ぐビジネスを数年前から始めているのです。
 中国はいま前代未聞の就職難。履歴書に他の人と異なる「経歴」が求められます。一方の日本は猫の手も借りたいほどの人手不足。日本に行って時給千円前後のアルバイトをするのは、上海や北京の学生にとっては物足りないですが、「平均所得が低くかつ日本関連の就職先が少ない地域の大学生」をターゲットにすれば、十分に成立するビジネスと言えるでしょう。そして案の定、この会社では雲南、貴州、寧夏、広西などでサービスを展開しています。ちなみに学生たちは日本の地方部のサービス産業に従事することが多いようです。
 私はこれまで、日本に住む中国人留学生はもはやアルバイトをせず、親のお金で気楽に勉強している印象がありました。そのため、このようなビジネスを発想できませんでした。中国の不況は今後も続きそうだし、私は彼女に「ぜひ会社を移ったほうがいいよ!」と言いました。
 ところで先日、テレビでエコノミストの柯隆氏が面白いことを言っていました。

 最近、中国のリベラルな知識人が東京でいくつも中国人向けの本屋を作っている。何を意味しているかというと、中国のレベルの高い人々のコミュニティが東京にできているということ。以前はロンドンとニューヨークにしかなかった動きだ。
 中国経済は当分回復しなさそうだが、今後は国外のこうした中国人たちによる、いわゆる“グレーター・チャイナ・ネットワーク”ができて、これが新しい中国の力になり得る。それはユダヤ人のネットワークに似たパワーを持つ。このような動きは日本からみれば、イデオロギーから自由な人たちなので付き合いやすいし、日本と中国をつなぐ窓口になるため、メリットになるだろう。

 東京を拠点にし始めた中国の知識人。経営管理ビザを通じて移住を考える小金持ち。そして「経歴」を求めて日本の地方で働く中国の大学生。さらには、中国の不景気が長期化することで、本来は欧米に行くべき優秀な学生がコストの安い日本へ留学するようになるでしょう。日中の人的往来で起きている大きな地殻変動を踏まえれば、中国人材獲得の拠点は再び、中国より日本を重視すべき時代になるのかもしれません。

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