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第三回タンメン会 浅草「カド」


「おめえに食わすタンメンは、時間かかるけどいいかーい?」
の巻

(2022年4月)

しばらくのご無沙汰です。
みなさん、お変わりありませんか。こちらはありました。
第一回で「だれかが要介護となる日まで、ポツポツとやっていきます」なんて書いたけど、大川さんが新宿駅でよそ見してて、段差で転倒してしまったのです。
老化は足から。廊下は走るな。廊下だけでなく、駅はよそ見をせずに歩きましょう。
最初はたいしたことないと思ったみたいだけど、駅員さんなどの助けを借りても立てず、結局、救急車を出動させることとなりました。
診断結果は、大腿骨骨折。本当に危うく要介護になりかけたのでした。幸いボルト2本ねじ込んで、リハビリもこなし、めでたく退院できました。
その間、約ひと月。
「病院のごはん、まずーい」
そんな愚痴メールが届くたびに、ぼくは美味しかった料理の写真を送りつけてやったのです。(もちろん、タンメン含む)

送りつけた画像の一枚。


「わー、嫌がらせはやめてくれー。全部うまそうに見える。早くタンメン、食べたーい」
嫌がらせではありません。リハビリのモチベーションを上げてやったのです。ふふ。

はるばる来たぜ、南千住。


なので第三回は、まだ散歩はしんどい大川さんの千住にあるお宅訪問となりました。
のはいいけど、前日、大川さんから届いた住所を記したメールには、マンション名と部屋番号が書いてなかった。
あーあ。ポンコツ。
これじゃ、宅配便もピザも届かんわい。
で、当日、電車に揺られていると、マコトから、メールが。
「後ほどよろしく」
「うん、いま神田」
と返信。さすがは腐っても太っても老いても社長さんだ。アポの確認を怠らない。
とか思ったぼくが、友だちを買い被る甘ちゃん野郎だった。
すかさず、今度は電話が。
「ごめん、待ち合わせ時間、間違えてた。20分遅刻する」
おいおい、前回は路線間違えて5分遅刻したよな。あーあ。やはりポンコツ。

駅前ロータリー、としか言いようがない。
駅すぐの光景。


仕方なく、初めての南千住駅にひとり降り立ち、周辺を歩く。
んー、なんもない。とは言わないが、目を引くなにかがあるとも言い難い。
てか、駅前すぐにシャッター商店街じゃないか。
我が西荻窪の圧勝。
かたちだけ走って改札を抜けてきたマコトと合流し、大川さんの住む、まさにタンメンの出前が似合いそうな昭和大規模マンションへ。
気の利くぼくは、西荻窪にできた土曜日と火曜日しかやってない人気店の焼き菓子を持参。一方マコトは、中国製にしては高級な(本人弁)電動ドライバーを持参。

やっとマコト到着。


「はーい」
「元気そうじゃん」
「元気だけど出歩けないから、退屈してレコード聴いてる」
お茶もそこそこに、マコトはステレオの修理を開始。街の電気屋さんか? 30分ほどでレコードプレイヤーをまずまずの音質に改善。このへんはさすが元スタジオ経営者である。感心も束の間、
「あー、冷えた。腹痛い」
と、すかさずウンコ。年寄りは所嫌わず、そして構わず。
出てくると、ぼくのおもたせの菓子をひと口で頬張り、感想も言わず、今度は動かないCDプレイヤーを分解。昔のテレビ方式で、バコンバコンぶっ叩いているうち、あら不思議。音が出てきたのでした。

素敵なおみやげ。
有能な電気屋さん。


さて、腐っても骨折しても修理しても、我々はタンメン会である。
よちよち歩きの大川さんを引き連れ、マンションを出てタクシーに乗り込み、山谷の泪橋を渡って(といっても、橋ではなく交差点だけど)浅草へ。

♪叩け、叩け、叩け〜


「♪今日の仕事は〜」
「なんもしてねー」
「おれはステレオ、修理した」
以上、岡林信康からの会話。
「立て、立つんだ大川さん! 大腿骨折でも」
「カンニンや〜」
「夜中にこっそりラーメン食うなんて、打つべし、打つべし、打つべし」
「食うならタンメンにしろ」
「あはははー」
以上、「明日のジョー」からの会話。

シャバのメシを食うぞー!


お目当ての店「カド」は、本当に道の角にあった。わかりやすい。
覗くと、カウンターはいっぱい。テーブル席はどれも二人掛けだが、一応たずねる。
「3人なんだけど」
すると老店主。
「時間かかるけど、いいかい?」
「大丈夫です」
「なら、どうぞ」
狭い店内の三つある狭いテーブル席の奥にぼく、真ん中のに大川さんとマコトが座る。
「ビール2本、ギョーザ2枚、タンメン3つと野菜ウマニ」
注文すると、カウンターに掛けていた3人組のこなれすぎたおばさんがビールを出してくれた。常連らしい。見れば、レバニラを肴に、ウーロンハイを呑んでいる午後の2時。
いいねー。令和だけど、昭和だねー。浅草だけど、場末だねー。

カンパーイ。
からの、時間差攻撃で餃子。


本当に時間がかかって、おばさんの手でギョーザが到着。ついでに、卓上のお酢をたっぷり入ったのと交換までしてくれる。常連から半分店員になりかけている。週3は通ってると見た。
ギョーザはと言えば、ビールに合うギョーザだ。あんまりビール、残ってなかったけど。
そしてまたおばさんの手で、タンメン登場。キャベツ中心で、モヤシとニンジンがパラパラされて、なかに厚めの豚バラ片。甘みのあるスープが、なんだかレンゲをすすませる。マンモス西みたいに、鼻から麺垂らして啜りたくなる。気がつくと、ほぼスープを飲み干していた。
「ジョー、カンニンや」
二度目だが、この台詞の似合う街であり、店であり、タンメンである。別にぼくは減量中ではなかった。必要だろうけど。
最後にこれまた甘い野菜ウマニを、デザートがわりに掻き込んだ。

野菜たっぷりだが、病院食とは大違い。
これまた野菜たっぷり。


席を立つと、おばさんが皿まで片付けてくれて、「また、来てねー」だって。
お茶しようと大川さんに合わせてよちよち歩いていくと、もう一軒の候補だった店を発見。
「ここはドラマの撮影に、よく使われるらしいよ。この前も、スダマサヤが来たって」
と、大川さん。
「菅田将暉だろ」
は、すぐに訂正できたが、なんか言い間違えに引っかかった。しばし黙考。
「‥‥もしかして、沖雅也と混じった?」
すかさず、マコト。
「涅槃で待つ」
古いことだと、反応がいい。大川さんはニヤニヤのごまかし笑い。
さて、菅田将暉と沖雅也の共通点とは?
日本人二枚目男優。以上。

病院よりシャバがいいー。


近くにあったおしゃれカフェへ。
マコトは、またウンコ。所嫌わず、そして構わず。
ジジババなりにウクライナ問題など話している
と、大川さん曰く。
「プーチンって、あたしより年下なんだよ。28年生まれだから」
間違いではないだろうが、ロシア人の生年を元号で言うのは、如何なものか。
そのうちに、キリスト教は大きくカソリック、プロテスタントとロシア正教会に分けられると話したら、大川さんが、質問。
「プロテスタントって、電気もガスも使わないで暮らしてるひとたちのこと?」
「違う。それは‥‥」
出てこない。ぼくの脳みそも劣化している。
「ハリソン・フォードが出てた映画の‥‥」
これも出てこない。ぼくのシナプスにもボルトが必要なのか。
「インディ・ジョーンズ?」
「なわけないだろう」
ここでシナプスが発火してくれた。
「アーミッシュだ」
「なにそれ」
「だから」
ジジババの会話はまだるっこしいし、固有名詞が出てこない。出ても間違っていたりする。そして正解が出ても、反応できなかったりもする。
これまた大川さんの発言。
「あたしたちの頃は、アメリカに憧れたよね。ビートルズとかさ」
呆気に取られた。間違いがでかすぎる。必要だろうけど。大川さんの脳みそのなかでは、西洋はすべてアメリカなのだろうか。きっと、そうなんだろうな。脳のシナプスも、マコトにドライバーでギュギュッと締めてもらう必要があるかもしれない。

オシャレスポットでは、かしこまる。


頭はともかく、大川さんの足のほうは順調に快方に向かっていたので、まあ、よしとすべきであろう。
とにかくタンメン会、再開しました。

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