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[オピニオン]北朝鮮の対南強硬戦略と意図は何なのか?

投稿日 2024-05-17 朝鮮半島の新しい統一構想と創造的関与:北朝鮮の「二国家」政策に対する韓国の対応模索(2)


キム・ビョンロ  ソウル大学統一平和研究院


韓国からの体制の脅威を遮断

昨今の北朝鮮による対南強硬戦略の意図は何なのか? ずばりストレートに言うと「南北の経済力の格差から派生する体制結束への否定的な影響を遮断するための措置」だと言える。

南北の経済力の格差を考えると、今後30年、50年経っても韓国に追いつくことができないという挫折感が根底にある。金正恩の言葉通り、「地方では初歩的な生活必需品さえ十分に提供できない...非常に情けない状態」1)で、正常な方法では50倍以上の開きがある南北の経済力の格差を克服する道がまったくない。

年平均10%以上の高速成長を30年間持続しても、韓国に追いつくことはできない状況だ。このような韓国の存在が、交流協力の対象として、あるいは統一の対象としても近くにいるだけでも体制の脅威になっている状況である。

また、韓国と北朝鮮が同族だと言いながら、韓国と比較されつつ、人権問題や核問題で干渉することが体制の大きな負担にもなっている。特に韓国文化の影響を受けた若者たちの意識変化は、北朝鮮内部の3大葛藤要素の一つとして深刻である。

ソウル大学統一平和研究院の調査によると、北朝鮮の人々のうち、韓国の音楽や放送、ドラマをよく接触するという回答が43.1%に達する。このような「韓流」への関心は特に若い層により多く広がっており、その結果、主体思想意識と指導者に対する支持度を弱めていることが明らかになった。2) このような傾向を遮断するため、北朝鮮は反動思想文化排斥法(2020.12)、青年教養保障法(2021.9)、平壌文化語保護法(2023.1)などを制定し、若者たちの動きを取り締まっている。

もちろん、北朝鮮当局側には南北の分断を前提として、韓国の影響力を遮断し、新たな体制の正統性の競争をしてみようという断固たる意志も込められている。経済はすでに競争に失敗したので、軍事力と政治、文化を前面に出して正統性競争をしてみようということだ。

核兵器で軍事力を圧倒したので、政治と軍事と文化を批判しながら競争を続けてみようという算段だ。金正恩は演説で「(大韓民国の)政治は完全に消滅し、社会全般がヤンキー文化に混濁し、国防と安保は米国に全面的に依存する植民地従属国に過ぎない」と極端な批判を続けた。

政治でも最近、選挙方法を改善してベトナムと中国のように複数候補を推薦する変化を見せた。このような点で、金正恩の対韓戦略転換宣言は、南北間の命をかけた国家競争の冒険が始まったことを意味する。

新冷戦の国際秩序を活用した核の脅威増幅効果

第二の理由は、新冷戦秩序の好機を活用して北朝鮮の核の脅威を増幅する効果を極大化する政策である。

世界的な新冷戦秩序と戦争局面で、北朝鮮は中国およびロシアとの関係を密着させながら体制生存の好機を迎えている。

特にロシア-ウクライナ戦争を契機にロシアと経済・軍事関係を強化することで、生存空間を見出している。韓国に対する敵対的な態度および対南戦略の転換は、今の国際情勢が米中覇権競争の高まりで米国が徐々に勢力を失っており、北朝鮮・中国・ロシア陣営が優勢を握ったという判断を下敷きにしている。この判断の下、米国に対して強硬姿勢での正面対決の闘争を宣言し、乗り出したのだ。

ロシア-ウクライナ戦争がロシアの勝利で終わる可能性が議論されており、中東では戦争が終わる兆しが見えないため、北朝鮮としては一息つく余裕ができた。このように2つの戦争が同時に進行する中、台湾海峡で軍事衝突が発生すれば、朝鮮半島でも武力衝突の可能性が非常に高まる。ハノイ米朝首脳会談(2019.2)の決裂で深刻な政治的打撃を受けていた金正恩は、このような国際情勢の流れで米国との関係改善の失敗を正当化する転機を設けた。

このような環境で米国および西側諸国との関係を断絶し、中国とロシアなど「社会主義国の執権党との関係発展に注力」する方向で外交路線をまとめた。米国との関係改善が容易ではない状況で、北朝鮮が選択できるやむを得ない道だったが、むしろ名分ができたわけだ。

ロシアの助けを受けながら核兵器と長距離ミサイル開発に拍車をかけ、2024年には3つの偵察衛星を打ち上げると公言した。武力衝突が発生すれば、北朝鮮は「ためらわずに重大な行動に移ると厳粛に宣言」し、核兵器カードまで取り出し、「大韓民国を完全に占領・平定・収復し、共和国(北朝鮮)の領域に編入」させると脅しをかけている。

MZ世代の金正恩・金与正の現実認識

第三に、このような対南戦略の転換は、冷戦終結後30年間の南北の国家性強化とMZ世代の意識変化の結果に由来するものだ。冷戦終結後30年間、南北朝鮮の「国家性」が明らかに強化された。朝鮮(DPRK)と韓国(ROK)はすでに1991年9月にそれぞれ国連加盟国として加盟し、国際的に国家性を認められ、社会内部的にも国民意識が高まり、「国民国家」の性格が明らかになった。このような変化の中で、金正恩委員長も2012年の政権発足以来、一貫して「国家主義」を強調してきた。先代の「民族第一主義」を後回しにし、「国家第一主義」を旗印に掲げて登場したのだ。

この点で、金与正が韓国を「南朝鮮」と呼ばずに「大韓民国」と呼び始めている点に注意する必要がある。たびたび「大韓民国のやつら」という皮肉な表現が混じっているとはいえ、基本的に南北を国家関係と見なしているという証拠だ。南に大韓民国があるなら、北には朝鮮民主主義人民共和国があることを思い出させるのだ。金正恩委員長は、西側世界が北朝鮮を「正常国家」として扱わず、「ならず者国家」と決めつけることへの不満が非常に大きい。金与正は2022年8月の談話で、「どうか互いに意識せずに生きたいというのが切実な願い」と述べ、同族の「南朝鮮」ではなく異国の「大韓民国」と正常に競争しようという意図を示した。

何よりも30代の若者である金正恩と金与正の現実認識が、既成世代とは完全に異なる点にも注目すべきだ。韓国でも20〜30代の若い層は、統一について30%程度しか共感しておらず、北朝鮮についても敵だとか警戒すべきだという否定的認識が50%近くあり、大部分が「別の国」と認識している。「統一は不可能だ」という意識も韓国(33.3%)と北朝鮮(55.7%)で高く形成されている。

金正恩・金与正の「国家主義」思考や「大韓民国」と呼ぶのは、30代の若い層だからこそ可能なのだ。韓国のMZ世代と同様に、金正恩と金与正は分断の記憶がほとんどなく、なぜ統一をしなければならないのかという当為性を実感できない世代だ。韓国と北朝鮮はもはや同じ民族や同じ国ではない。想像できないほど全く異なる国なのだ。

  1. 2024年1月24日に開催された朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議での金正恩発言。

  2. キム・ビョンロ、キム・ハクジェ、ソン・ウォンジュンほか『金正恩政権10年 北朝鮮住民統一意識』(ソウル大学統一平和研究院、2022)、pp.120-121。


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