勇気を出せば成功するわけではないが、成功するためには必ず勇気が必要だ。 【ハチ飼育員の手記 8月】
喜び勇んで社長に報告をしたところ、
社長は
「大丈夫か?」
と眉をひそめた。
飼育員 大丈夫、とはどういうことでしょうか?
社長 社会福祉協議会といえば、俺なんかはよく知っているが、大変な歴史があり、権威のある組織だ。
そこへお前みたいな“昼間っからブラブラなにしてんだ?”感のある人間がたずねたところで、まったく相手にされないだろう。そもそも建物の中に入れてすらもらえないかもしれない。
飼育員 それは困ります。どうすれば良いのでしょう?
社長 短パンはやめろ。
飼育員 わかりました。短パンではいきません。
社長 Tシャツもやめろ。
飼育員 短パンもダメ。Tシャツもダメ。それでは一体なにを着ていけば良いのでしょうか。
社長 最低でもスーツ。いや、相手が社会福祉協議会とくるなら、できれば最高をめざしてほしい。
飼育員 最高…ですか。社長にそこまで言わしめる、社会福祉協議会って、一体どんなところなんでしょうか。
社長 それは、とてもひと言では説明できん。
飼育員 ふた言では?
社長 ああ、もうそういう問題じゃない!
怖いのは、お前のそういうところだよ! とにかく失礼がないようにな。
…
…
社会福祉協議会というところは、
それほどまで畏れ多く、説明困難な組織なのだろうか。
文京区シビックセンター
※注 ここに社会福祉協議会はありません。
私はふだんスーツを着ない。
所有する唯一のスーツも、すっかりクリーニングに出し忘れており、ZOZOスーツの隣でしわっしわになっている。
最高ということは、礼服ということだろうか。礼服をビジネススーツということで押し通せるだろうか。
いや、さすがにやりすぎだろう。それくらい、私にだってわかる。
でもざんねんながら、衣類棚の中には、Tシャツとスーツの中間のものがない。
どうしよう。
約束の当日までもじょもじょ考えた末、
しわしわのジャケットに、
いっしょうけんめいアイロンとファブリーズをかけて、
それでなんとかごまかすことにした。
雨がしとしと降っている。
いざ「社会福祉協議会」を前にしてみると、
社長の「最低でもスーツ」という言葉が、
やけに心に重くのしかかかってくる。
「社会福祉協議会」とはなんだろう。
“協議会”というからには、きっとなにかを話し合って決めるんだろう。
私は人との話し合いが苦手である。
できれば話し合いは避けたい。屋上にミツバチがきてくれたら、ミツバチを話し相手にしたいと思っていたくらいだ。
でもここで、逃げてはいけない。
この入り口の先に屋上ミツバチの未来があるかもしれないのだから。
以下は、会話を録音もしていないし、もう記憶も消えかかっているので、
あくまでもこんなことを話したという「印象」にすぎない。
寝不足だったし、低気圧による頭痛もあった。
たぶん二日酔いの三日目でもあった。
これは不確かな記録だと、宣言しておく。
どもー☆
出迎えてくれたのは、
真夏のひまわりだろうか。
チアー感全開の女性Hさんだった。
Hさん WEBの養蜂の記事見てますよ〜。ていうか飼育員さん、まだハチを飼育したことないんですよねwww
(想像していたよりも、だいぶポップだ)
飼育員 あ、ありがとうございます。そうなんです、まだハチ見たことないです(*>_<*)ノ
Hさん ドンマイです!(・ω<) ところで、社会福祉協議会って知ってました?
飼育員 い、いえ、よく知らなかったです(*>_<*)ノ
Hさん ですよね〜(・ω<)
文京区社会福祉協議会って、(省略すると)文社協っていって、(超訳すると)誰かに困ったことがあったときに、地域で助け合うことができる地域にしていくために、地域のつながりづくりをお手伝いしています。
わかりますか?
飼育員 は、はいなんとなく(*>_<*)ノ
Hさん オッケーです!(・ω<)
飼育員 えーと、で、なぜ、文社協さんは、養蜂をやろうと思ったのでしょうか。
Hさん なんとなく。
飼育員 え?
Hさん 冗談ですよー(・ω<)
(超訳すると)地域のご高齢の方やお子さんたちいっしょに、「ミツバチを育てる」という課題に取り組むことによって、地域のつながりが密接になったり、心やカラダの健康につながると考えたからです。
飼育員 なるほど。それは立派なお考えですね。
しかし、そもそもなぜ、サンクチュアリ出版に連絡をくださったのでしょうか?
Hさん どこか屋上を使わせていただけそうな場所を、インターネットで探していたんです。
そしたら御社が。
飼育員 弊社が。
Hさん そう! まさに屋上で養蜂をしようとしている会社が、まさか文京区にあったなんて。めちゃラッキーでした☆
飼育員 それは…ラッキーでしたか☆(*>_<*)ノ
Hさん しかもなんと、まだハチがいない。育てようとしてるけど、まだ育てたことがない。完全なゼロ状態だというのも、わたしたちにとってはラッキーでした(・ω<)
飼育員 ラッキーでしたか(*>_<*)ノ
Hさん ラッキー(・ω<)
ハチの捕獲に失敗し、未だ「なんにもない状態」だからこそ、
地域の方たちとゼロからはじめられるメリットがある。
世の中なにが、功を奏するかわからないものだ。
しかしHさん、ノリだけで言ってくれてる…?
という疑いもなきにしもあらずだったのですが、
このあと、聖母のような微笑みをたたえた
上司のUさんも会話に加わり、
なんとなく、本決まり、でもないけど、
8割方、も言いすぎかもだけど、
確率としては半分以上くらい、
文京区社会福祉協議会✕サンクチュアリ出版
による養蜂プロジェクトを実現できるかも?
という話をしてくださいました。
地域の参加メンバーと、養蜂の正しい知識を学びながら、
きちんとした道具と設備をそろえ、
ハチを育て、ハチミツを採取し、
そのハチミツをいずれは文京区のブランドにしていきたいと、
…その目的はまさに飼育員と完全一致。
まさにねがったり、かなったり?
いんや。
私は子どもの頃から、とらぬたぬきのなんとやらで、
まだ捕まえてもいないハチを売ることを考え、
手に入るかわからないものを当てにして計画を立てやすいと、
しょっちゅう注意を受けてきた歴史がある。
不安点はまだいくつかある。
・弊社のあの狭くて、とても美しいとは言えない屋上を見せたら、文社協の方々を失望させてしまわないだろうか。視察の結果、「他をあたってみます」ということにならないだろうか。
・弊社の階段は「急」である。スタッフも数人、転げ落ちている。地域のご高齢の方が、万一転げ落ちてしまったら、どう責任をとれるだろうか。
・飼育員が最終的にめざしているのは「ニホンミツバチ」の飼育である。
もし「セイヨウミツバチを飼おう」ということになったら、「ニホンミツバチ」の夢は絶たれてしまうのだろうか。
まあ、
もろもろ、
おいおい、
解決していけばいいか。
ちなみに
先日、<マツコの知らない世界>で、
「屋上ハチミツの世界」を紹介していた。
平日ゴールデンの全国放送である。
日本全国の屋上という屋上が、
ミツバチたちの楽園になる日は近いだろう。
飼育員 橋本圭右
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