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FAB23 Bhutan、4月末のアップデート

今年の世界ファブラボ会議(FAB23)については、3月下旬に待望のウェブサイトが公開され、開催に現実味が増してきました。私が在籍しているファブラボCST(プンツォリン)は主催者ではなく、「コミュニティパートナー」という扱いなので、準備にあたって内部情報にあまり触れられる立場にはありません。どちらかというと、主催者が決めた方針と作業指示に応じて、「やれ」と言われたことを作業期限までに必死にこなしている感じです。

主催者は、米国のファブ・ファンデーションとMITのビッツ&アトムズセンター、エストニアに事務局があるファブシティ・ファンデーション、それにブータンのスーパー・ファブラボと親会社のドルック・ホールディングス(DHI)となっています。ただ、私たちのような地方ファブラボからは、準備プロセスで私たちに作業指示をして来るスーパー・ファブラボとDHI、それに、現時点でFab Bhutan Challenge(7月第3週)の準備プロセスをファシリテートしているファブシティ・ファンデーションの若いスタッフの顔は特定できますが、肝心のFAB23カンファレンス(7月第4週)の準備の方は、もっぱらファブ・ファンデーションとDHI/スーパー・ファブラボの間で進められていて、地方の私たちにはよくわかりません。

さて、4月30日でFAB23カンファレンス期間中のサイドイベントのオンライン登録受付が締め切られたので、いいタイミングかと思い、今回は、私絡みのFAB23期間中のイベントについて、ご紹介していきたいと思います。

FAB23を機にブータンに来てみようという方もいらっしゃるかもしれませんので、私はどこで何をやっているのかを中心にまとめてみます。


1.Fab Bhutan Challenge(7月17日~22日)

Fab Bhutan Challengeについては、2月初旬にスーパー・ファブラボから各地方ラボに協力要請があり、3月に入ってからは毎週水曜夕方4時からファブシティ・ファンデーションの若手スタッフのリードによるワークショップが開催されました。私たちも毎週行われるオンラインでのワークショップに参加し、それに合わせて期限付きの作業の指示に応じて努力してきました。

FAB23カンファレンスの前後に、地方ラボが独自サイドイベントを開催することはまかりならぬとファブ・ファンデーションからNGが出されたそうなので、現状、外国人参加者が地方ラボを訪問するには、Fab Bhutan Challenge参加が必須条件となっています。

とはいえ、地方ラボもそれぞれ受入れ能力には限界もあります。ファブラボCSTの場合は大学の近くにホテルがあり、比較的受入れ条件は恵まれている方ですが、開催時期が雨期の真っ只中で、プンツォリンまでの道路状況が不安なことから、10人程度でとどめることにしています。

各地方ラボが何を挑戦課題として提示しているのかは、4月19日にすでにチャレンジピッチがオンラインで開催され、その録画もYouTubeでご覧いただけるので、そこで確認できます。この挑戦課題に、外国から来られるメイカーの方々が挑み、短期間でプロトタイピングに取り組むわけです。(ブータン人も参加できますが、募集は5月に入ってから行われるようです。)

ファブラボCSTでは、大学周辺でポイ捨てされているアルミ缶を溶解してインゴットを作り、その出口として、プンツォリンの障害児特別教育指定校「SENスクール」の生徒向けの自助具製作に役立てられないか、という課題をピッチしています。

なぜこのテーマなの?と思われるかもしれません。2月の時点で、うちの学内ではすでにブレストが行われていて、南部特有の課題をいくつかリストアップしていました。でも、3月8日、ファブシティ・ファンデーションの人たちから思わぬ宿題が課されました。
①3月15日までにその課題に関するコミュニティのステークホルダーとの調整が終わっていること、
②課題はより具体的に1つに絞ること。

ステークホルダーとの調整期間が1週間しかない中、何ができるのか、私たちは内部で議論しました。今から新たに調整なんてとてもやっていられない。こうなったら、すでにステークホルダーとの具体的な協働の実績があるテーマに絞るしかない。

ということで、2月から3月上旬にかけて、JICAの短期専門家でお越し下さったファブラボ浜松の竹村真郷さんと、ファブラボ品川の林園子さん、濱中直樹さんにやっていただいたワークショップの実績をベースに、「CST学生」「SENスクールの生徒と学校関係者」「アルラ医学アカデミー看護学生」をステークホルダーとし、「アルミ加工」と「自助具」を掛け合わせるというアイデアで勝負することになったのです。

この「合わせ技」は、うちのマネージャーのカルマ・ケザンさんのアイデアです。このため、アイデアを出したカルマさん本人がリードして、学内及び学外ステークホルダーとの調整を進めて、動画撮影から編集、チャレンジピッチ当日のプレゼンまで、ほとんどこなしました。補足すると、チャレンジピッチ後も、カルマさんは、学生ボランティアを集めて毎週土曜日に空缶回収をはじめたり、アルラ医学アカデミーと調整して看護学生にファブラボに来てもらい、3Dプリントのハンズオン研修を受ける機会を提供するなど、活躍して下さっています。

日本から来られるFAB23参加者の方が、Fab Bhutan Challengeにまでお越しになれるような、余裕ある渡航日程を組んで下さっているのかどうかはわかりませんが、可能なら是非チャレンジを受けていただけたらと思います。ただ、聞くところではこのFab Bhutan Challengeの参加希望者は、挑戦したい課題を選べない(優先順位のみ指定できる)、すなわち、「ファブラボCSTに行ってみたいからそこの課題に挑戦させて欲しい」というホストご指名ができないそうなので、ホスト側としてもちょっとやる気を削がれますよね(苦笑)。

いずれにしても、Fab Bhutan Challengeの参加表明は5月7日が締切になっていて、21日には誰がどこのファブラボを訪問できるのか決まってしまうそうです。決まってから準備でまた忙しくなるのでしょうが、ここはカルマさんをはじめ、JICAプロジェクトのカウンターパートであるCSTの教職員と学生に頑張ってもらいましょう!


2.FAB23カンファレンス(7月23日~28日)

CSTは、7月第3週から新学期がはじまっているので、第4週にティンプーで開催されるFAB23カンファレンスに、学生や教職員を動員するのは相当難しいと思われます。そうした事情があったので、「地方ラボでも独自サイドイベントをやらせて欲しい」と私たちは主催者に要望したのですが、この希望は見事に却下されました。

また、FAB23カンファレンスの会場についても、「スーパー・ファブラボに限定」と内々に言われています。そんな中で、私たちもFAB23カンファレンスに協力しろと主催者から求められていますが、前述のようなCSTの対応能力の問題があって、CSTにしても、またファブラボCSTにしても、それほど多くのサイドイベントはできないと考えています。

でも、CSTやファブラボCSTとしてはムリでも、JICAとしてはやった方がいいというものもあります。そんなわけで、4月30日までにオンライン登録が行われたサイドイベントの中に、私自身がプロポーザルを書いたものが5件あります。さすがに私の名前で登録すると、主催者に「そんなにたくさん企画立案してお前はちゃんとマネージできるのか」と減点要素にされる可能性があるので、プロポーザルは書いたけれど登録者は別の人の名前にさせていただいた案件もあります。

全部採用されたらとんでもなく忙しい1週間になってしまいそうです。繰り返しますがこの週はCSTやファブラボCSTからの応援部隊は数が少ないので、開催にあたっては、ティンプーのローカルパートナーと組んで開催するというのも考えないといけません。

全貌は先になりますが、いくつかごその片鱗をご紹介しておきましょう。

1つめは「ファブラボCSTの魅力宣伝」(パネルトーク)です。せめて学長とうちのマネージャー、それにCSTのファブ・アカデミー卒業生、及び6月までCSTに在籍していて、ファブラボのユーザーだった卒業生を集め、プンツォリンまでお越しいただけない外国人メイカーの皆さまのために、ファブラボCSTの紹介をさせていただきます。元ファブラボ・ブータンのスタッフであるナンダ・グルン君も、CSTのOBですので登壇してもらう予定です。

2つめは「JICAの宣伝」(パネルトーク)です。JICAの本部にはFABxの窓口を自認する部署はなく、毎回「現地対応」をと言われるのですが、私が再三noteで主張している、現地開発協力関係者による現地ファブラボの活用については、少なくともブータンでは実績を作りはじめているので、「こういう形なら、現地のファブラボはJICAとコラボできる」という話をしたいと考えています。(本当は、むしろ東京のJICAの人に聴かせたいセッションですけどね。)

3つめは「ファブラボ・ブータンの再評価」(ハンズオン研修)です。これは、5月にできると言われているティンプーの「チェゴ・ファブラボ」との共催です。FABxのブータン招致の最大の功労者であるツェワンが来ないことや、ファブラボ・ブータンができてすぐに彼らが取りかかった「ファブ2.0」(ファブラボを作る)の最初のプロトタイプがFAB23で注目されないのは、ファブラボ・ブータンの友人を自認する自分としては忸怩たるものがあるので、そのプロトタイプを引き受けたチェゴ・ファブラボとともに、そのマシンを修理して動くようにするワークショップを行います。

4つめは、「自助具」のプロトタイピングと、3Dプリント出力(ハンズオン研修)です。これは、ブータン脳卒中財団に現地での協力を仰いで開催します。プロトタイピングの方はプンツォリンでやってきたことに倣ってメイカソンのような形式で、出力サービスの方は、むしろブータン人の来訪者(障害者団体関係者やSENスクールの教員、生徒さんなど)に、ファブラボ品川で出された下記のカタログを使って、データスキャンと一部の出力をその場で体験してもらっちゃおうという企画です。

5つめは、まだ漠然としていますが、ファブラボ・ブータン(2021年11月に「ファブラボ・マンダラ」に改称)の元スタッフが集まれるような場が用意できないかと考えています。


3.他にもありますが…

本日は、私が確実に関わる案件のみご紹介しました。これ以外にも今後アドホックに何かイベントをやれという話が出てくるかもしれませんが、せいぜい1時間以内の小規模なミーティングの類になるでしょう。また、私にはJICAの技術協力プロジェクトの専門家やファブラボCSTのアドバイザーという肩書き以外にも、上記のプロポーザルを提出する際に使った別の肩書きがあるのですが、ここでは書きません。

ただ、これだけは言えます。私は「JICA」の代表ではありませんということです。FAB23の会場に行けば、「JICAとコラボしたい」「JICAの支援を得たい」などのご要望を受けることがきっとあると思います。でも、私はJICAの技術協力プロジェクトの専門家として答えられることは答えますが、JICAに組織として答えて欲しいと求められるようなことにはお答えできません。

2013年8月のFAB9(於横浜)では、ファブ・シンポジウムにJICAの役員が登壇して、「我が社はファブラボを支援する用意がある」とまでおっしゃったそうですけど、あれは一体どうなったんだろうか―――そう思っているのは私も同じなのです。

最後に、「ファブラボCSTには行ってみたいけれど、Fab Bhutan Challenge参加が必須で、参加表明してもファブラボCSTに行かせてもらえるかどうかはわからないので無理」と思われている方に、ちょっとだけ気休めになる情報を提供させていただきます。

FAB23参加用のビザは、渡航期間が7月16日~31日までであれば発給されるようです。つまり、FAB23カンファレンスの後にちょっとプンツォリンにも行ってみようかというご希望は、かなうかもしれません。

すでにFAB23の情報発信用WhatsAppチャットページは開設されていて、外国人メイカーからの質問に主催者が答えていますが、今のところ日本人メイカーの問合せはほとんどありません。お急ぎ下さいね。




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