見出し画像

拙著韓国語版序文で述べたこと

2020年9月に刊行した拙著『ブータンにデジタル工房を設置した』が、韓国の出版社の目にとまり、今度韓国語に翻訳されて出版されることになったそうです。序文を書いて欲しいと版元から依頼があったので、この週末は2時間ほどかけて、こんな原稿を書いてみました。


拙著『ブータンにデジタル工房を設置した』が韓国の読者の目にふれることを嬉しく思う。fablabs.ioの登録ファブラボ数は、日本が21なのに対し、韓国は42にのぼる(2023年9月1日時点)。ファブラボ・アジア・ネットワーク(FAN)の第5回大会は、2019年5月に開催されている。ファブラボに対する分厚い支持層がなければFAN会合は誘致表明が難しい。日本ではまだFAB会合開催実績はない。

韓国のファブラボ分布図。活動休止しているところもあるようですけど…

韓国国際協力団(KOICA)では、ファブラボのグローバルネットワーク急拡大の原動力ともなった「オープンソース」や「オープンデータ」を国際公共財と位置付け、支援方針を明確にし、実際にキルギスやウズベキスタンでのファブラボ開設支援を進めてきた。拙著刊行から3年が経過した現在も、日本の国際協力とファブラボネットワークとの広範な連携の推進で苦戦を強いられている自分にとって、KOICAの取組みは羨ましいとすら思う

2021年10月の北東アジア開発協力フォーラムでKOICAの方が発表で使われたスライド
国際公共財だから、オープンデータ・オープンソース促進に貢献すると書かれている

2019年4月にブータン駐在を終えて帰国した後、私自身に大きな動きがあった。本書で登場する王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)とのプロジェクトの実施が決まり、私は技術協力専門家として、2021年5月にブータンに再赴任した。パンデミックの影響で、1年近く首都での単身滞在を余儀なくされ、2022年5月にようやくプンツォリン入りを果たした。CSTのファブラボは同年8月にオープンし、以後活動実績を積み上げてきた[1]。この間、ブータンのファブラボは6つに増えた。ファブラボCSTは、中でも最もユニークかつ活気ある工房として注目されている。

一方、私の盟友ツェワンが2017年に設立したファブラボブータンは、2022年8月、王立ボランティア事業「デスーン(Desuung)」に経営譲渡された。その背景までは詳述しないが、これを機に2人はブータンのファブラボシーンから身を引いてしまった。ファブラボブータンは「チェゴファブラボ」と名を換え、2023年9月に首都の別の場所で再始動した。

パンデミックによる1年延期を経て、ブータンでの世界ファブラボ担当者会議(FAB23)開催は、2023年7月にようやく実現した[2]。ツェワン不在により、私が来賓として招待される話は夢とついえたが、ファブラボCST、そして国際協力機構(JICA)の一員としてFAB23に参加し、サイドイベントの企画と開催に自ら奔走した。

FAB23では、2022年以降に操業開始したラボが脚光を浴び、ファブラボブータンやツェワンの功績が顧みられる場面は少なかった。ブータンのファブラボ創世記を見守った筆者としては、一抹の寂しさも覚えた。本書を通じ、ものづくりを愛する韓国の読者の方々に、草分期のブータンで起こっていた出来事を知っていただけたら幸いである。


[1] https://www.facebook.com/p/FabLab-CST-in-Phuentsholing-Bhutan-100071110512703/

[2] https://fab23.fabevent.org/


文字数の制約もあり、これだけに絞りました。

本当は、お隣りのネパールでの韓国大学の支援についても書きたかった。2022年4月、韓国大学はファブラボネパールに協力し、グローバル・プラスチック・アップサイクリング・メイカソンのカトマンズ開催に一枚噛んでいます。一枚どころじゃない、募集要項を掲載したのは韓国大学のウェブサイト上でした。

ファブラボネパールは、、その後、プレシャス・プラスチック・ネットワークの推奨するプラスチック再加工機を導入し、同じ内陸国でもブータンより少し進んだ取組みを行っています。

拙著刊行からすでに3年が経過しています。FAB23がファブラボブータンやツェワンへのリスペクトがほとんどない状態で挙行されたのを見ていて、過去の経緯を記録に残していたことは、改めて評価されてもいいのかもしれないと思いました。

と同時に、拙著で書いた通りに物事が進んでいないことにはもどかしさも感じます。「事実(Fact)」と「希望的観測(Aspiration)」をごちゃ混ぜにして話すブータン人の語りを真に受けて文章化してしまったところもありますし、私の派遣元である日本の開発協力機関においても、拙著で述べたような提言が生かされていると思えるところはあまりないのが現状です。

こうして3年前の著作が他国で脚光を浴びるのは嬉しいですが、アップデートした続編を出した方がいいかもなと改めて思いはじめています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?