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怪異を科学で検証したら

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「不知火・人魂・狐火」神田左京 著 中公文庫
神田左京はホタルの研究で知られている発光生物の研究者である。
その発光生物の研究者が不思議な発光現象である「不知火・人魂・狐火」について発光生物の研究者として検証に取り組んだのがこの本である。
というワケで
この本は怪談の本でも超常現象の本でもなく昔から怪異の火とされてきた現象について科学的検証を行った本であるとともに科学がどれほど一般人から疎まれているかが思い知らされる本でもある。
出版されたのは1931年(昭和6年)と古いのだが、文章は現代文に改訂されているので時折・例えばジャック・オ・ランタンが「ゼアック・オ・ランタアン」となっていたりすると「あ、これは昭和6年の本であった」と気づくくらいで文体そのものは違和感なく読むことができるので夏休みの大人の読書にもいいのではと思う。
さて
私が子どもの頃に読んだ子ども向けの理科の本や少年雑誌やらでは、墓場の人魂や狐火は骨が分解してできた燐が燃えたもの、などと解説していたと覚えているが昭和6年の段階でもうすでに科学的には全否定されていたことをこの本で初めて知って驚いた。
もともとこの「燐」という文字は中国で「火の燃えるような現象」を表した文字だったのが、近代になって化学の知識が入ってきて元素としての「燐」と「ごっちゃ」になったようなのである。そもそもが元素としての「燐」は自然界には存在しないのだと。なぜなら「燐」は非常に酸化しやすいので空気中の酸素と結びついてしまうからだ。あー、化学の授業で燐は酸化した五酸化燐として存在するってナンか覚えている気が(汗。すでに酸化してしまった燐がどうやって燃えるのか?酸化って燃えることだからさ。燃えちゃった燐はもう燃えないのである。
などなどという感じで神田左京は古今の言説の間違いを「燐説」だけでなく「メタンガス説」「燐化水素説」等さっくさっくと切り崩していくのである。「言海」の大槻文彦についてさえ、字引は知らない人に教えるための本なのにこのくらいの常識は心得ていてほしい、中国の古い話ならともかく明治、昭和の字引なのだからこれではやりきれない、と容赦ないのだ。
そしてまたこの本で驚いたのが

理系の生物学者が古文漢文を自分で普通に読んでいる

ということだった。
さすがは昭和6年、古文漢文はまだ現役だったし
研究者の教養は広く深かったのである。
「本朝食鑑」や「抱朴子」など、普通に読んで解説しているのだ。
湯川秀樹も素読について書いていたっけ。

あまりに「無駄のない」「節約志向」の勉強では望めないことでござる。
そしてこの本は「不知火」の項で衝撃の展開を迎える。
(続く

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