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こぎん刺し

実用

靴下の同じところに穴が開く。
自分の歩き方の癖なのだろう。
で、他の所はまだまだ大丈夫なので
捨てるにはもったいないと思いつつも今まではやむなく捨てていた。
今はようやくヒマもできてきたことだし
それじゃあ何十年ぶりかで繕い物をするか、とやってみた。
実際、こういう仕事は嫌いじゃない。
プラモを作るような?

黒地に黒の糸だと老眼もあって作業がかなり辛いので
ちょうどあった紺色の刺し子用糸を使うことにした。

もともとこういうことは好きだったのだが
まだ何も知らなかった中学時代にちまちまやっていたのと
結婚して勤めに出て子育てをしてボランティアやって大学に行って
ひいひい言いながら走ってきてちょと落ち着いた
そういう今やるのとでは
手作業の時間に感じるものがずいぶん違う。
同じモノでも
それしか知らないときと、色々なモノを見てきてから見るのとでは
全く違って見えるのだ。
そうだ
これは継ぎ当てではなくて・つまんで綴じるのでもなくて
こぎん刺しのちまちましたやつみたいなものではないかと。
こぎん刺しという
非常に美しい模様を刺繍された着物をご存じの方も多いだろう。
で、ナンでこのように手の込んだものが誕生したかと言うと
江戸時代に弘前藩が農民に倹約令を出したのがきっかけのようだ。
当時木綿は高価だったので
農民は木綿の着物を着てはならないが、木綿糸は使ってもよい
ということになったので
麻の着物は木綿に比べて擦り切れやすいのと
風通しがよくて冬は寒すぎるのとで
麻布の目をふさぐように木綿糸をくぐらせて
丈夫にするのと・風が通らないようにしたのが始まりだという。
で、そのうち次第に手の込んだ美しい模様が作り出されるようになったと。

確かに今見るこぎん刺しはそれは見事な模様で素晴らしいけど
東北の女性の辛抱強い手仕事に感心して
見事さに感嘆するだけでは何だかなあ、と思うのだ。
最初から麻と木綿で混ぜて布を織るとか
麻の着物に木綿の布を当てて刺し子にするとか
そういうわけにはいかなかったのだろうか。
その方が手間が少なくて効果が出ると思うのだが。
一針一針辛抱強く針を運ぶ女性を
「素晴らしい」と褒めるだけではイカンと思うぞ。
彼女たちは一体どれだけの時間と手間をかけさせられたことだろう。
器用な人ばかりでもなかったはずだし
農作業と家事で指はぼろぼろがさがさになっていたはず。
そんな指での細かい縫い物は辛かったろうと。

理不尽なお上の決まりごとに対抗して
見事な作品にまで仕上げた女性たちの反骨をこそ見るべきではないか。
今じゃ見事な観光資源だぜ♪
と、不器用でがさがさの指の自分は繕い物をしながら思ったのであった。

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