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エッセイ:太陽はまだ(再掲)


※2023年12月15日に投稿した記事です。

先日、チバユウスケが亡くなったのを妻から教えられた。享年55歳。妻はミッシェル・ガン・エレファントなんて知らないと思っていたが、私が若いころ好きだったのは知っていたらしい。何も言わず、ぼんやりとテレビを眺めていたが、ふと、まだ若いのにともらした。
ギターのアベフトシが亡くなったとき、私も妻と同じことを呟いたような気がする。
まだ若いのに。は平凡だ。しかしだ。平凡なのは当然だろう。死が平凡なのだから。誰もが死ぬ。こんなに確かなことはない。


俺が死んだら時間も終わる

何かのインタビューに答えて、アベフトシがいった言葉だが、かっこいいと思った。彼の唯一無二のカッティングのように。ロックだぜ。と何の考えもなく、俺が死んだら時間も終わると私も思っていたが、数年前大怪我をして、そのとき、もし死んでいたらと考えた。私は灰となり消えるが、妻を含め私を取り巻いていた環境は残り、時間は持続するだろう。場所だと気がついた。私という物理的存在を在らしめているのは場所であり、場所があり続ける限り私が死んでも時間は続いていく。平凡だ。集中治療室のベッドの上で私は何もできなかった。食べるのも下の世話もだ。もう一つ気がついた。もっと平凡だが、人は一人では生きていけないのだと。


アニメ見たら人生変わったんです

入院中、担当の作業療法士がそう言った。おかしな奴だと思った。人間には二種類ある。頭のおかしい奴ともっとおかしい奴だ。多数派と少数派と言い換えてもいい。彼女はどっちだろう。どっちにしろ、三十年も生きてきてアニメで人生が変わったなんておかしい。人生は変わらない、変わるのはせいぜいものの見方だ。
進撃の巨人だって? 興味はなかったが入院中は兎角に時間がある。見始めると止まらなかった。
あれって日本のことだと思うんです。と作業療法士はいう。壁というのは防壁であると同時に牢獄の壁で……。面白い話だった。彼女が言っているのは場所のことだ。色々と聞いていると、この国の体たらくを憂いているらしい。まだ若いのに。とそのとき私が思ったかどうかは不明だが、気づきとなった。
彼女は地に足がついている。こういう人は少数派だろう。しかし変わりつつあるように思う。


太陽はまだ

イケ◯ミアキラという悪魔をご存知だろうか。もう三万年一睡もしていないらしい、人を惑わす悪魔だが、十年ほど前テレビで見たときは日本悪玉論をやっていた。しかし最近は宗旨変えをしたらしく中立的で、とある隣国のことを日本の脅威だと解説している。悪魔一匹で一事が万事とは言わないが、この国を取り巻く環境は刻一刻とシビアになっている。もし異論のある方は、豆腐の角に頭をぶつけてタヒんで頂きたい。
グローバリズムの反動。足許が揺らいでいる。力のバランスはとっくに崩れている。激動のとば口にある今、足許を見よう。日出る、この国がまだあるうちに。
場所を抜きに生きるとは根無し草の生き様だ。虚像であるロックミュージシャンなら、むしろそうあって欲しいが。
チバユウスケ氏とアベフトシ氏に、謹んで哀悼の意を表します。