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赤ちゃんからやりなおせ!2


出産予定日よりもかなり早い、雨の日の火曜日、産気づいたとリナから連絡が入った。
勤務を終えてすぐにリナの地元の入院する病院へ向かったが、新幹線の電車の中で、緊急帝王切開で産むことになったと連絡をうけた。こんな状況で、どうすることも出来ない、緊張しながらひたすらスマートフォンの通知を待った。
その30分後にリナの母から、母子共に無事である連絡が入った。窓の外の雨が、祝福の雨に感じた。
立会い分娩を希望していた俺たちだったので、娘が産まれる瞬間に立ち会えなかった残念さは存在するかもしれない、だが、そんなことはまぁいいと思えるくらい、深く深く安堵した。新幹線の小さな窓に打ち付ける雨が、こんなに愛おしく、こんなに綺麗に見えてる人はいないだろうと思った。

それから病院につき、初めて小さな小さな命を抱いた時、「軽っ!」ふわっと天使の羽が生えているようだと、漫画みたいなセリフが思い浮かんだ。
「小さいよね、早く生まれてきちゃったから」
リナが言うと、横にいたおばちゃん看護師が「何言ってんのよ!立派よ!早産でもないし、なんの問題もないかわいい赤ちゃんだよ」ガハハと笑ったあとに、優しくリナに笑いかけていた。リナは傷が痛むようで思うように起き上がれず、それもつらいと言っていた。
俺は腕の中のこの世のものとは思えない可愛らしい愛おしい存在に、昇天しているかのような気分で、周りの音が遮断されているように浸っていた。
かわいいかわいい娘は、ナオと名付けられた。

「さて、と」
ドラッグストアから戻り、両手には新生児用のオムツ。
準備は完了。妻であるリナから買っておいてくれと頼まれたものは買った…おおっと急がねば、日本対チュニジアのサッカー観戦のためスポーツバーへ出かける。

つづく

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