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余興~自己対局七番勝負~

指す順もない。ゆかなか竜王戦もない。月光戦もない。
────“血” 
血が足りない……!

ということで最速キメvs最速キメで七番勝負をやってみました。

最短なら4局で終わるが果たして。

ルール:
・対局はリアル将棋盤で行う
・持ち時間は15分、使いきったら一手60秒の秒読み(指す順ルール)
・詰みまで指す(粘りの技術、終盤力の強化等が狙い)

裏設定:
最速キメa→相掛かり党。後手番では多彩な戦法を指す
最速キメb→角換わり党。後手番は王道 2手目△8四歩
中終盤は双方特に縛りなく本気で自らの勝利を目指す。

〈第一局〉

URL:https://shogi.io/kifus/shared/17cb8a1b-4560-4fc5-9ffe-369f2374b4ee

(↑全ての指し手を確認したい方はこちらからどうぞ)

10手目 △5二玉

相掛かり ▲9六歩型vs△5二玉型

第一局はこの戦型がテーマ。

新型相掛かり▲9六歩型に対して後手がどうするかというのが現代将棋における一つの大きなテーマで、△5二玉型は後手の有力な作戦の一つです。

プロ棋界では藤井聡太竜王が愛用している印象が強く、コンピューター将棋界でも現状最もメジャーな応手になっていると思います。

本局とは若干形は異なりますが、相掛かり△5二玉型自体は私自身もTwitter棋戦で採用したことがあります。


22手目 △7三桂


▲7七金型が目を引くが釣り合いは取れている

ここまではまだ定跡範囲。

先手にこのようなイビツな形を作らせたというのは後手のポイントになるし、先手にとっても8筋歩交換を防ぎながらこれで形勢が良いなら何の問題もないので不満無しというバランスの取れた形。

この前放送された第72回NHK杯決勝戦 佐々木勇-藤井聡 戦と同一局面で、そのときは以下▲5六銀と指されていました。


将棋倶楽部24データベースにも実戦例が一局だけあり、それも23手目は▲5六銀だった。


24手目 △6四歩


本譜は5六の地点に角や歩を持ってくる余地を残すために▲6六歩で桂馬を受けました。
△6四歩と更に圧をかけつつ形を良くしてくる手に対して、2筋が空いているので歩交換をしていきます。

28手目 △2二銀


この次の手がポイントで、本譜は手拍子で▲2八飛と引いてしまいましたがこれが緩手。

代えて▲7五歩と仕掛けていくのが最善手で、△8四飛や△6三銀と受けるのは▲5六角と打つことが出来ます。
これが5六銀保留の効果だったのですが、こちらだけが居玉で かつ4七の銀や8九の桂馬など浮き駒がかなりある状態なので、それでこちらから仕掛けていくというのは発想になく逃してしまいました。(▲5九角は上記の浮き駒をどちらもカバーしている点も面白いですね)

44手目 △6五歩


互いに陣形整備を進めて画像の局面。
先手だけが歩を持ち駒にしており主張はあります。
44手目△6五歩が最善の仕掛け。更に早く仕掛ける手も有力だったようです。

これで▲5六角と据える手が間に合わなくなってしまいました。
ここでは▲5六銀が最善(△6六歩▲同銀△6五歩には▲5五銀左とぶつけていく)でまだ先手がやれていたようですが、本譜は▲同歩と応じて形勢を損ねてしまいました。

53手目 ▲2九飛


8筋を守っていた金が退いたので飛車先歩交換が入り 後手としてはまずまずの展開。
ここで飛車を引いたのは△3九角と打たれる筋を警戒したのですが、実は必要なかったようです。

ソフト的には代えて①▲5六歩としておいて、△3九角には▲2九飛△5七角成に無視して▲6四歩くらいで先手が有利とのことでした。
また②▲5六銀でも△3九角には▲3八飛△5七角成に無視して▲5五歩として銀を引かせてから▲6五銀と桂馬を払えば優勢でした。
(ただし②では△5七角成に代えて△5七桂成があり、▲3九飛に△3八成桂▲同銀(このとき①では▲同銀右と取れるので何ともない)△4八金があり先手難局)

とにかく角と桂馬のコンボには無視しておくのが急所で、意外とこちらの金銀の連結がよく耐えていたのですがそれを見定めることが出来ませんでした。

72手目 △8六角

ここより少し前、70手目に本譜△7七同桂成に代えて△8八飛成と指しておけば非常に厳しく、決め手級だったのですが本譜は画像のように王手銀取りを決めてとにかく後手陣を磐石にすることを優先した結果互角の形勢に戻してしまいました。
この辺りは既に双方秒読みで苦しい進行でした。

77手目 ▲4七金

この局面では桂馬取りを無視して攻めていく手がないかを考えていたのですが どれも上手くいかないように思えて、時間切れが迫って咄嗟に桂馬を守ろうと指した手が▲4七金でした。
角にもあたっているので部分的には強力なのですが、本譜78手目△3八銀が激痛で、後手に形勢が傾きました。
▲4七金を指した瞬間は当然この切り返しには気付いていないのですが 後手の手番になってひふみんアイしてみると一瞬で発見できたので、盲点というのはつくづく恐ろしいですね。

ちなみに最善手は▲2六角で、こうやって桂馬を守る手がありました。
1六の香車にもあたっているので△1八香成などとしたくなりますが▲4九飛が好手で先手が良くなります。

投了図

形勢が傾いてからは 90手ほど粘るも如何せん攻め駒が足りず、逆転の機会が訪れないまま終局に向かいました。
お互い秒読み状態を一人で100手近く続けるのはとてもハードで流石に疲れました……。


初戦からいきなり後手番ブレイク


〈第二局〉

URL:
https://shogi.io/kifus/shared/9d145f8a-1ca4-49ad-a8a0-a14c4aa52937


13手目 ▲7八銀 ~ 20手目△3二飛


居飛車か振り飛車かなかなか態度を決めない後手。
こちらは早めに▲2五歩を決める手もあるところですが、向かい飛車を誘発したり銀や桂を2五に持っていく作戦が取れなくなったりするきらいがあるので本譜は保留して▲7八銀を選択しました。
対居飛車ならば升田美濃、対振り飛車ならマリンブルー流に移行できる柔軟性があります。


これは居飛車かな?


(流石に両面待ちできる手がなくなってきたので▲2五歩)

と見せかけて……


振り飛車!!

単純な陽動振り飛車というより、振り飛車と見せかけて居飛車と見せかけて振り飛車という随分遠回りな作戦。
(相手は自分なのに陽動を仕掛けるという訳のわからなさが隠し味)

美濃囲いを放棄しており持久力はないので自分から積極的に動いていくことになります。
評価値は水匠5で+200ほど。自分の世界に引きずり込むなら まあ許容範囲ですかね。

第一局の相居飛車の最新型とはうってかわって俗な戦型が第二局のテーマ。



完全な同一局面はありませんでしたが、近いところでいうとこの辺りでしょうか。
ただし前例は全て△3二金から雁木に移行しているので構想は全く異なります。
確かに△6二銀と指した以上 振り飛車は捨てるのが自然なのですが、あえてそこから振り飛車にしてみるとどうなるのかというのが本局での試みでした。

32手目 △5四銀


ゆっくりするとどんどん先手が良くなっていくので上部から動いていきましたが、△5四銀に代えてもっと良い手がありました。

それが△5六歩。以下▲同金△5五歩▲5七金△7二玉▲6七金に△5四銀とすれば本譜よりも好条件でした。
先手に5筋の歩は切られますが それより△7二玉が入っているのが大きく、手筋のような綺麗な手順です。


39手目 ▲5八飛


2筋方面はガッチリ守られ、飛車先を突破できる未来が見えないので5筋へ転換。
こうなると後手は無駄駒が目立ち、まとめるのが難しい展開に。
△7二玉をいれたいのですがその隙がなかなかありません。

その後の43手目▲3三歩成と捨ててから▲3五歩と銀を殺しにいく手順は最善手順だったようで、これも歩の手筋でした。


55手目 ▲8二銀

後手は遅いとわかっていてももうここから攻めていくしかない形。
対する先手はここで▲8二銀が非常に早く優勢に。
左右挟撃の足掛かりが出来てきました。

これがあるから△7二玉を入れたかったのですが遂に叶わず……組み立てが悪かったです。


73手目 ▲4五桂


先手はとことん好調。
▲4五桂とアタリになっていた桂馬をピッタリ跳ねて技あり。

評価値以上に、先手の囲いが無傷 後手陣はボロボロで持ち駒も少なく反撃の手掛かりに乏しいというのが後手にとって苦しいです。


102手目 △5二同飛


▲7七桂からの3手詰
相秒読みとはいえこういうのを逃すのはよろしくない。

投了図

流石にどうやっても先手勝ちでそのまま押し切り勝ち。
評価値は一度もマイナスに振らせず 先手玉に王手さえかからない完勝となりました。
よくわからない戦法をしっかり狩るのは非常に大事なことなのでその力があって良かったです。



王道戦型→変則戦法とガラッと雰囲気を変えるも連勝&連敗


〈第三局〉

URL:
https://shogi.io/kifus/shared/210411c0-8176-4a51-bc7a-62997666fd8b

10手目 △3四歩

再び相掛かりの最新型。
10手目△3四歩が本局のテーマ。

渡辺名人が特に愛用しているイメージが強く、最近は永瀬王座もよく指すようになってきました。
藤井竜王も採用したことがあり、記事作成時のタイトルホルダー全員が指したことのある作戦です。

次に△3三角と上がれば先手の飛車先歩交換を防ぐことができるので先手は▲2四歩と指すことになり、後手目線 他の作戦に比べると局面を誘導しやすい利点があると思います。

34手目 △8六歩

この一手前まではA級順位戦 斎藤-永瀬戦と同一局面でした。
上記の対局では△6三銀と持久戦を目指していきました。


24の局面検索でも後手勝ちの前例が一局だけあり、これも△6三銀と指されていました。
以下はいわゆるミラーゲームBから一手損した形やその周辺の形に進んでどうかという将棋になります。

対して本譜は△8六歩とこのタイミングで開戦していく作戦を取りました。
先手はまだ駒組みの途中なのに対し、後手は角換わり桂馬速攻などで部分的に見る形で急戦になったときに強い陣形です。

62手目 △8一飛

ここに至るまで後手から積極的に動いていけるので本局はこの指し方を採用してみました。
先手も攻めに上手く対応しながら陣形整備をして不満のない展開です。

ここまでは定跡なのですが、なんとこの対局の後にfloodgateで画像の局面と同一局面が出現しました。
http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/view/2023/04/16/wdoor+floodgate-300-10F+Lladro+Incinerator+20230416210006.csa
この対局では以下▲6四角と出て先手が勝利しました。

本譜は後手からの仕掛けが一段落したところで▲2四飛と走って動きを見せていきました。


64手目 △7五歩

ここで△7五歩とタダのところに歩を突くのが本局用意した研究手。
直接的には桂頭を狙った手ですが、もちろん▲同角と取られる手にも対応しています。
すぐに▲同角は△7六歩があるので一旦▲8七銀と桂頭をカバーしにいきます。


71手目 ▲3五飛

少し小競り合いがあって画像の局面。
ここでは△3四金打という手があって、これで先手の飛車が死んでいました

このとき7五歩を角で取っているので、▲7五飛と逃げる手が消えています。
この飛車の退路封鎖が64手目△7五歩の真の狙いでした。


73手目 ▲3四桂

ですが本譜は△2四歩とじわじわ寄せようとしてしまいました……。
▲8六角と引いて手を戻すのは△4四角~7四歩~△8八金から香車を回収して△7五香とするような手順があって大丈夫なのですが(▲8四角はあったようです。なので金は5二にあがるべきだったかもしれません)、ここで▲3四桂の両取りをうっかりしていました。

これもひふみんアイした瞬間に気がつきました。
(リアル将棋盤だと相手の持ち駒を失念しやすいですね、なんか物理的に遠くにあるし。)

実はこれでも△同金▲同飛△2三金としておけば後手がやれていたようです。
しかし桂馬をうっかりした直後で、正直これは決まってしまったかなと落胆していたので切り返しも逃してしまいました。負の連鎖とはこのこと。

86手目 △3三同金

ここで決め手がわからず▲7五飛とまわってしまいましたが▲4五銀で決まっていました。
以下△4二桂には▲3三飛成△同玉▲4四角△同歩と切り飛ばして▲3五桂で必至でした。


投了図

以下は特に見せ場なく終了。
一度優勢になってからミスが続いて捲られてしまった残念な敗北、先手目線では相手のミスをしっかり咎めきって勝利へ繋げた一局といえます。



遂に一つ返す


〈第四局〉

URL:
https://shogi.io/kifus/shared/6bcd717b-9644-408c-994a-39717bbf38ae


32手目 △7三桂

第二局は雁木を匂わせつつ振り飛車に移行する作戦でしたが、第四局は素直に雁木に組む将棋です。

後手雁木対策最有力の速攻に対して 玉と右銀を動かさない分 他の手を指して好形を狙います。
飛車先を突いて角を上がらせてから角頭を狙うのがポイントで、先手は無計画に早繰り銀を狙うと上手く動かれて悪くなってしまいます。

3筋で反発する後手と5筋で反発する先手の戦いが本局のテーマで、お互いに指す手が難しいです。
形勢も2手目△3四歩系統の将棋にしてはかなり均衡を保っている方だと思います。

24局面検索では同じ構想の将棋は見つかりませんでした。
一応元になっている対局はあって、以下にそのリンクを貼っておきます。

http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/view/2023/03/23/wdoor+floodgate-300-10F+IVISHA_COM+Sagittarius+20230323160001.csa


この対局では先手が以下▲9五歩と仕掛けていきましたが、右銀保留の効果で飛車に紐がついていることを活かして飛車角効果に応じるという後手の構想が見事で 居玉ながら意外に隙がなく後手が快勝していました。

なので本局ではその仕掛けを見送って(▲9五歩自体が不成立かどうかは怪しいです、個人的に検討した感じでは▲8一飛のタイミングが早くて47手目は▲3五歩が優っていたという認識ですがどうでしょうか)、▲4六銀と早繰り銀に構えました。


42手目 △8六同飛

この次の手が最初のターニングポイントで、▲7七銀で先手有利だったようです。

△8七銀とか、△8九飛成▲同玉△7七角成とか、△7七同角▲同桂△8九銀▲6八玉△8八飛成とか、全部怖いですが全部大丈夫らしいです。
今までの記事でも度々出ている「自陣は弱いけど相手陣の方がもっと弱い理論」ですかね。後手は居玉なので飛車を渡すと▲8一飛という攻防があるのも大きいです。先手玉も右側にスルスル抜けると妙に捕まらないですしね。

本譜は▲8七銀と指して互角の形勢を推移していきました。


48手目 △9九銀

対局中 ここで何を指して良いのかわからず長考に沈んでしまったのを覚えています。

ここでは▲7五歩と桂頭を狙うのが若干後手に振れながらも最善の頑張りでした。
以下△3四歩には▲6二角成と切ってしまって△同飛でも△同玉でも▲7四歩として桂馬を取りにいきます。
桂馬を取りきれば角と銀桂の二枚換えになり、後手陣が薄いので確かにまだまだ大変な勝負でした。

本譜はこの展開を発見できず、悪そうという予感はありつつも▲2四歩から特攻を仕掛けました。


63手目 ▲7八金

後手は居玉のままなのでなんとか食らいつけばチャンスがあるかもしれないと思っていたのですが、▲7八金が致命的な悪手(代えて▲7八銀が最善の粘り、▲7八金に対しては△6九龍としておけば△6五桂打からの詰めろ且つ必至)で敗勢を決定的にしてしまいました。
「自陣は弱いけど相手陣の方がもっと弱い理論」が今度は先手に適用されてしまいました。


投了図

秒読みのなか勝利を逃さずそのまま決着。



連勝&連敗で2-2のタイに。
我ながらよくできた展開。


〈第五局〉

URL:
https://shogi.io/kifus/shared/16aabc06-359a-4d3d-b919-127c98c0be91

13手目 ▲8七歩

8手目△8六歩からあっさり飛車歩交換をしてしまいます。
先に飛車の引き場所を決めることになるのがプロ的にはマイナス要素なのですが、それよりもとにかく自分の形を作ることを目指します。
相掛かりももう3局目ですが、ここにきて後出しを巡る最新の相掛かりに逆行する作戦を志向しました。


22手目 △2三歩

この局面が本局のテーマ。
後手は矢倉のような陣形を構築して定跡を外しながらわかりやすい展開にするのが狙いでした。

プロ棋士では山崎八段が似たような構想を披露していました。

ちなみに19手目で▲3四飛と横歩を掠め取るのは△3三銀▲3六飛△2八歩で後手に分のある将棋になります。

ここからはわかりやすく早繰り銀を狙っていきます。
こうなれば早々に引き飛車に決めたのも大きなマイナスにはなりません。


毎度お馴染み24局面検索では、▲5八玉に代えて▲3六歩としている局面が2局、一勝一敗でありました。

パッと見、俗な作戦で 正統派居飛車党の方には棋理を無視した対人間特化戦法に映るかもしれませんが実はそうでもありません。

評価値は水匠5で+100前後で、floodgateでは強豪ソフトがこの作戦相手に敗北を喫しています。
(本局の元ネタもこの対局です)

http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/view/2023/03/05/wdoor+floodgate-300-10F+CSSP+suiseihuman+20230305140007.csa

発動条件も相手にほとんど依存しないので、この作戦は正直Twitter棋戦用に取っておこうかとも思いましたが他にも色々構想があるのでこの指し方はここで御披露目。


28手目 △7三銀

ここでは代えて△7三桂とする形もあるところです。

本譜は後手の速攻に備えて、この局面から▲6六歩と雁木形を目指しましたがこれがイマイチでした。

代えて▲4六歩、▲4八金などと右辺の陣形整備を優先して、7六の歩は△7五歩▲同歩△同銀と取らせておいて(直接狙う△6五銀には▲5五角がある)特に動きがなければ▲7七銀とこちらも矢倉形に組むのが有力みたいです。
もし△8六歩打から棒銀の要領で攻めてきた場合には▲同歩△同銀にやはり▲5五角があります。△6四銀とバックできなくなっているのでこれは後手失敗です。


39手目 ▲3七角

本譜は雁木の形から▲5五角。
△9二飛は個人的には好きな手ではないのですが、この展開では仕方のないところ(実際最善手)

これは前述した棒銀の変化と比べて8筋の歩が切れていないので△9二飛に▲8四歩の追撃がなく▲5五角の威力が弱まっています。

後手は天王山の角を追い返しますが、依然として飛車は狙われたまま。
以下△3五歩と角頭を攻めていけば後手が微有利でしたが△7六歩としたために混戦に。
7筋の歩を切っておけばいつか△7三歩があるかもしれないという狙いでした。


54手目 △7五同飛

後手から積極的に動いていきます。
△5五銀と出たことで歩を使わずとも角の遮断に成功。
飛車も動き出して後手の主張が通ったように見えます。

急戦ならではのスリリングな展開で、画像の局面は▲2四歩がありました。
△同歩▲同飛に△2三歩が一見自然ですが、これには▲4四飛△同歩▲8四角の王手飛車があり先手優勢です。

なので▲2四歩には構わず△7六歩、▲2三歩成△7七歩成▲3二と にここで踏みとどまって△2二歩▲7六歩で互角の将棋でした。

本譜はこの変化を発見できず、▲7六歩としましたがこれで先手歩切れとなり後手は歩を節約できているのでいよいよ形勢も後手に傾き始めました。


65手目 ▲7六歩

とにかく先手は持ち駒がないので意表を突くような奇手が出せず、じわりじわりと動いていくしかありません。

しかしここでとんでもない奇手を指してしまいました。

それが▲7六歩。何も受けていません。
△同銀で普通に悪いです。

この手の意味は(完全に無益な情報なので読み飛ばしてもらって構わないのですが)、これは二重の錯覚が重なっていて、まず△7三桂を何故か置き物として認識していて、銀交換には▲8五銀△7五飛▲6五歩で飛車が死んでいると思い込んでいました(実際は▲8五銀△同桂で終了)。
第二の錯覚として仮に▲8五銀△7五飛が通ったとしても▲6五歩を突くことで後手の角道も開くので△7七飛成、△7七角成、△6六銀などいくらでも好手がありました。

で、先手は完全に錯覚した状態でこの手を指したのですが後手も自分なので同じ錯覚をしていて、△8四銀と引いてなんとこの手が通ってしまったんですよね。
(これでもまだ後手有利ですが)

これは自己対局ならではの現象だったので将棋の振り返りとしては適切かわかりませんが取り上げてみました。


70手目 △8五桂

この局面が先手にとって最後のチャンスでした。
▲8六歩と催促しておいて、△7七桂成▲同金の形を作っておけば一気に厚くなり 意外と後手が攻めきるのは容易でなくなり互角の形勢になっていました。

本譜は、もう形勢は悪いのでとにかく持ち駒を手に入れて暴れていかないといえないというところに意識が向きすぎて▲同桂と応じて悪くしてしまいました。


投了図

第四局のお返しとばかりに59で詰ます

あとは後手がリードを保ち続けて終局。
中盤からお互い秒読みに入っており、見慣れない形で相秒読みはかなり大変で ミスを出しながらもヒリヒリした将棋でした。



タイか、決着か。



〈第六局〉

URL:
https://shogi.io/kifus/shared/43c7de6e-893c-42ff-bd6c-01fcd993dd8e

43手目 ▲4五桂

満を持して角換わり腰掛け銀。
一手ずらし型で先手から仕掛ける変化。
この辺りはサクサク進んでいきます。

49手目 ▲4五同歩

▲3五歩に付き合わず△4四歩から桂馬を取りにくる変化。
ここは分岐ポイントで、▲4五同銀もありますが現在では先手難局と見られています。

(↓▲4五同銀の将棋の一例)

http://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/view/2022/12/16/wdoor+floodgate-300-10F+Bravo+suletta+20221216223005.csa


▲4五同歩の場合は激しい攻め合いになり、先手が後手の作戦を全て正確に突破するのは人間的には大変だと思っています。


62手目 △8一飛

正統派居飛車党の方はこの局面を見てピンとくると思います。
そうです、水匠定跡の穴の局面です。
水匠定跡ではここで▲8二歩が推奨されていますが、これはソフトが反省する変化です。

最近はたややんさんのツイートや後述する山口女流三段の解説動画によってメジャーな局面になってきましたが、対局当時はまだあまり日の当たらない局面で 自分も検討していてだいぶ苦しんだ局面でもあったのでここでケリをつけようと本局のテーマに選びました。


みんな大好き 24局面検索では3局前例がありました。
▲8四歩という手も一時期floodgateで流行った手でしたが、現在は後手満足とされています。

ソフトでも一筋縄ではいかない局面がフラッと出てくるのがこの戦型の奥深さであり面白さでもあります。

ここでの正着は▲8六歩
阿久津-大橋 戦で指された新手で、なんと最近山口女流三段が解説動画を投稿してくださいました。

https://m.youtube.com/watch?v=B14CtFhECt0&pp=ygUM6KeS5o-b44KP44KK

ちなみに▲8六歩△6六角▲7七歩までがセットで、△6六角に▲7七角は藤井-永瀬の棋聖戦の変化で後手十分です。


82手目 △6六銀

76手目に△6三金だと阿久津-大橋戦の変化で先手が良くなることがわかっているので本譜は△8五同桂と別の手段で迫ります。

少し進んで画像の局面ですが、ここであまり読み込ませていないソフトがプラス判定する▲5九角という手には△6三金▲7二角△7七桂成で後手が良くなるという罠があります。

ここでは本譜▲8五金が最善手で これで評価値は先手が抜け出すが、ここから自分の実力で本当に勝ちきれるかというのが本局試されているところです。


90手目 △7六飛

後手も猛攻して先手に迫っていきます。

ここはパッと見▲7七歩と受けたくなりますがそれだと△6七銀打からなんと詰んでしまいます

▲同飛△同銀▲同玉のとき△6六飛が強烈で、それを阻止するために画像の局面では6六に利きのある▲7七銀が正着になります。

対局中は詰んでいるとまでは思わなかったものの、相当危ないと判断して▲7七銀を選択することができました。
ここは持ち時間の半分程度を投入して指したので功を奏して良かったです。

97手目 ▲5三銀

立ち止まった方が滅ぶ 斬り合いの展開。
何が一番速いか考えて▲5四桂から強引に迫る手を選択しましたがこれは正解だったようです。

しかし△同歩と取られて次の手、ここで本譜は▲5三銀としたのですが代えて▲6四角の方が破壊力があったようです。
▲5三銀には△3一玉と避難する手があり、これも壁形で後手が苦しい展開ですが手としては一番粘っていました。

本譜はこのような壁形を咎められる展開を嫌って△同金と応じましたが依然先手の手番でかなり危ない展開です。


108手目 △8三玉

本譜は▲8四金から寄せていきましたが、ここは細かいところで▲7四金で詰みがありました。
△9二玉に▲8四桂と打てるのがポイントです。

壁形を避けて広い方に逃げたつもりでしたが、それでも持ち駒が潤沢で厳しいです。


投了図

投了図に至るまで何度か即詰みがありましたが、詰めろで迫るだけでもずっと先手のターンが続いて後手はなす術無し。
定跡・研究で手に入れたリードをそのままにぶっちぎった将棋で、先手目線 最終局にして今までで一番出来の良い将棋になったと思います。



最終結果


さいごに

一日一局のペースでやっていたので約一週間でしたが良い定跡整理になりました。
事前準備も対局も局後検討も自戦記も全て一人で完結するのでかなり自由がききますね。
その分それぞれの思考リソースは単純計算で半分になるし、第五局の相うっかりのような不具合もあるので上達方法として取り入れるというよりは娯楽の一つとしての付き合い方が適切なのかなと感じました。
ネット将棋に潜れば同じ棋力の相手とは当たれますが、本当に寸分違わず同じ実力の存在を相手に将棋を指すというのはこうでもしないと実現しないので新鮮でした。

────と言っているうちに もう棋戦が始まりそうで、これを書いている日の夜から第七期ゆかなか竜王戦が始まります。(対局自体は一週間でしたが振り返りに思ったより時間がかかりました)

新たな闘争を、自分一人では思い付かない未知の構想を求めて また今日も将棋の宇宙を進んでいきます。
それじゃあ。

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