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エモ太郎爆誕

むかしむかしは埼玉県だったのにもかかわらず
「都民になりたい」
という住民運動が起きて25番目の区となった街に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
(因みに24番目に区になったのは「夢の国」を有するあの街。これで名実ともに東京の名を冠するテーマパークになったのでした)

お爺さんはシルバー人材センターから仕事を貰って、大きな御屋敷の芝刈に、
お婆さんは家でInstagramにアップする写真の加工をしました。

川に洗濯?洗濯はドラム式洗濯機でやります。それに女性は家事という硬直した発想は、ジェンダー的にも考えモノですよ。でも安心してください。川には行きます。老夫婦は「高齢ハイカー」なのです。

二人は全身モンベル装備で身を固め、山梨県にある「西沢渓谷」へハイキングに出かけました。お爺さんとお婆さんが「七ツ釜五段の滝」の少し手前の川辺で休憩していると

コンプラコ。コンプラコ。
と大きな桃が流れてきました。お婆さんはいいました。
「ワオ!映える」
そしてお婆さんが、ウェストポーチからスマホを出そうとすると、お爺さんはいいました。
「そんな写真撮ってネットにアップしたら、桃を食べられなくなるよ。所有権を主張する人が現れたら窃盗罪になってしまう。現実の味覚を楽しむか、承認欲求を満たすか、どっちかにしなさい」
お婆さんが「食べたい」というと、お爺さんは側にジャブジャブと入っていき桃を川辺へ運びました。
その間お婆さんは、こっそり写真を撮ります。
(別に、食べてるところを撮らなきゃ問題ないでしょ。男は頭が硬い)

お爺さんが、アウトドア用のナイフで桃を切ると、種のあるはずの芯の部分から玉のような男の子が出てきました。
お爺さんは腰を抜かして驚きました。そして「どうしよう。どうしよう」とオロオロしていましたが、お婆さんは冷静にいいました。
「よし、育てよう」
「え?どういうこと?」
「だから、私たちで育てるのよ。Instagramでも子育て風景は、受けが良いのよ。スポンサーもつきやすくなるし、これで私もママブロガーね」
「だって、お前、出産できる年齢じゃないだろ」
「ネット上ではアラサーなのよ」
お婆さんは事も無げにそういいます。
「でも、お前、桃から生まれたというのは、生物学的に大丈夫か?」
お爺さんは不安そうにいいます。
「あなた。皇太子殿下をフッた女のこと覚えてる」
「ああ、『かぐやさん』でしょ。あれはニュースになった」
「あの子。竹から生まれたのよ」
「えっ。なんで知ってるの?」
「2ちゃんに書いてあった」
お爺さんは、大きく溜息をつきましたが、お婆さんに逆らう事もできず。赤ん坊を育てることに、渋々納得しました。
「そうだ。名前をつけないと!」
お婆さんは喜んでそういいました。

次話 かぐや様はバズらせたい

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