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黄金を運ぶ者たち10 スーパーキャツチ②

 一時間ほど後、いつもの北千住「サンローゼ」にて、ナポリタンを食べている僕の前に利根川が現れた。もともと話が終わったらそこでテキトーに落ち合う予定だった。

「真田さん、イロイロ申し訳ない。フォローもできず」
 利根川はまず頭を下げ、正面に座った。
「利根川さんが言ってた意味もわかりましたわ。最初からあれじゃ無理ですね」
「まあ、こうなるかなぁとは多少。あの後『やっぱり真田は暴力人間だったろ。わたしは試したんだ。わたしの人を見る目に狂いがない』と力説してましたよ。それから『真田には友人犠牲にしてまで税関に全部話す度胸はない』と。台湾航路続きますね、こりゃ。暴力人間が度胸がないって矛盾してますけどね」

 利根川さんは一転して呆れた口調でそう言う。
(潔いくらい調子のいい人だなあ)
 僕は悪意ではなくそう思ったが、もちろんそれは口には出さない。

「ところで金主が直接回収ってホントなんですかね」
「そこらへんは冴島さんに確認しときます。おまかせ下さい」
 利根川は自分の胸をドンと叩く。

「そういえば、堀の罰金っていくらくらいになったんですかね」
「四〇〇万くらいって話でしたよ」
「堀は四本持ちでしたよね」
「そうですよ」
「ということは、僕は六本だから、罰金五〇〇から六〇〇万ってとこですね」
「まあ、そうなりますかね」

 そこで、僕は利根川の目を黙ってじっと見た。
「どうしました真田さん。改まって?」
「じゃあ、税関にある程度話して、その額の罰金払えば、六本手に入るということなんですよね」
「それは、まあそうですが、さすがにそれは」
 利根川は豪快そうな言動とは裏腹に、気が小さいのは知っている。そう言うであろうとは思った。
「冗談ですよ。冗談」

 利根川が難色を示したのを感じ取った僕は、すぐに話を流したが、心はもう決まっていた。罰金分をかき集め、六本を手に入れ、それを毛沢東の知らないところで運用する。これほど痛快なことはあるまい。

利根川とはそれから一時間ほど雑談してから解散し、すぐに仙道に連絡を取り、六本奪取と運用の計画について簡単に説明した。
 仙道に率直にどう思うかと尋ねると
「利根川さんが乗ってこないと売り買いできないから、運営できませんよね。そこはどうするんですか?」
 とまず質問してきた。
「それは特に気にしなくて良いと思う。奪取さえすれば、後は目の前に金塊あれば乗らないわけがない」

 彼はなるほどと理解し、二つ目の質問をぶつけてきた。
「真田さんの取り調べを考えると、税関の動きも気になるところですが、大丈夫ですか?」

 これについては何とも言えない。賭けだ。だが、毛沢東から運び屋を引き剥がさないと中止に追い込めない、そのためには運び屋たちに仕事を与えないとなるまい。とりあえず短期間やって休止が良いと思うと答えた。

 最後に一点だけということで、三つ目の質問があった。
「奪取した六本は最終的にどうするつもりですか?」
「結局、毛沢東のお金じゃないから、罰金分調達したら、利根川さん通じて金主に返却だよね」
 質問への回答に納得すると、彼は「是非協力させて下さい」と答え、自分の役割について尋ねてきた。

「とりあえず仙道くんの方では、毛沢東とカチ合わない台北以外の航路を考えてもらう。僕は僕で利根川さんには投資家みつかりそうとだけ情報流しとくから、利根川さんと7月頃から運用するロジを相談しておいてもらえないかな。あとは奪取の時に使う運び屋の調達だよね、できるだけ利根川さんとも関係ない人がいいなぁ。日程は未定だけど、目星だけはつけておいて」

 最後に、何かの拍子で利根川の前で奪取や六本というキーワードを使わないよう、計画にコードネームをつけたらどうだろうという提案が仙道からあった。
「スーパーキャッチどうだろう。摘発がキャッチだからさ」
「了解です。スーパーキャッチ計画。やりましょう!」

次話 積み戻し①

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