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黄金を運ぶ者たち14 初めの三人その後②

 さて、シンガポールから香港に着いた僕は旺角に向かい、またドーセットに泊まった。このホテルは値段も手ごろで、サービスとして、部屋にタダで使っていいスマホが置いてあり、これに連絡をもらえれば証拠も残らず安心ということで、特にお気に入りの宿となった。

 シンガポールでは睡眠時間が短くなってしまい、移動の疲れもあり体は重かった。一度部屋に入ってしまえば夕食に行くのも億劫と思えたので、駅近くの路上に漂う官能的な匂いに誘われるがまま、豚角煮ぶっ掛けご飯ザーサイ付をテイクアウトして、ホテルにチェックイン。そのまま部屋に籠もった。

そして仙道から連絡があった。岡島と大崎の生還及びその波乱の物語を聞いたのはこの時になってからだ。それが一区切りついたところで、仙道は次のポーターである小森のことを話し始めた。
「いや~。小森さんには参っちゃいましたよ。『渡航の日程のことなど相談したいから、ご飯でも食べながら』ということで、六本木でちょっと飲んだんですが、渡航の話はそこそこで 『ホテル行こう』『若いエキスが吸いたい』とか始まっちゃって。僕がやんわり断ると『サンピーしたことある?友達呼ぼうか?』とか言い出しまして。なんか気持ち悪いじゃないですか。熟女とか興味ないですしね。ましてねえ」
「へ~いいじゃない。仙道くんはてっきりマザコンかシスコンじゃないかと思ってたよ。偉大なトランジットの魔術師様への接待でしょうよ」

 僕は軽口をたたき仙道をからかった。彼は慎重とりいうより、気が小さいが故にそれがハニートラップだったとしても乗れまい。全て見越して小森が仙道をいじって遊んでいるだけのような気もする。
「よしてくださいよ。何かありますよ。利根川さんにもギャラを倍にしてくれとねじ込んでるみたいだし、独立の噂も聞いてます。小森さん次ですよね。大丈夫でしょうか」

 仙道はまじめに心配しているようである。
「そもそも旅程組んだの仙道くんだろ。今更言ったってどうにもならんけど。まあなんもないよ。小森さんはああ見えてしっかりしてるし、人を裏切ったりするタイプじゃない」

 僕はあっさりとそう答えたが仙道は「どうでしょうか」と半信半疑の様子だった。
「ところで、どうやってその場を逃げたんだよ、そこまで言ったらむこうも引っ込みつかないだろ?」

 仙道のその場の凌ぎ方が気になるところである。
「しょうがないから言いましたよ『僕ゲイなんです。実は真田さんと…』って、案の定引きましたわ」
 なるほど。その手か!僕は思わず膝を打った。だが一言注意せねばなるまい。
「真田さんと…は余計だよ!」

 仙道からの電話を切って、僕はうつ伏せでベッドに身を投げ出し目を閉じた。そして「スーパーキャッチ」の成功という事実で生じた心の昂ぶりと、ここ数日のめまぐるしい忙しさで生じた体の疲れが、はじめせめぎ合い、やがて疲れが勝り、自分がまどろみゆく快感に身を任せていた。
途切れ途切れの意識の中で、ふと「初めの三人」の顔が浮かび、彼女たちをスカウトした時にイメージした「ドラえもん」の人間関係(のび太・スネ夫・ジャイアン)が、後々考えるとこの三人にうまく当てはまらなくて、もどかしい思いをしていることを想い出す。アニメのキャラクターと彼女たちの性分が微妙に一致しないのだ。

 意識は次第に薄れていったが、三人だけでなく僕も加えた四人にすればうまく納まることに気づいた。(岡島がのび太で、小森がスネ夫、西野はドラえもん、僕がジャイアン)パズルのピースがピタリとはまった心地良さがじわりと広がり、闇が訪れる。
(そうか。僕がジャイアン。でももっと相応しい人がいるような…)
刹那、妻の顔が頭をよぎったが、僕は自分の口元に満足の笑みが浮かぶのを感じて深い眠りに落ちた。

次話 バイヤー

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