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【元祖P2Eはどう進化したのか?】改めてAxie Infinityのホワイトペーパーを読む

まえがき

以下の記事にもあるように、Play to EarnゲームのパイオニアであるAxie InfinityはPlay-to-Earnモデルの欠陥を認め、方針転換を明言しています。

“As the pioneers behind the first play-2-earn game, I can say with confidence it does not work in its current state. Games need to be fun first with a solid economy backing, which can enable some players to earn.”
(初めてのP2Eゲームのパイオニアとして、私は確信を持って、このモデルは今のままではうまくいかないと言うことができる。ゲームはまず、楽しいものでなければならず、さらに、プレイヤーが稼ぐことを可能にする確かな経済的裏付けが必要だ)

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今回、Axie Infinityのホワイトペーパー(2023年2月時点)を改めて読み解き、彼らがPlay-to-Earnの反省を踏まえて、どこに進もうとしているのかを見てみたいと思います。

※厳密に過去のWPと比較しているわけではないため、以前から言及されていたポイントも含む可能性があります。

なお、複数ポイントを取り上げていますが、個人的な白眉は「Axieがどう分散化を達成するのか?」についての部分(本稿のポイント⑦)です。時間ない方はそちらだけご覧いただければと思います。

ポイント①:Play and Earn

もともと「Play to Earn」ゲームの雄として名を成したAxieですが、現在は明確に「Play and Earn」をコンセプトとして明言しています。ホワイトペーパー上でも「楽しみながら、金銭的な価値を持つリソースの獲得を目指せる」といった書き方がされています。

A key difference between Axie and a traditional game is that Blockchain economic design unlocks the ability to have complex player-owned economies and reward players who are able to reach advanced levels of skill. Players are able to have fun and work towards ambitious goals while simultaneously earning potential resources that will have real monetary value due to an open economic system and demand from other players - “Play-and-Earn”(Axieと従来のゲームとの主な違いは、ブロックチェーンによって、プレイヤーが所有する複雑な経済圏と、高度なスキルに到達したプレイヤーへの利益還元を実現できる点。プレイヤーは楽しみながら野心的な目標に向かって努力することができ、同時にオープンな経済システムと他のプレイヤーからの需要によって実際の金銭的価値を持つ潜在的な資源を獲得することができます。"Play-and-Earn "です)

Official Axie Infinity Whitepaper

そして、プロジェクト自体のミッションとしては、ゲーマーたちから始まるすべてのインターネットのユーザーに「所有権(property rights)」を届けること、を掲げています。

We're here to create an ecosystem of amazing Axie gaming experiences with community and player-owned economies as foundational pillars. By doing this we will deliver property rights to all users of the internet, starting with gamers.(私たちは、コミュニティとプレイヤー所有の経済を基礎的な柱として、素晴らしいアクシーゲーム体験のエコシステムを作るためにここにいます。そうすることで、ゲーマーから始まるインターネットのすべてのユーザーに所有権を提供することができます)

Official Axie Infinity Whitepaper

ポイント②:IPとしてのAxie

シンプルなモンスターカードゲームとして始まったAxieですが、現在「Axie」は明確にIPとして把握されており、AxieのNFTはIPとしてのAxieを活用した多様なIPコンテンツ群への入場チケットのようなもの、という整理がされています。

Axie Infinity is structured as an open-ended digital pet universe. Axie NFT assets can be seen as tickets that grant access to all current and future experiences build on top of the Axie IP. In this way, Axies serve as base layer for a world of infinite experiences.(Axie Infinity は自由なデジタル・ペット・ユニバースとして構成されています。Axie NFTは、Axie IP の上に構築された現在および将来のすべての体験にアクセスするためのチケットと見ることができます。このように、Axieは無限の体験の世界のベースレイヤーとして機能します)

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ポイント③:Sky Mavisのマネタイズ

開発者であるSky Mavisはユーザーへの販売によって儲けることよりも、「プレイヤー所有の経済圏」を成長させることに注力する、と表明しています。

Axie has a 100% player-owned, real money economy. Rather than selling game items or copies, the developers of the game focus on growing the player to player economy.(Axieは、100%プレイヤー所有のリアルマネーエコノミーを採用しています。ゲームの開発者は、ゲームアイテムやコピーを販売するのではなく、プレイヤー間の経済を成長させることに重点を置いています)

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その実践として、Sky Mavisのマネタイズポイントは、マーケットプレイスの取引手数料ではなく(これはトレジャリーにいく)、AXSのバリューアップである、とのスタンスをとっています。

Marketplace fees go into a Community Treasury whose usage will be guided by AXS holders. The developers monetize through their ownership of AXS tokens. (マーケットプレイスの利用料は、AXSホルダーが使用方法を指導するコミュニティ・トレジャリーに入ります。開発者はAXSトークンを所有することで収益化します)

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イメージとして、Axieは現実の経済を持つ一つの国家であり、その国家においてAXSのホルダーは税収を受け取る政府のようなもの、と説明されています。

You can think of Axie as a nation with a real economy. The holders of the AXS token are the government that receives tax revenues.(アクシーは、現実の経済を持つ国家と考えることができます。AXSトークンの保有者は、税収を受け取る政府である)

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ポイント④:経済圏安定化の3手法

過去の反省も踏まえてか、Axieの人口増加は速すぎても、遅すぎてもダメであり、適切にコントロールする必要がある旨が述べられています。

Axie population growth is a major factor within the Axie ecosystem. At any given moment, there exists some ideal inflation rate that allows us to grow to our maximum potential. Too slow and Axie prices are too high for everyday people to join; especially competitive Axies. Too fast and you get unhealthy inflation. (アクシーの人口増加は、アクシーの生態系の中で大きな要因となっています。どの瞬間にも、私たちが最大限の成長を遂げることができる理想的なインフレ率が存在するのです。遅すぎると、Axieの価格が高すぎて、一般の人は参加できなくなります。速すぎると、不健康なインフレになります)

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その上で、新規流入にだけ依存する経済圏(いわゆるポンジ)から抜けて、経済圏を安定化のための方策として、以下を挙げています。

  1. Axieへの価値あるユーティリティの追加(Additional valuable utility to Axies)

  2. 純粋な水平方向ではなく、垂直方向への進行(Vertical, rather than purely horizontal progression)

  3. アクセシビリティの改善(Accessibility improvements that help unlock sustainable value)

1つ目はシンプルに、現状のバトルゲームだけでなく、ランドやミニゲームなどでAxie自体の使い道を増やしていくといった意味合いです。

2つ目はわかりづらいですが、現状は単にAxieの数を増やす(純粋な水平方向)ことがバトルゲームを有利に進める方法になっているが、今後はAxieを含めたアセットのアップグレードが追加され、そのアップグレードのためにAxieをバーンしてクラフト素材を入手する、などのインフレ防止の機能が入ることを指しているようです。

3つ目はAxieオリジンで実現されているように、Free to Playで遊べるようにするなど、新規プレイヤーの参入ハードルを下げることを指しています。

ポイント⑤:外部の資金源

ゲーム経済圏の拡大に伴い、外部経済圏からの資金流入を見込んでおり、具体的には以下の3つを挙げています。

  1. 広告とスポンサーシップ

  2. マーチャンダイズ(フィジカル/デジタルどちらも)

  3. オフラインイベント

1つ目については、Axieはブロックチェーン技術の使い方を理解した人々の世界最大のコミュニティであるため、そうした層にリーチしたい広告主のニーズがある、と説明されています。2つ目は、アートNFTやTシャル、ぬいぐるみなどのAxie IPを活かしたグッズ販売、3つ目は世界中のAxieコミュニティがリアルイベントを開催することで発生する収益を指しています。

ポイント⑥:Lunacia SDKによるスケーリング

将来的には、Lunacia SDKというマップエディターツールを提供し、プレイヤーがAxieのアセットを活用してゲームコンテンツを作れるようにする予定とのこと。そのゲームコンテンツ自体がNFTとして取引可能で、Axieのマップ上に設置して誰でも遊べるようにすることが可能となります。

参照:https://whitepaper.axieinfinity.com/gameplay/land/lunacia-sdk

運営としては、これを「ゲーム制作の分散化」の過程と位置付けています。

Through this process, we aim to gradually decentralize the game creation aspect of the Axie universe. It will be impossible for one team to built out all the content needed for Lunacia, especially if we reach hundreds of millions of users. User generated content is a scaling strategy for new experiences.(このプロセスを通じて、私たちはAxieユニバースのゲーム制作面を徐々に分散化することを目指します。ルナシアに必要なすべてのコンテンツを1つのチームが作り上げることは、特に数億人のユーザーに到達した場合、不可能になります。ユーザー生成コンテンツは、新しい体験のためのスケーリング戦略なのです)

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ポイント⑦:漸進的な分散化

Axieはスタンスとして、最終的にはコミュニティによってゲームが所有されること、開発元のSky Mavisによる中央集権ではなく、ユーザー主体の分散型での運営を目指しています。

Four years ago, we set out to build a new type of game— a game dedicated to the idea that players deserve ownership of their in-game assets as well as the universes they spend their precious time in.(4年前、私たちは新しいタイプのゲームを作ろうと思いました。それは、プレイヤーがゲーム内の資産と、貴重な時間を過ごした宇宙を所有する資格があるという考え方に基づいたゲームです)

Official Axie Infinity Whitepaper

we believe that equitable communities are the foundation of our gaming future, and we are aggressively moving towards demonstrating their potential with Axie Infinity. We believe that this is the path towards creating gaming that’s longer lasting, more rewarding, and above all, more fun!
(私たちは、公平なコミュニティがゲームの未来の基盤であると信じており、Axie Infinityでその可能性を示すために積極的に動いています。 これこそが、より長く、よりやりがいのある、そして何よりも楽しいゲームを作るための道であると信じています)

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そして、ユーザーによるゲーム所有の核となるのがコミュニティ・トレジャリーの解放(ユーザーがトレジャリーの用途を決定できるようにすること)ですが、その時期については非常に慎重に判断する必要がある、としています

It’s hard to govern what might be non-intuitive to understand. Additionally, there are many outstanding operational and legal considerations that need to be approached carefully. In short, we believe that unlocking this pool of capital before the community ecosystem is prepared will likely result in inadvertent long term harm to our above stated vision for Axie Infinity.
(直感的に理解できないかもしれないものを統治するのは難しい。 さらに、運用や法的な検討事項が数多くあり、慎重に取り組む必要があります。 つまり、コミュニティのエコシステムが整う前にこの資本プールを開放することは、上記のAxie Infinityのビジョンに長期的に不測の損害を与える結果になる可能性が高いと私たちは考えています)

Official Axie Infinity Whitepaper

具体的な分散化の進め方については「漸進的な分権化」を表明しています。

Therefore, when considering the overall governance of Axie Infinity and the Community Treasury, we think it’s important to practice progressive decentralization.(したがって、アクシーインフィニティやコミュニティトレジャリーのガバナンス全体を考えた場合、漸進的な地方分権を実践することが重要だと考えています)

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どの程度”漸進的”に進めるかについて、具体的なスケジュールを引くことは避けており、代わりに分散化を3つのフェーズに分け、一定の基準を達成したら次のフェーズに移行する、という計画を置いています。

著者作成

なお、Axieはホワイトペーパー上でDAO(Decentralized Autonomous Organization)ではなく、DO(Decentralized Organization)という言葉を使っています。なぜDAOではなくDOか?について明確な言及はありませんが、推測すると、「プレイヤーによる所有」というあくまで人間による意思決定を最終的な理想とする以上、「Autonomous(自律的)」という要素はそぐわないと判断したのかもしれません。

なお、DAOとDOの違いについては、Ethereum考案者のVitalik Buterin氏のブログ記事(2014年)で触れられています。具体例で捉えると、談合的な動きに対して、DAOはプログラム上でバグとして処理されるが、DOではそれは機能として受け入れられる、ということになるようです。

The obvious difference between a DO and a DAO, and the one inherent in the language, is the word “autonomous”; that is, in a DO the humans are the ones making the decisions, and a DAO is something that, in some fashion, makes decisions for itself.(DOとDAOの明らかな違い、そして言語固有の違いは、「自律」という言葉です。つまり、DOでは人間が意思決定を行いますが、DAOは何らかの方法で、自ら意思決定を行うものなのです)

DAOs, DACs, DAs and More: An Incomplete Terminology Guide

My own effort at defining the difference is as follows. DOs and DAOs are both vulnerable to collusion attacks, where (in the best case) a majority or (in worse cases) a significant percentage of a certain type of members collude to specifically direct the D*O’s activity. However, the difference is this: in a DAO collusion attacks are treated as a bug, whereas in a DO they are a feature.
(その違いを定義するための私なりの努力は以下の通りです。DOとDAOはどちらも談合攻撃に弱く、(良い場合は)ある種のメンバーの過半数、悪い場合はかなりの割合が談合してD*Oの活動を具体的に指示することがあります。しかし、DAOでは談合攻撃はバグとして扱われるのに対し、DOでは機能として扱われる、という違いがあります)

DAOs, DACs, DAs and More: An Incomplete Terminology Guide

上記でVitalikが触れている問題点(分散化しても談合といった問題は残る)、および、現状のWeb3のガバナンスの実態が非常にお粗末なものであること(一部の”クジラ”がガバナンスを牛耳ってしまう、など)についてAxieチームは非常に自覚的であり、分散化した際にガバナンスを「実質的で意味のあるもの」にするためにいくつかのアイデアを持っています。

  • ボーティングの修正要素としての”Axieスコア”:AXSの保有量だけでなく、Axieエコシステムへの貢献度を「Axieスコア」として可視化し、ボーティングパワーに反映する仕組みを検討

  • プレイヤー主導の評議会の創設:専門家たちによる多様な意見・提言がガバナンスの重要な提案の作成に反映されるようにする

  • 二次投票(クアドラティック・ボーティング):投票者が一定数の投票権を持ち、それを賢く使わなければならないように促す仕組み。例えば、AXSのステーキングにより譲渡不可能な投票権が生じ、その投票権を使用するとバーンされる、といった形。
    ※ややわかりにくいので、二次投票についての一般的な解説はコチラの記事などを参照ください

まとめ

改めて読んでみて、Play to Earnゲームとして世界を席巻した後、長期の停滞も味わったAxieチームの葛藤の過程が反映されている気がして非常に面白かったです。

特に「Decentralized Organization」の項は、Axieチームが当初から掲げてきた「コミュニティが所有するゲーム」という理想を、実際の現実とすり合わせながらどう実現していくか、という大きなテーマについて彼らなりの回答が明確に示されていて、読み応えがあります

豊富な資金力と、経験豊富なチーム、そして、強固なコミュニティを武器に、今後Axieがどこまでホワイトペーパーで語られる壮大な理想を実現していくのか、引き続きウォッチしていきたいと思います。

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