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152夜 LIVE IN TOKYO / Public Image Ltd

珍しい選曲だなと自分でも思っています。
パブリック・イメージ・リミテッド(P.I.L)は、セックス・ピストルズを解散した後、フロントマンだったジョニー・ロットンが名前を改めて結成したオルタナ・バンドです。

パンク・ムーブメントの隆盛をリアル・タイムで経験した世代にとって、セックス・ピストルズは避けて通れません。
ただ、のめり込んだかと言えば、個人的にはそうでもなかったのです。
衝撃力が大きかったので、強い爆風を浴びはしましたが、彼らの音楽を好きになったのではなく、その主張や方法論、ファッションなどに影響を受けたという感じです。

大学卒業前に行ったロンドンでは、キングスロードの「ROBOT」でピンクと黒のコンビのラバー・ソウルを買ったり、社会人になってからもスーツの下にビビアン・ウェストウッドの小物を忍ばせたりしていました。
(ラバー・ソウルは、結局、一度も履くことなく、今も箱に入ったままになっています。もうゴムが死んでるだろうな・・・。)

さて、P.I.L です。
この1983年の中野サンプラザには行きました。

あの頃、ロックを殺し、パンクを捨て、レゲエに傾倒したジョン・ライドンには困惑していました。
パンク時代もその後も、あまり音楽的に魅力があるように感じられなかったので、この段階でもどう評価してよいかよく分かっていませんでしたし、正直なところ他の音楽に関心が向いていたのです。

それなのにライブに出かけたのは、気になって仕方がなかった女性が彼らのファンだったからです。

高校に入学した時の自己紹介で、「好きなバンドは、キング・クリムゾンです」と言ったのは、「どうせ誰にも分からないだろう」という捻くれた自己顕示だったのだろうと、恥ずかしくなります。
ただ、このバンドを知っている娘がクラスにいたのです。
その時はまさかキング・クリムゾンに食いつかれるとは思っていなかったことと、女性から話しかけられたことに驚いてしまって、しどろもどろになりました。

ファッションや言動がエキセントリックで、独特の雰囲気のある女の子でした。
彼女とは特に親しく学生生活を共にしたということは無かったのですが、特に距離を置くということもなく、普通に接していました。
ただ、私の中では「キング・クリムゾンを聴いている」というだけで他のクラスメイトとは別格になってしまい、意識しすぎてしまっていたかもしれません。

彼女が「もうジョニー・ロットンじゃないんだよ」と言いながら、P.I.L の「メタル・ボックス」を聴くように勧めてくれた時は、買えなくて聴けませんでした。
「フラワー・オブ・ロマンス」を聴けと勧めてくれた時の彼女は、レゲエやクラシックなどへの関心が強くなっていて、プログレにのめり込む私はちょっと距離を感じてしまい、素直に耳を傾けられませんでした。
それよりも、スケベ高校生だった私は彼女を女性として意識してしまい、せっかくの音楽や芸術の感性を広げるチャンスを逃してしまっていたのです。
もっと親しくして、もっといろいろな話しをしておけばよかったと、残念に思います。

高校を卒業すると彼女は音大のピアノ科に入り、私は1浪して美大に入り現代美術を専攻します。
このライブは、大学生時代に彼女と行ったはずです。
「はずです」というのは、残念なことに当日の記憶がほとんど無いのです。
あの頃はいろいろな人とライブに行っていたということもあるでしょうが、ステージの様子は少し思い出せるのに、その前後が全く思い出せません。

ライブは意外と普通のロック・バンドの公演という感じで、演奏は手堅くまとまりがありました。
ジョン・ライドンのファッションや、電気の輪っかを首に巻いて歌う演出が印象的でした。
隣にいたはずの彼女はどんな服を着ていたっけなぁ。

就職する頃にはすっかり縁が切れてしまい、今ではどこでどうしているか分かりません。
人生でもう一度やり直したいと思うことは数えきれないほどありますが、彼女との関係を続けられなかったことは後悔していることのひとつです。
もっと彼女と出会えた奇蹟に感謝して、彼女のことを大切にしておけばよかった。

もう2回も繰り返し聴いたことだし、今まで忘れていたような過去の記憶を掘り起こしてセンチメンタルな気分に浸るのはほどほどにしよう。
テーマ曲は「(This is  not a )Love song」でどうだ。